人々が集まり、安心して使える“拠点(大聖寺駅)”を目指して。 【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。[第3回 石川県編]】

2023年6月30日(金)12時0分 ソトコト

「夜、灯りがともっていて人の存在が感じられるとホッとします」。
地域の人たちがそう話すのは、新しく生まれ変わった駅のこと。2022年6月、石川県加賀市にある大聖寺(だいしょうじ)駅舎を再整備した複合施設が完成しました。複合施設の名称は『大聖寺ゲートウェイ』。駅としての機能はそのままに、大阪府で人気のベーカリーが入居し、コワーキングスペースも備えました。現在、利用客が乗降車するだけでなく、地域の人が「わざわざ行く駅」にもなっているのです。


駅舎内にできたベーカリー、カフェ、コワーキング


電車を待つ間、パンを食べながら友人たちと談笑する高校生。机に教科書などを広げ、勉強に集中している高校生。パソコンを開いて、仕事をしていると思われる社会人。うれしそうにパンを買い求め、ベーカリーのスタッフと話す地域の人々。今、大聖寺駅にはさまざまな人が訪れ、それぞれが駅での時間を楽しんでいます。
『大聖寺ゲートウェイ』は、駅としての機能はそのままに、待合室や駅長室だったスペースを、「ベーカリー」と飲食・休憩・仕事・勉強などができる「コワーキングスペース」に改装。また隣にはトイレを新設し、駐車スペースも確保した「レストスペース」もつくりました。











加賀棒茶や地元の旬の野菜を使った、個性豊かなパンたち


『大聖寺ゲートウェイ』の運営を担っているのが、『de tout Painduce 大聖寺店』です。大阪府内に5店舗を展開する人気店『PAINDUCE(パンデュース)』グループの系列店で、同グループではすべてのパンに国産の小麦粉・全粒粉・ライ麦粉を使用しています。
『de tout Painduce 大聖寺店』に並ぶのは、食パンなどベーシックなパンのほか、名産の加賀棒茶を使った「加賀棒茶のメロンパン」などのスイーツパンや、アスパラやブロッコリーなど加賀市内で採れた旬の野菜を使用した惣菜パン。








大阪本店より異動し店舗責任者に着任した中谷年伸さんは、入社12年目。このお店への想いやパンづくりについてこう話してくれました。
「みなさんの暮らしを支える存在になれたらいいなと思っています。僕は、パンづくりが好きなんです。パンは発酵を経てできあがるものなので、同じレシピでも生地の状態は毎日違います。『こうしたほうがいいかな』と毎回本気で考えながらつくるのが楽しいですね。日々いろいろ試しています。パンづくりの先で生まれるお客様とのやりとりも大好きです」
また、コワーキングスペースは、オープンから2023年4月末までの月平均で約250人が利用しているそうです。特に多い利用客が勉強をする高校生で、中谷さんはその真面目さに驚いたといいます。この地域では、そういう場所が求められていたのでしょう。「自分の高校生の頃とは違うなと感心しつつ(笑)、見守っています」と微笑みます。





加賀市の「駅に賑わいを生み出したい」という熱意


実は、このような駅に生まれ変わったストーリーは、加賀市の発案から始まりました。2021年に大聖寺駅が無人化され、駅舎の活用を考えた加賀市が『西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)』から駅舎を取得したのです。無人化された駅舎を自治体が取得し、再整備したのは、石川県内で初めてのケースでした。
加賀市役所でこの大聖寺駅再生事業を担当したのは、当時、政策戦略部スマートシティ課のマネジャー 奥野倫恵さん(現在は産業振興部商工振興課企画官)と、田中悠貴さん(現在は政策企画部企画課地方創生推進グループ主査)でした。 
「1897(明治30)年に開業された大聖寺駅は、通勤や通学を中心に長く利用されてきました。現在も高校など複数の学校が近隣にあります。整備前は駅の待合室を利用できる時間帯が20時までで、それ以降も利用できるよう抜本的に解決したい点もきっかけの一つになりました。1953(昭和28)年から親しまれてきた駅舎の佇まいを活かしつつ、閑散としていた駅や周辺ににぎわいを生み出したいと考えたのです」と田中さんは話します。
また、奥野さんは「単に駅を整備するのではなく、関係人口を含めて誰もが来やすい利便施設にしたいねとも話しました。さまざまな人が集まるところができれば市の活性化にもつながるので、この事業を始めました」と話します。








