民間航空史上最も奇妙な航空事故! 突然失踪した”大富豪”の不可解な事件とは?

2023年9月29日(金)7時0分 tocana

 世界を飛び回ることも多いセレブや富豪らは時に航空事故に巻き込まれることがあるが、中でも奇妙な事件が約100年前に起こったベルギーの銀行家が失踪した事件だろう。当時世界第三位の大富豪はなぜ、どのようにして忽然と姿を消したのだろうか?


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※ こちらの記事は2021年12月24日の記事を再掲しています。


 今から93年前、英仏海峡では世界を震撼させる怪事件が起こった。被害者は高度数千メートルの飛行機から墜落したのだが、いったい空中で何があったのか、いまだに謎に包まれたままなのだ。


大富豪が自家用機で謎の墜落死

 1920年代、ベルギーの金融家アルフレッド・レオナール・ローウェンスタインほど富と成功を手にした男はいなかっただろう。1877年、ベルギーのブリュッセルで、ドイツ系ユダヤ人の銀行家の息子として誕生。長じてからは自ら銀行を立ち上げ、1928年には世界第3位の大金持ちに上り詰めていた。今なら、イーロン・マスクかジェフ・ベゾスあたりだろうか。


 同年7月4日午後6時頃、ローウェンスタインはイギリスのクロイドン空港からベルギーへ帰国するため、自家用機のフォッカー・トライモーターに乗り込んでいた。このフライトは、彼にとって定期的な出張であり、6名の従業員も一緒だった。パイロットのドナルド・ドリュー、整備士のロバート・リトル、速記者のアイリーンとポーラ、世話係のフレッド・バクスター、そして秘書のアーサー・ホジソンだ。天候にも恵まれ、快適な空の旅が始まろうとしていた。


 午後6時30分頃、英仏海峡を高度1200メートルで横断中、ローウェンスタインは機内後部にあるトイレに立った。だが、15分経っても出てこない。異変を感じたバクスターがドアをノックしてみたが返事がない。無理やりドアを開けてみると——誰もいない!


 実は、トイレにはドアが2ヵ所あったのだ。1つは機内から出入りするドア、もう1つは機外へ通じるドア。バクスターはトイレに踏み込んだ瞬間、外部ドアがスリップストリーム(航空機の後方に発生する後方に向いたらせん状の空気流)で振動するのを見たという。


 すぐさまパイロットのドリューに知らせ、ダンケルク近くの人けのない海岸へ緊急着陸。ダンケルクはフランス軍の管理下にあったため、乗員たちは当局に連行され、取り調べを受けることになった。


 財界の超大物がある日こつ然と、しかも運行中の飛行機から消えてしまったというニュースは、瞬く間に世界中を駆け抜けた。パニック的な売りが出て、ローウェンスタイン社は50パーセントも株価を下げた。


 そんな中、7月19日、北フランスのブローニュ=シュル=メール沖で、海に浮かぶローウェンスタインの遺体を漁師が発見した。享年51。ヨーロッパの取引所ではローウェンスタイン社の株の大暴落を受け、一夜にして何百人もの個人財産が失われることとなった。


 検死の結果、頭蓋骨を含む数カ所の骨折は海に落ちたときにできたもので、体内には薬物反応もなく、不正行為の痕跡もなし。唯一、血中に少量のアルコールが検出されたことを除けば。彼は酒を飲まなかったのだ。結局、「ローウェンスタインは海に落ちて死んだ」という以外何も発見できず、捜査は行き詰まりをむかえた。


明るみになった大富豪の“ダークサイド”

 当時有力となった説に、ローウェンスタインが故意か偶然か、トイレの外部ドアから墜落して死亡したというものがあった。しかし、外部ドアには「EXIT」と明記されていただけでなく、飛行中に誤開閉できぬようバネ式のラッチと外気流の圧で閉まる設計となっており、飛行中の空中でこじ開けるには屈強な男数人が必要となる。また、英国空軍省が数年後に行った調査で「フォッカー・トライモーターのドアを誤って開けることは不可能」と断定した。


 ローウェンスタインが自力で、飛行中のドアを開けることが不可能なら、自殺でもなければ事故でもない。とすれば、残るは殺人だ。


 ローウェンスタインの“ダークサイド”が明るみに出るまで時間はかからなかった。経営する投資会社での不正、アメリカのマフィアのボスであるアーノルド・ロススタインとの麻薬取引、そして離婚寸前の妻マドレーヌに至っては、莫大な遺産欲しさに夫殺害を企てていたなど黒い噂が絶えなかった。つまり、ローウェンスタインの死を望む敵や、彼の死によって何かを得ようとしていた人間が相当数いたことになる。しかし、小型旅客機内で、誰にも気づかれず犯行しおおせるだろうか?


 乗員単独もしくは複数が、第三者に買収されたり強要されたりした場合にのみ可能であったといえる。小型機は騒音も大きく、ドアはメインキャビンからは見えないので、狭い機内でも目立つことなく行われたのかもしれない。また、パイロットのドリューが飛行場ではなく、ひと気のないダンケルクの浜辺に緊急着陸を決めたのも不審だ。フランス軍が現場に到着した際も、自分たちのボスが蒸発したと認めるまで30分もはぐらかしたと記録されている。こうなると、乗員全員がグルだった可能性すらある。だが、彼らには陰謀に結びつく証拠がなく、誰も起訴されず、拘留もされなかったのだ。


 この事件は、ニューヨーク・タイムズ紙が「民間航空史上最も奇妙な死亡事故の1つ」と呼ぶ未解決事件となった。世紀の完全犯罪だったのだろうか、それとも——。当時の関係者はすべて鬼籍に入ってしまい、永遠に解けないミステリーだけが残った。


参考:「Mysterious Universe」「Chicago Tribune」「Wikipedia」ほか

tocana

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