人間の男女、哺乳類のオスとメスでは痛みの感じ方に違いがあることが判明

2024年7月3日(水)8時10分 カラパイア


 痛みは人によって感じ方が異なるが、特に男女間では痛みの感覚が異なると以前から言われていた。そしてどうやらそれは本当のようだ。新たな研究によると、痛みの感じ方には性差があるという。
 米アリゾナ大学の研究者たちが、人間、サル、ネズミの「痛み受容体」を調べたところ、オスとメスの痛みは異なる分子によって引き起こされていることが明らかになった。
 つまり、女性と男性(メスとオス)では痛みを生じさせるメカニズムが完全に同じではないということになる。ただし、なぜ我々の体がなぜそのように進化したのかは不明だという。
 では詳しく見ていこう。
・進化から見た性別の違い
 オスとメス(男女)で姿形が違うのは当たり前に思うかもしれないが、じつは進化はこうした点に関してはかなり保守的だ。
 生存や生殖にはっきりとしたメリットがない限り、性別による違いをできるだけ抑えようとする。
 例えば、オスは子供に母乳を与えるわけでもないのに乳首がある。無用の長物であるはずの乳首がオスにあるのは、オスとメスの体をまったく違う形状にするよりも、似たようなものにした方が効率的だからだと考えられる。
 男女の乳首に見られるように、まったく新しい特徴を作り出すより、サイズの違いのような程度の差ですませる方が進化的にはずっとたやすい。
 だから、男性と女性の痛みもまた、あったとしても程度の差なのだろうと考えられた。

photo by iStock・男女で痛みに対するメカニズムが違うことが判明
 ところが、これまでの研究によって、それが程度の差どころではないらしいことが明らかになっている。
 マウスを使ったある実験で、小膠細胞(ミクログリア)がオスには痛みを伝えるのに対し、メスには伝えないことが判明したのだ。
 そして今回の研究では、痛みの男女差は伝わり方だけでなく、痛みのセンサー(侵害受容器)のスイッチを入れるホルモンまでが違うことを明らかにしている。
 それはマウスのみならず、サルや人間も同様だった。つまり哺乳類は性別が違うと、痛みのメカニズムも違ってくるのだ。

photo by iStock
 アリゾナ大学ヘルスサイエンスのフランク・ポレカ博士らが突き止めたのは、私たち人間を含むいくつかの哺乳類では、侵害受容器の機能で男性か女性か区別できるという驚くべき事実だ。
 例えばマウス・マカク・人間のいずれにおいても、「プロラクチン(黄体刺激ホルモン)」というホルモンは、メスの脊髄後根神経節ニューロンを感作(痛みに敏感にする)するが、オスでは感作しない。
 同様に、神経伝達物質でもある「オレキシンB」は、オスには感作するが、メスではそうではない。
 これ以外にも、一方の性別ではホルモンに対して強く感作するが、もう一方の性別にはまったく感作しない神経細胞が見つかっている。
 つまり、これまで痛みを生み出す基本的なメカニズムは男女で同じと考えられてきたが、じつは違っていたということだ。
 「私たちが発見したのは、マウスのオスとメス、サルのオスとメス、人間のオスとメスでは、痛みをもたらす基礎メカニズムが異なるということです」(ポレカ博士)・なぜ進化は性別で痛みのメカニズムを変えたのか?
 だが、なぜこのような性別の差が進化したのか、その理由は謎に包まれている。
 プロラクチンは乳房の発達や母乳の分泌をうながすホルモンなので、メスの痛みにだけ関係しているのは、さほど意外ではない。
 だがオレキシンBは男女の別なく覚醒に関係しており、性別によって作用が違う理由はわからない。
 ただし、どちらのホルモンも、最近まで知られていなかった働きが見つかっているので、それらが背景にあるのかもしれない。

photo by iStock・性別に合わせた痛みコントロール
 いずれにせよ、医療における意味合いという点でははっきりしている。男女によって痛みの処置を変えるべきだということだ。
 「現在、痛みの治療において患者の性別はあまり考慮されません。ですが女性か男性かで標的とするメカニズムを変えることで、より良い治療を行える可能性があります」(ポレカ博士)
 例えば、痛みを感じるニューロンの感作を防ぐ薬は、鎮痛剤として働くはずだが、片方の性別にしか効かないかもしれない。
 そのような鎮痛剤の効果を確かめる治験は、やり方を変える必要があるだろう。
 参加者の男女比が大きく偏っているような治験では、その結果が全員に当てはまると考えるべきではないのかもしれない。
 片頭痛・線維筋痛症・子宮内膜症など、特に女性に多い痛みが軽視されてきた理由も、今回明らかになったような事実が背景にあるとも考えられる。
 研究チームが「痛みの神経生物学的な理解が深まっても、一般に患者の痛み治療の改善には結びついていない」と指摘しているように、男女の痛みの違いについてはまだまだ調べることがあるようだ。
 この研究は『Brain』(2024年6月3日付)に掲載された。
References:Study shows first evidence of male-female differences in how pain can be produced | ScienceDaily/ written by hiroching / edited by / parumo

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