メルセデス・ベンツはラグジュアリーブランドとしてどう生きるのか?

2023年7月17日(月)12時0分 JBpress

文=渡辺慎太郎


ラグジュアリーブランドの象徴とは

 メルセデス・ベンツは定期的にデザインのワークショップを開催しています。5回目となる今回のテーマは「ラグジュアリーブランドの象徴(Icon)とはどうあるべきか」。メルセデスのチーフデザイナー、ゴードン・ワグナー氏による「ラグジュアリーブランドの象徴的要素には、Iconic Products、Iconic Brand、Iconic People、Iconic Styleの4つがある」というプレゼンからスタートしました。

 例えばIconic Productsとは、シャネルのNo.5やエルメスのバーキンなど、そのブランドを象徴する商品。Iconic Brandとはオレンジ色とHの組み合わせだけで、だれもがすぐにエルメスだと理解できること。Iconic Peopleとは、ジョルジョ・アルマーニやラルフ・ローレンなど、名前からそのブランドが想起できる人物。そしてIconic Styleとはルイ・ヴィトンのモノグラムなど、柄やテキスチャーがブランドの象徴として浸透していることを示しているという考え方です。

 これをメルセデスに照らし合わせてみると、Iconic ProductsとはC111や300SL、Iconic Brandとは“AMG”や“マイバッハ”、Iconic Peopleはメルセデスの創業者であるゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツ、そしてIconic Styleがスリーポインテッドスターという具合で、だからこそメルセデスは紛れもないラグジュアリーブランドである、というロジックのようです。


デザインコンセプトモデル“ヴィジョン111”

 プレゼンの後にお披露目されたのはオレンジ色のボディを身にまとった“ヴィジョン111”でした。その隣に置かれていたのはメルセデスのプロトタイプ試験車だったC111で、ヴィジョン111はこれをモチーフにしたデザインコンセプトモデルです。

 C111は計16台が生産されたといわれており、その1号車の誕生は1969年。300SLと同じガルウイングタイプのドアを持つミッドシップのスポーツカーで、その心臓部にはロータリーエンジンやディーゼル、V8などが選ばれ、高速域における空力性能や接地性などさまざまなテストが繰り返し行われました。

 諸般の事情で量産化には至らなかったものの、メルセデスの歴史に残る貴重なモデルとして、いまでも事あるごとに取り上げられるまさに象徴的モデルなのです。ちなみに、C111のデザインを手掛けたのはブルーノ・サッコ氏で、彼はこのデザインで一躍その名を知られるようになりました。後にメルセデスのチーフデザイナーとなり、日本でも人気のあった190EやW124のEクラスなども彼の手によるものです。

 ヴィジョン111はデザインコンセプトであると同時に、技術面でも先進的なモデルです。ミッドシップスポーツカーの格好をしていますがキャビンの後ろにエンジンは積んでおらず、床下にバッテリーを敷き詰めた電気自動車なのです。ふたつのモーターが後輪左右をそれぞれ駆動させるのですが、このモーターが革新的です。同じ出力の既存のモーターと比べると、サイズと重量は約3分の1に抑えられていて、駆動系全体のサイズを圧倒的にコンパクトにすることが可能です。


クルマの形そのものが劇的に変わる

 そうなると、デザインの自由度もこれまでよりも増すことになり、今後はこのように先進技術とデザインがより深く関係していくことを示唆しています。現時点ではまだバッテリーが大きく重いままですが、もしこれも小さく軽くできると、将来的にはクルマの形そのものが劇的に変わる日がやってくるかもしれません。

 そもそも、ラグジュアリーブランドとして世界的に認知されているメルセデスが、どうして今回あらためて「ラグジュアリーとは何か」みたいなワークショップを行ったのでしょうか。もともとメルセデスは、Eクラス/Sクラス/SL/Gクラスといった高額の商品だけを扱ってきました。ところが190EがCクラスとなり、いまではその下にBクラスやAクラスまでも存在しています。これは、比較的安価なモデルを大量に販売することで利益を安定的に確保して、それを上位モデルの開発費に充てるという戦略でした。

 いまではBMWやアウディ、ポルシェなども似たようなことをやっていますが、この戦略はラグジュアリーブランドとしてのイメージが徐々に薄れていくという弊害があります。おそらくメルセデスはそこに危機感を抱いているのでしょう。実は近いうちに、メルセデスはAクラスとBクラスを辞めるという噂が出ています。これが本当だとすると、今回のワークショップはその伏線だった可能性が高いのです。

筆者:渡辺慎太郎

JBpress

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