「五十、六十の手習い」で得た喜び。作家の大岡昇平さんはピアノがなかなか上達しなくて…工学者・糸川英夫さんは還暦を過ぎてバレエ団へ

2025年5月29日(木)12時29分 婦人公論.jp


(画像:stock.adobe.com)

創刊以来、《女性の生き方研究》を積み重ねてきた『婦人公論』。この連載では、読者のみなさんへのアンケートを通して、今を生きる女性たちの本音にせまります。最近人気の大人の習いごとは、趣味として、スキルアップのためなど、取り組む理由も人それぞれ。今回は、教室・講座を選ぶ際に何を参考にしているかを聞きました。

* * * * * * *

5よりつづく

【回答者数】243人 【平均年齢】57.6歳
【回答者の内訳】20代以下…11人/30代…16人/40代…25人/50代…70人/60代…74人/70代…39人/80代…2人/90代…2人/不明…4人

子どもと同じ進歩でも


年齢を重ねてから、新たに習いごとを始めた人の実感は?過去の『婦人公論』に著名人が明かした心のうちをご紹介しましょう。

トップバッターは、1963年6月号に「五十のピアノ手習いの記」というエッセイを寄せた、作家の大岡昇平さん。

胃潰瘍で療養生活を送ることになった大岡さんは、ひまつぶしにピアノを始めることに。しかも、演奏と作曲を同時に学ぶという無謀とも言える挑戦です。

目標にぴったりの指導者を見つけ、始めたものの、なかなか上達しません。


〈四ヵ月経った現在やっとバイエルがあがりかけている程度で、私が十歳の子供とまったく同じ進歩の仕方しかしないのに〔先生も=引用者注〕少し呆れていられるようである。しかも毎日三時間から四時間、どうかすると六時間ピアノの前へ坐っていた結果なのだから、なんともおはずかしい次第である〉


一方、望外の喜びもあったようです。


〈ある日、中原中也の「夕照」に節をつけてみた。(略)実はそれを作るのに、中原中也論を書いている時にも感じなかったほど喜びを感じたのである。私の亡友に対する愛惜は自然に現われたし、彼の詩と人物を批判することが出来たような気がしたのだ〉



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人生の隙間に入ったスプリング


お次は「日本のロケット開発の父」とも言われる工学者・糸川英夫先生。

還暦を過ぎてバレエ団の門戸を叩いた顚末を、彼のバレエの師匠・貝谷八百子さんとの対談の中で明かしました。


〈身体を動かすことと、音楽が好きだということが、今、自然にバレエに結びついたんだと思います〉(「六十の手習い」76年2月号)


ドラマティック・バレエを広めた貝谷さんは、著名な糸川先生に対しても、


〈基礎は基礎ですから、どんなに偉くても、どんなにアホでも、やることはやっていただかなきゃならない〉


と容赦がない。糸川先生も


〈足がはじめは六〇度ぐらいしか上がらなかったけど、このごろ九〇度になった。あと九〇度上げるつもりなんです〉


と研究熱心です。ついには『ロミオとジュリエット』のモンターギュ家の父親役として、帝劇の舞台に立ったとか。糸川先生はバレエの副産物について、次のように語っています。


〈今は生きる張合いになっていますね。(略)人生の(略)隙間だったところに、そこにスプリング〔ばね〕が入って、とても調子よく動くようになったから、本職の仕事のほうで少々の問題がおこっても、へこたれない、頑張りが利くようになった〉



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ヨーガのご利益にちがいない


最後は、女優の加藤治子さん。健康のために、近所のヨーガ教室に通い始めたのは55歳前後の時だそうです。


〈血液の循環もよくなって、心身とも快調で、風を引いて寝込むということもなくなりましたし、この間は、舞台でも姿勢がよいとほめられたりしました〉


と随筆「遅蒔きの手習い」に綴っています。(80年8月号)

教室に徒歩で通いながら、公園の四季おりおりの風情を眺めるのが楽しみになったという加藤さん。


〈二十年も住んでいたのに、ほんの近くにこんないいところがあったのを気づかずにいたとは、これもヨーガのご利益にちがいないと、通るたびに心につぶやいたりしているのです〉


習いごとの「ご利益」も人それぞれ。皆さん、人生がより豊かになったようです

婦人公論.jp

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