駅舎を加賀市へ譲渡したのが、『西日本旅客鉄道金沢支社』です。大聖寺駅再生事業を担当した、同支社の地域共生室 企画課の神島(こうしま)啓司さんは「加賀市さんが無人駅の有効活用に興味を示してくださり、最後まで情熱とスピード感をもって、改修事業を実行してくださいました。駅の有効活用を検討される他の自治体さんもおられるので、今後のモデルケースとなれば」と話します。駅としての機能は継続するため、神島さんが安全を確保できるよう旗振りをし、駅舎の改修が進められていったそうです。





2021年8月、加賀市は「設計・施工、管理運営まで請け負う、設計施工管理運営一括発注公募型プロポーザル」という形で、駅舎を改修する事業者を公募しました。そしてこの公募に名乗りをあげたのが、『de tout Painduce 大聖寺店』の運営元である『HEP JAPAN(ヘップジャパン)』、建設コンサルタント会社『ジェイアール西日本コンサルタンツ(以下、JRNC)』、大聖寺にある建設会社『小中出建設』の3社によるコンソーシアムだったのです。
関係者がバラバラに関わっていると、進行スピードが遅くなってしまう事業は少なくありません。「設計・施工、管理運営まで一体となった形だったことで、スピーディな実行が可能になったのだと思います」と田中さんは振り返ります。


コロナ禍を機に、ローカルの可能性に改めて着目


コンソーシアムとして組んだ3社にもお話をお聞きしました。まずうかがったのは、『HEP JAPAN』代表取締役の中野誠敏さん、パンづくりを統括するシェフの米山雅彦さん。中谷さんの上司にあたる方々です。





「弊社のパンづくりは、オープン当初から米山シェフの『パンは日々食べるものだからこそ、素材はいいものを』という考え方がベースになっています。だから今回のお話を知って、すぐ思い浮かんだのは加賀野菜のことでした。産地に近いところでパンをつくるのは理にかなっているので、『いいお話だな』と思いました」と、中野さん。店舗を構える地域の野菜や石川県産の素材をできるだけ採用しているのは、会社の方針だったのです。
また近隣にある加賀温泉にインバウンドの需要もあるだろうと考え、「そこに挑戦したい思いもあります」と話してくれました。また、中野さんは昔このエリアに通っていたことがあり、地域性や地域のみなさんの人柄のよさなども決断の追い風になったそう。
米山さんは「当店は都会の主要駅構内で運営させていただいていますが、コロナ禍で駅の利用客が減ったため、お客様も激減したんです。駅ナカにばかり出店してきたので、当店のコンセプトはそのままに、都市の中心部ではないところで、今までにない形態でお店を運営してみたい思いが生まれていました」と語ります。
米山さんが中心となって改修計画を進めることになり、厨房の位置やカフェスペースを設けることなどを大まかに決め、JRNCに「木を使ってナチュラルな感じにしてほしい」「地域の方や高校生が安心して利用できるように」などとお願いしたといいます。
JRNC建築設計本部の副本部長・麻田恭一さんは次のように話します。「コロナ禍で、よりローカルが注目され始めていました。加賀市はワーケーションやデジタル事業などで知られる先進地です。弊社は都会の駅ビルなどを多く手掛けてきましたが、『これからは大都市に集中した仕事だけではなく、地方の活力・魅力の向上に貢献できるような仕事も』と考えたんです。米山さんと縁あって知り合えたことがきっかけでこの事業に参加することになりました」。
麻田さんは、同時期に他県で道の駅のプロジェクトを手掛けていて、道の駅のにぎわいを感じていたそうです。「駅には鉄道があるからという価値観を一回忘れよう。まちのほうから歩いて駅がどう見えるかを重要視しよう」と、外から見たときに灯りや人の存在が感じられるような設計を考え、部下たちと進めていきました。





