「寝たきりから歩けるように」「認知症が改善」…多くの人が<老健に入所するだけ>で元気になる理由とは。介護の専門家「高齢者に必要なものは医療ではなくケア」

2025年5月29日(木)6時30分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

厚生労働省が公表した「介護職員数の推移」によると、2023年度の要介護(支援)認定者数は705万人で、年々増加傾向にあります。そんななか、「介護者の人生を優先してほしい。そして在宅介護に困ったら、施設に入れることに罪悪感を持たないでほしい、入所をためらわないでほしい」と話すのは、介護老人保健施設に勤める医師・田口真子さん。今回は、田口さんの著書『最高の介護 介護のお医者さんが教える満点介護!』から一部を抜粋しお届けします。

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寝たきりの人が老健のリハビリで歩けるように!


病院から入所してきた松田さんは入所時寝たきりで、尿道に管が入った状態でした。体幹の筋力がないため車いすにも座れず、リクライニング型の車いすに乗っていただいていました。「そこに赤ちゃんがいっぱいいる」と幻視もあり、介護しようとすると強く嫌がりました。

それでも毎日ベッドから起こし、リクライニング型の車いすに乗っている時間を増やし、リハビリで体幹を強くしたところ、しっかりオシッコを出せるようになって尿道の管が外れ、3ヵ月後にはなんと歩行器で歩いていたのです。

活動量の増加にしたがって幻視も減り、笑顔あふれる人気者になりました。

さすがにわたしも驚く松田さんの回復ぶりでしたが、老健ではこういうことが決して珍しくありません。

多くの人が「老健に入所するだけ」で元気になる


実は松田さんだけではなく、多くの人が「老健に入所するだけ」で元気になります。わたしの20年の体感では8割強の方が元気になります。

もちろん全員ではなく、一部、どんどん弱っていく方、入所してすぐ入院や看取りとなる方もいないわけではありません。でも平均年齢80歳超えの高齢者、しかも要介護者が入所する施設なのに8割元気になるってすごいことではないでしょうか。


『最高の介護 介護のお医者さんが教える満点介護!』(著:田口真子/講談社)

結局、規則正しい生活、栄養を考えた食事、適度な運動、人とのつながり、これが元気の秘訣なのだと思います。これらを強制的に行う場所、それが老健だから、皆さん元気になるのです。

朝は決まった時間に食堂に連れてこられ、栄養管理された食事をしっかり食べ、寝たいと言ってもリハビリに連れていかれ、いろんな人に話しかけられる。この生活の結果、病院で治療を受けていた時よりずっと元気になるのです。

高齢者に必要なものは医療ではなくケアなのです。

老健入所で認知症も改善!


ちなみに、老健に入所するだけで認知症も改善します(図1・図2)。

わたしの施設で2017年1月から2018年3月まで新規入所した120名のうち検査ができた71名について入所時と入所後3ヵ月のMMSE(認知症の評価をする神経心理テストの一つで長谷川式検査とよく似た検査。30点満点で27点以下を軽度認知症、21点以下を認知症疑いと判断)を比較したことがあります。

71名のうち52名は3ヵ月後のMMSEスコアが改善し、低下した人は15名でした。低下した15名の人は、もともとMMSEが1桁の重度認知症だった人や入所後すぐに体調を崩した人がほとんどでした。また、低下した15名のうち7名は部屋にこもりきりでほかの方との交流が極端に少ない人たちでした。

また、71名のうち10名は入所前にドネペジル(アリセプトのジェネリック医薬品)など抗認知症薬を内服していました。

わたしの施設では抗認知症薬は入所時に中止する方針ですので、この10名についても薬を中止していただきましたが、それでもうち7名は3ヵ月後MMSEが上昇しました。

同じ効果はデイでも期待できます。決まった時間に決まった場所に行き、体を動かし、ほかの人と交流するからです。認知症をたくさん診ている精神科の先生は「認知症の薬を飲むより、デイに行くほうが効果があるよ」とおっしゃいます。わたしもまったく同感です。

※本稿は、『最高の介護 介護のお医者さんが教える満点介護!』(講談社)の一部を再編集したものです。

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