笠置シヅ子の生い立ちと2人の男性、吉本穎右との純愛と服部良一との師弟関係

2023年10月19日(木)6時0分 JBpress

(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)

2023年10月に始まったNHK連続テレビ小説『ブギウギ』。ヒロインである花田鈴子のモデルである笠置シヅ子は、戦後「ブギの女王」として一世を風靡した歌手として知られている。彼女はどんな人生を歩んできたのか?(JBpress)


笠置シヅ子、その生い立ち

 スカートを翻しながら脚を上げ、はちきれんばかりに大きな口を開けて明るく歌う笠置のステージからは想像しにくいのですが、笠置の人生は順風満帆なものではありませんでした。

 大正3年(1914)、香川県相生村(現・東かがわ市)に生まれた笠置は、生後まもなく、もらい乳をしてもらっていた女性の養女となり大阪で育ちます。

 小学校を卒業後の昭和2年(1927)、13歳で松竹楽劇部生徒養成所に入り、同年8月、三笠静子の芸名で初舞台を踏みます。

 育ての母が養母だったことを知るのはそれから4年後、17歳の頃でした。

 松竹の養成所に入所する前に宝塚少女歌劇を受験していますが、あいにく不合格となっています。生来の素質から不合格は信じられませんが、実は歌と踊りに問題はなく、身長が低く、肉体的に厳しい稽古に耐えられるかどうかが心配されて、というのが理由だったようです。

 残されている笠置の映像を見ても、小柄なイメージがわかないのは、そのダイナミックな歌と踊りに見る者たちが圧倒されているからなのでしょう。なお、30代当時の笠置の身長は150センチ前後だとされています(147センチという説もあります)。


生涯一度の純愛

 笠置がその生涯をかけて愛した男性はただ一人、自分より9歳年下の吉本穎右(えいすけ)、吉本興業社長・吉本せいの次男でした。出逢いは昭和18年6月、太平洋戦争真っ盛りの頃で、吉本はまだ20歳、美男で知られる早稲田の学生でした。

 空襲下の東京ではありましたが、一緒に暮らし始めた二人にとって、短いながらもそれは人生で一番幸せな日々だったことでしょう。

 戦後、すでに結核を患っていた穎右は昭和22年5月に亡くなります。24歳の若さでした。33歳の笠置が穎右の忘れ形見を出産するのは穎右の死後、わずか半月ほど後のことでした。


夜の女性たちにも愛された人柄

 笠置が「ブギの女王」として一世を風靡した時代とは、カストリ、パンパン、かつぎ屋、戦犯、ベビーブーム、アプレゲールといった言葉が横溢する混沌(カオス)の時代。そうした時勢を背景に、ひと声聞いただけで日頃の鬱屈を吹き飛ばしてくれるような音楽が登場したわけです。

 ジャズやブルースが黒人たちの喜怒哀楽やどうしようもない心の叫びから発生したように、地声で叫ぶように歌う笠置の声は、日々苦しい生活に追われる日本中の老若男女、まさに幼少だった美空ひばりから当時の東大総長までとりこにしたのです。

 当時、笠置は30代半ばでしたが、シングルマザーとして乳飲み子を抱えての仕事ぶりがマスコミに報じられ、夜の街のお姉さんたちの琴線に触れたのでしょう、有楽町ガード下で働く街娼のお姉さんたちが目と鼻の先にある日劇での公演の際には、舞台近くで親衛隊のように応援したそうです。

 私を含めた高年齢層が近年のミリオンセラーの曲名すら知らない令和の時代とは「歌の持つ力」が違っていました。


服部良一との師弟関係

『東京ブギウギ』によって歌謡界のスーパースターになった笠置ですが、早くからエンターティナーとしての彼女の才能を見抜いた功労者が作曲者でもある服部良一でした。

 笠置と服部の結びつきは、すでに戦前からのもので、日本にジャズ感覚の大衆歌謡を誕生させたかった服部は、戦前、『ラッパと娘』『ホット・チャイナ』といったジャズ伴奏をバックにスキャット入りの早口ソングを笠置に提供、すでに『東京ブギウギ』の源流はこのあたりにありました。

 戦時中、上海にわたって米国産の音楽を耳にしていた服部良一は本来のブギウギ(Boogie Woogie)を体験します。

 ピアノの左手が「ドドミ(♭)ミソソラソ」のベース音をエイトビートのリズムで刻み、右手でコードや旋律を奏で、時には歌いながら演奏して周囲も自分も楽しむ。黒人たちによって生み出されたブギウギが、歌うための伴奏音楽というより彼ら自身が踊って楽しむための音楽だ、というブギウギの本質を知ることになります。

 歌手自らが楽しみながら歌って踊る。この役割を全うできるのは、笠置シヅ子しかいない。服部は、自分の求める音楽に欠かすことのできない存在として笠置に白羽の矢を立てたのです。

 笠置の明るいパフォーマンスは戦時下でも知れ渡りますが、その踊りが派手すぎて軍部ににらまれ、歌うスペースが制限されるというエピソードが残っています。

(参考)『ブギの女王 笠置シヅ子』(砂古口早苗、現代書館)

(編集協力:春燈社 小西眞由美)

筆者:堀井 六郎

JBpress

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