小中出建設で現場責任者として活躍したのが、建築部部長の柴田広訓さんです。「弊社は大聖寺にあり、地域密着型で、地域の皆様に喜んでいただけるまちづくりを大切にしています。今回ぜひ協力させていただきたいと参加しました。工期や職人確保の課題をクリアし、無事に完成できてホッとしています」。





地域のみなさんにとって「日常の場」になれたら


最後に、中谷さんに今後の展望や思いを聞きました。「地域のみなさんに顔を覚えていただくため、地域のイベントにはできるだけ参加しています。イベントに出店していて出会ったお客様が『今度お店にいきますね』とおっしゃって、来店してくださるケースも増えています。地域のみなさんにとって、散歩をして立ち寄り、お茶をして語って……という日常の場になれたらなと思います」。
また、地域にカラーの異なるベーカリーが複数あるため「みんなでパンのお祭りイベントができないか」など、地域全体を盛り上げていきたいと考えているといいます。
これからここを起点に、また新たな物語が始まっていくのでしょう。









Information
国産小麦や加賀市で採れた食材にこだわったベーカリー『de tout Painduce 大聖寺店』のほか、パンやドリンクを楽しめるカフェスペース、休憩や勉強、仕事などで長時間でも利用できるコワーキングスペースを備えている。年中無休で『de tout Painduce 大聖寺店』は9時〜21時、コワーキングスペースは9時〜22時の営業。

 『de tout Painduce 大聖寺店』のWebサイトはこちら。



Information
長年このまちを見守り続けてきた『NPO法人 歴町センター大聖寺』は、駅徒歩1分の大聖寺観光案内所の運営も担っています。事務局長の瀬戸達さんは「城下町の大聖寺は、国から認定された歴史都市で昔ながらの町割や史跡や緑が多く残るエリアです。駅の近くに加賀市役所もあります。ぜひ歩いてみてください」と話します。




『NPO法人 歴町センター大聖寺』のWebサイトはこちら。



サステナブルな駅をつくる、「さこすて」チームからのメッセージ
『ジェイアール西日本コンサルタンツ』には、建築設計に留まらず、地域と共生した持続可能な駅づくりを目指し活動している「さこすて(サステナブル・コミュニティ・ステーション)」というチームがあります。「えきげんき⇔まちげんき」の好循環を生み出すために、地域の皆様とともに駅に求められる新たな役割の創出や持続的な活用のための仕組みづくりを実践する他、大学と共同した駅活用事例調査や研究による知見のアーカイブを行っています。駅活用についてお困りごとやご相談等がある場合はお気軽にお声掛けください。




 「さこすて(サステナブル・コミュニティ・ステーション)」の詳細はこちら。



魅力的で持続可能な地域づくりを。JR西日本が取り組んでいる、地域との共生とは?
JR西日本グループでは、2010年頃から「地域との共生」を経営ビジョンの一角に掲げ、西日本エリア各地で、地域ブランドの磨き上げ、観光や地域ビジネスでの活性化、その他地域が元気になるプロジェクトに、自治体や地域のみなさんと一緒に日々取り組んでいます。そんな地域とJR西日本の二人三脚での「地域共生」の歩みをクローズアップしていきます。

「つなぐ、むすぶ」ネットワークが、富山駅前に”賑わい”を生み出す。【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。[第2回 富山県編]】はこちらから。


----------
photographs by Kiyoshi Nakamura & Katsu Nagai
text by Yoshino Kokubo

ソトコト

「石川県」をもっと詳しく

タグ

「石川県」のニュース

「石川県」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