名古屋の老舗【純喫茶ライオン】移転後に復刻した「自家製プリン」を求めて

2023年9月15日(金)12時0分 JBpress

ある時は美味しい珈琲や定番メニューを求めに。またある時は喧騒から離れ、ひと息つきたい時に。純喫茶の良さを広める第一人者、難波里奈さんが、パフェ、ゼリー、プリン、トースト、ホットケーキ、飲み物など、あまいものを切り口に、名古屋とのその周辺にある名喫茶30店を紹介する『純喫茶とあまいもの 名古屋編 唯一無二の魅力を持つ30のお店』を発売。今回はその中から、旧店舗から移転後、蒸しプリンを復刻させた名店「純喫茶ライオン」をご紹介します。

文=難波里奈 撮影=ヒロタケンジ

*本稿は『純喫茶とあまいもの 名古屋編 唯一無二の魅力を持つ30のお店』(誠文堂新光社)の一部を抜粋・再編集したものです。


試作を繰り返して復刻された蒸しプリン

 名古屋市の中心地、栄で60年以上営業していた「コーヒー専門店ライオン」。立ち寄る時間がないときでも、青い看板と少し奥まっている入口を歩道から見かけるだけでホッとした気持ちになっていました。

 最後に旧店舗へお邪魔したのは、内装を少しリニューアルして間もなくの2018年6月。一喫茶客としてではなく、拙著『クリームソーダ 純喫茶めぐり』の取材のためでした。1958年に初代が創業、現在三代目を務める北林三奈さんが正式に継いだのは2015年のこと。そのときは、「閉めるか続けるか、悩んでいましたが、継続を決めました」とおっしゃっていたので、ホッと胸をなでおろし、これからの「ライオン」の未来に勝手に安心していました。

 しかし、しばらく足を運べなかった期間に人づてに、「移転したそうだ」との情報を得たのです。久屋大通駅近くのビルに移転したのは2019年6月。それから数年後、約束した時間に少し緊張しながら店内に入ると、なぜか訪れるのは初めてではないような温かさを覚えてリラックスしたのです。

「元々は呉服屋だった場所で。3年くらいたってからようやくなじんできた感じがしますね」と、変わらない素敵な笑顔を見せてくださった北林さん。以前の店舗で使用されてきた什器や家具もいくつか持ってきたそうで、栄にあったときとは雰囲気の違う眺めにもかかわらず、あまり違和感がなかったのは、場所が変わっても営む人の思いは同じだったからかもしれません。

 数年前にお会いしたときより、力強くてスッキリした表情をされていた北林さんはメニュー作りを楽しんでいらっしゃる様子。移転してまもなくコロナ禍となってしまったため、皮肉なことに時間は充分にあって、いろいろな試みができたそう。

 たとえば、人気メニューのプリン。「栄のときから数えると、3回作り方が変わっていて。1回目は私がまだ生まれてないときにマスターが作っていた蒸しプリン。2回目はオーブンで焼いていたもの。ここに移転してからは蒸しプリンです」とのこと。「す」が入らないように作るコツなどを尋ねてみると、「水分量とかいろいろありますが、冷ますときの音とかそういうものが感覚的にわかってくるんです」と教えてくれました。

 試食するスタッフには厳しく採点してもらうそうですが、取材時のプリンは「100点!」とのこと。「一人でこう、研究というと大げさなんですけど、誰かの意見を聞いてみることで視野が広がったりしますね。でも、基本のところは絶対変わらないし、変えていません」と北林さん。

「喫茶店の仕事は毎日同じことの繰り返しだったり、地味な作業だったりするんですけど、もう〝自分の人生〞ですね。どんな年代の方たちにも愛してもらえるような場所になってほしい」。かけがえのない家族が長い時間をかけて作り上げてきた場所をこれからも残していくためには、古き良きものを継承して大切にしながら、時には変わっていくことも必要になるのでしょう。

 長く続けていくなかで、「変わらないね」と支持されるために、時代やニーズに合わせて、人には気づかれないようなスピードで進化しているのだと思います。北林さんが日々お店に立つことは、ご自身の大切なものを守ることでありながら、ライオンへ足を運ぶ人たちを幸せにしてもいるのです。

住所:愛知県名古屋市東区泉1-14-23 ホワイトメイツ3F
アクセス:名古屋市営地下鉄名城線・桜通線「久屋大通駅」より徒歩1分
営業時間:12:00〜17:00、土〜18:30、日〜17:00
休日:月、火、第2・第4土曜

筆者:難波 里奈

JBpress

「名古屋」をもっと詳しく

「名古屋」のニュース

「名古屋」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