笠置シヅ子と服部良一の生み出した「和製ブギウギ」、唯一無二の魅力とは?

2023年10月20日(金)6時0分 JBpress

(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)

2023年10月に始まったNHK連続テレビ小説『ブギウギ』。ヒロインである花田鈴子のモデルである笠置シヅ子は、戦後「ブギの女王」として一世を風靡した歌手として知られている。彼女はどんな人生を歩んできたのか?(JBpress)


歌って踊れる、唯一無二の魅力

 終戦直後、並木路子の『リンゴの唄』が焼け跡に流れましたが、『東京ブギウギ』が昭和23年1月にレコード発売されるまでのヒット曲といえば、『麗人の歌』『悲しき竹笛』(どちらも、作曲・古賀政男)など短調で内向きの曲が多く、戦争が終わった解放感をダイレクトに歌ってくれるような歌を、多くの国民は待ち望んでいたのかもしれません。『東京ブギウギ』の爆発的な人気がそれを証明しているようです。

 笠置と服部、関西人同士だからこそ生み出せた「和製ブギウギ」作品は、当時の流行歌とは次の7つの点で明らかに一線を画していました。

①多くの言葉をリズミカルに早口で歌い上げる疾走感

②終戦によって解禁されたジャズを中心とした米国音楽を踏襲した解放感

③戦前には耳にすることがあまりなかった、ジャズ風スキャット多用のハイカラ感

④七五調でない会話体歌詞を地声で歌うアドリブ感

⑤客席に向かって「ヘイ!」と呼びかける、観客との一体感

⑥ウキウキ、ズキズキなど、韻を踏んだオノマトペ(擬態語、擬音語)の臨場感

⑦服部が作詞作曲した『買物ブギー』で聞かれるような関西弁による現実感

 これらがミックスされ、どのブギウギ物もユーモア、スピード感、ストーリー性に富み、当時の芸能界では唯一無二ともいえる楽曲シリーズとして輝きました。笠置と服部、まさに余人をもって代えがたい名コンビによる名作群です。

 特に最後に記した『買物ブギー』は是非とも聴いていただきたい「和製ブギ」の傑作です。この曲の魅力は機関銃のごとく放たれるコテコテの大阪弁の魅力でもあり、楽曲的にも会話体をここまでリズミカルに仕上げた例としては最高峰ではないかと思っています。作詞作曲の二刀流をこなし、シャレや落語を愛した服部でしかできない仕事でしょう。

 笠置は視覚的な分野においても見る者たちに笑顔をもたらす功績を残しています。

 3センチほどの付けまつげをばたつかせ、大きな口を開けて叫ぶように歌い、スカートを気にすることなく足を上げて踊り、舞台狭しとサンダルで駆け回り、客席に向かって掛け声をかけ反応を楽しむ、それらはすべて見ている者に一緒に踊って歌って楽しみたくなるような快い躍動感を与えてくれました。

 現在ではごく当たり前なパフォーマンスですが、当時の歌手としては珍しく、松竹楽劇部出身の面目躍如といったところですね。


歌手引退宣言

 歌手・笠置シヅ子の認知度が今一つである一因として、早期の歌手引退があるでしょう。笠置が歌手を引退したのは昭和32年(1957)、43歳のときでした。

 歌手引退後は、女優として舞台や銀幕で活躍、ちょうどテレビジョンが普及し始めた時期でもあり、テレビドラマの脇役やカネヨンのCMで気の良さそうな関西のおばちゃんとして登場しますが、歌手としての仕事を行なうことは一切ありませんでした。

「歌手引退」という一度決めた約束を律義に守り、その後、「思い出のメロディー」のような懐メロ番組にもまったく出演しなかったため、大スターだったにもかかわらず、笠置の歌う映像はあまり残っていません。

 ユーチューブで見られる映像も引退前の映画や舞台で歌っているシーン程度で、さほど多くありません。だからこそ、あの時代の「ブギの女王」の存在を忘れないためにも、私たちはブギウギソングの数々をいつまでも忘れずに歌い継いでいかなくてはならないと思うのです。

 とびきり明るい歌の陰に隠れてしまいそうな笠置の悲哀、そして私たちの両親や祖父母たちが生きた戦禍の日々、敗戦によって米国に占領されていた時代を忘れないためにも──。

 私のような昭和20年代生まれの者にとって笠置シヅ子といえば、人の良さそうなたれ目のおばちゃんというイメージが思い浮かびます。それは、過去の映像が容易に見られる今の時代とは異なり、子供の頃に見たモノクロ時代のテレビに出てくるおばちゃん姿くらいしか記憶に残っていないからでしょう。

 そんな中でも印象深いのは、昭和41年(1966)からTBSテレビで始まった『家族そろって歌合戦』の審査員役としての笠置の姿です。

 あまり家族愛に恵まれたとは言えない笠置だっただけに、番組に出演する一般視聴者家族を見つめる姿とそのコメントには、家族というものに対する深い思いがあったのではないか、と今になって想像します。

 笠置は番組開始から14年後の番組終了まで審査員を務め、それから5年後の昭和60年3月30日、卵巣がんのため亡くなります。享年70。葬儀委員長は盟友、服部良一が務めました。

 今回ご紹介した楽曲のうち、朝ドラ『ブギウギ』ではどの程度流れてくるのかはわかりませんが、歌って踊れるアイドルグループだったキャンディーズ伊藤蘭の娘、趣里が笠置をどのように演じ、歌い、踊ってくれるのか、服部の孫、服部隆之が担当する音楽とともに、今から心ズキズキ、ウキウキ、ワクワクしながら待つことにいたしましょう。

(参考)『ブギの女王 笠置シヅ子』(砂古口早苗、現代書館)

(編集協力:春燈社 小西眞由美)

筆者:堀井 六郎

JBpress

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