人気絶頂となった『ブギウギ』モデル・笠置シヅ子。11歳の美空ひばりはその歌をレパートリーに「ベビー笠置」と呼ばれるも…

2024年3月18日(月)12時0分 婦人公論.jp


佐藤さん「笠置が出演して唄うだけで、観客が殺到した」(写真提供:Photo AC)

NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』。その主人公のモデルである昭和の大スター・笠置シヅ子について、「歌が大好きな風呂屋の少女は、やがて<ブギの女王>として一世を風靡していく」と語るのは、娯楽映画研究家でオトナの歌謡曲プロデューサーの佐藤利明さん。佐藤さんいわく「人気絶頂の笠置が出演して唄うだけで、映画館に観客が殺到するようになった」そうで——。

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『結婚三銃士』


多忙な日々が続くなか、笠置への映画出演のオファーが続いた。笠置が出演して唄うだけで、観客が殺到したのだ。

テレビ前夜、人気スターの芸はステージでの実演か映画でしか観ることができなかった。

1949(昭和24)年、前年の『歌うエノケン捕物帖』に続いて、笠置が出演したのは、戦前、松竹のトップスターだった高杉早苗と、『愛染かつら』(38年)などで一世を風靡した二枚目・上原謙とのロマンチック・コメディ『結婚三銃士』(3月21日・新東宝・野村浩将)である。

就職難で苦労して、婚約者・若原春江との結婚もままならず、なんとか化粧品会社のセールスマンになった上原謙。

二枚目だけど、その自覚のないまま、猛烈女社長・清川虹子に見込まれて、持ち前の男前を武器に、キャバレーや美容院の女の子たちに取り入って次々と契約を獲得。

たちまちトップセールスマンとなる。

前半の痛快さは、のちの植木等主演『日本一の色男』(63年・東宝・古澤憲吾)のプロトタイプのようでもある。

シヅ子は売上に貢献するキャバレーの歌手役で、幼馴染の三味線の師匠・森赫子、化粧品会社社長の姪で口紅を開発中の研究員・高杉早苗と、上原謙をめぐって熾烈なライバルとなる。

シヅ子のキャラは姐御肌であるが、上原謙に初恋の人の面影をみて一目惚れをする純情娘でもある。

あなたとならば


この映画のために服部が書き下ろした主題歌は、ブギウギではなく、明るいポピュラー・ソング「あなたとならば」(作詞・藤浦洸)、公開直前の3月16日に発売された。

メジャーコードのメロディを聴いていると気持ちが開けてくる。

コミカルなノヴェルティ・ソングというより、ストレートに「あなたと一緒にいると幸せ」と乙女心を歌っている。

劇中では、キャバレーのステージで唄い、待合で上原謙に愛の告白をするシーンでリフレインする。


『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(著:佐藤利明/興陽館)

歌詞が彼女の心情に寄り添っていて、印象的である。

シヅ子と森赫子、高杉早苗は、上原謙との恋愛について、お互いにモーションをかけないと淑女協定を結ぶが、結局、高杉と上原が結ばれる。

シヅ子は完全にフラれてしまうのだが、高杉と上原がゴールインするまでの、あれよあれよのクライマックスは、ハリウッドのスクリューボール・コメディのようなモダンな味わいがある。

シヅ子とひばり


この『結婚三銃士』公開の翌週、大映系で封切られたのが喜劇の神様・斎藤寅次郎監督のオールスター音楽喜劇『のど自慢狂時代』(3月28日・東横映画)である。

灰田勝彦、並木路子、美ち奴ら人気歌手をフィーチャー、古賀政男まで出演しての賑やかな作品。

11歳の美空ひばりが出演して、小学校の教室で「セコハン娘」を歌うシーンがあったという。

残念ながら完全なフィルムが現存せず、そのシーンは見ることが叶わない。


多忙な日々が続くなか、笠置への映画出演のオファーが続いた(写真提供:Photo AC)

続いて寅次郎監督は、6月7日公開『新東京音頭 びっくり五人男』(吉本プロ=新東宝)でもひばりを起用。

古川ロッパ、エンタツ・アチャコ、キドシン、川田晴久の五人男の前に現れる孤児の役。

川田のギターで「ジャングル・ブギー」の替え歌を唄うシーンは、のちに『ラッキー百万円娘』として再上映された改題再編集版にも残されているが、実は、当時「東京ブギウギ」を唄うシーンがあったのだ。

ひばりはレコードデビュー前で、まだ持ち歌がなく、ステージでも笠置の歌を唄っていた。

オミットされた「東京ブギウギ」のシーンが、近年発見された。

1951(昭和26)年に新東宝が製作した短編『ひばりのアンコール娘』に収録されていたのである。

「ベビー笠置」


この年1月10日から17日まで、日劇では灰田勝彦の「ラヴ・パレード」十二景(作・演出・白井鐡造)公演が行われ、美空ひばりがシヅ子の「ヘイヘイブギー」を歌わせて欲しいと、有楽座「愉快な相棒」出演中の笠置と服部に許可を求めた。

服部は、ひばりには「東京ブギウギ」が相応しいと判断して、曲の変更を伝えた。

しかしひばりは「東京ブギウギ」を練習していなかったために、出だしを失敗してしまった。

その話に尾鰭がついて、笠置と服部がひばりに「歌うな」とクレームをつけたということになってしまったが、真相はこうである。

とはいえ5ヶ月後の映画『びっくり五人男』での、ひばりの「東京ブギウギ」のパフォーマンスは見事である。「ベビー笠置」と言われたのも頷ける。

8月10日、ひばりは、松竹映画『踊る龍宮城』(7月26日公開・佐々木康)の挿入歌「河童ブギウギ」(作詞・藤浦洸、作曲・編曲・浅井挙曄)でレコードデビューを果たした。

実はこの時、コロムビアでは、ひばりのデビュー曲を「東京ブギウギ」にしようという案があったが、笠置と服部がそれに反対した。

ひばりの力量を考えてデビュー曲はオリジナルが相応しいと判断したからだろう。

「河童ブギウギ」はヒットに至らなかったが、9月発売の第二弾「悲しき口笛」はまさにひばりのオリジナリティーあふれる楽曲で、彼女の「これから」を決定づけた。

※本稿は、『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(興陽館)の一部を再編集したものです。

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