ドレスコードから筋書まで「歌舞伎座デビュー」の前に必ず知っておきたいこと

2023年11月13日(月)12時0分 JBpress

深まる秋におしゃれをして芝居にいくのは心躍るひととき。でも、劇場のマナーや独特の雰囲気に、つい足踏みしてしまう人も。通に聞いた、観劇のコツや歌舞伎の最高峰・歌舞伎座をたのしみ尽くすポイントをご紹介します。

文=新田由紀子 写真=PIXTA


ちょっと恐ろしい!?服装チェック

 服装に決まりはないが、気をつける必要はあると語るのは10代から歌舞伎を観続けている松田正美さん(50代女性・仮名)。

「歌舞伎は、ハレの場。現代演劇とは違う祝祭的な要素があります。特に歌舞伎座は、しっかりおしゃれをしてくる人たちのいる劇場。みんながドレスアップしてきているレストランに、カジュアルなセーターで行ったら白い目で見られるようでなんだか楽しめないというのと同じですね」という。

 夏目漱石の小説などに登場するように、歌舞伎座は昔から社交場でもあった。今でも、たくさんの有名人が客席につめかけている。

「この前は女優の浅丘ルリ子さんがとても素敵な紫のお召し物でいらしていました。作家の林真理子さん、故・安倍元首相夫人の安倍昭恵さんもお見掛けしたことがあります」(松田さん・以下同)

 作家、俳優、学者など著名人もおしゃれをして集まってくる、華やかな空間なのだ。

 松田さんは着物好きだが、それでもかなり気をつかうという。

「オペラや現代演劇に着物でいくのなら、自分流に着こなしをアレンジしたり、ちょっと変わっていたりしてもコスプレの一種として許されるところがありますよね。ところが、歌舞伎、中でも、歌舞伎座は独特。格っていうものの恐ろしさを思い知らされるところです」

「浴衣で気軽に観劇を」という夏の時期ならもちろんいいが、それ以外で浴衣を着ていったりしたらやはり場違い。特に前のほうの座席なら、高価な大島などでも織りの着物は、着物の格として慎重にしたほうがいいという。

 何しろ、花柳界、日舞の師匠などなど、いやというほど着慣れたプロが、高い染めの着物をびしっと着ているのと隣り合わせになる可能性も。「ちょっとお太鼓が曲がってますよ」と帯に手を出してきたりする「お直しおばさん」「歌舞伎警察」という歌舞伎座の怪人!?たちが出没するのも、噂だけではない。

「でも、歌舞伎座=みんな着物を着ている訳では決してないので、そこまで気にしなくても大丈夫。ジーンズにブラウスでも、華やかでおしゃれな着こなしであればOKですし、男性ならジャケットをはおっていれば安心です。着物に興味がある方なら、場数を踏むには最適で着こなしの勉強にもなるので、ぜひ“着物で観劇”にもチャレンジしてほしいですね」


大御所から注目株まで、ロビーの梨園の妻たちは必見

「歌舞伎座のロビーは、役者の妻たちの舞台でもあります」

 ロビーの左右には、役者の一門がテーブルを出している。そこにやってくるご贔屓たちに、挨拶するのは、梨園の女性たちの大切な仕事だ。

「尾上菊五郎(81歳)夫人の富司純子さん(77歳)、松本白鷗(81歳)夫人の藤間紀子さん(78歳)などは、昔からおきれいで有名です。なんといっても皆さん、着物の着こなしが天下一品。上品な色使い、控えめの柄ゆき、季節は少し先取りするのがお約束で、その美しさにほれぼれします。

 三田寛子さん(57歳)、藤原紀香さん(52歳)など、タレントから梨園の妻となった女性たちも、着物の着こなしを必死に学んだことでしょう。

 歌舞伎座のロビーは、日本の着物文化のひとつの頂点を見られる場です」

 役者の妻たちにとって、着物は戦闘服。夫たちが舞台でしのぎを削る一方で、妻たちは一門を支えて戦っている。

 11月の歌舞伎座公演「歌舞伎座新開場十周年 吉例顔見世大歌舞伎」(11月2日〜25日、休演10日、20日予定)のロビーでは、その富司純子さん、藤間紀子さんの着物姿を見られる可能性が高いという。

 インドエンターテイメントの源流を歌舞伎に置き換えた、昼の部「マハーバーラタ戦記」は富司純子さんの息子、尾上菊之助(46歳)が主演。夜の部「顔見世季花姿繪(かおみせづきはなのすがたえ)」の「春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)」では、藤間紀子さんの孫で、若手のなかでも高い人気を誇る市川染五郎(18歳)が華やかに舞う。


事前のネット検索や、筋書、イヤホンガイドを活用

 事前に、チェックしておくと面白く観られるのは、役者たちの親子親戚関係だ。

 11月の歌舞伎座なら、坂東巳之助(34歳)とネット検索してみると、故・坂東三津五郎の長男であることがわかる。

「下がり目でかわいい女方の中村米吉くん(30歳)は、夜の部『松浦の太鼓』の同じ舞台で俳人其角を演じている中村歌六さん(73歳)の長男。片岡孝太郎さん(55歳)の父は、『松浦の太鼓』で松浦の殿様を演じている片岡仁左衛門さん(79歳)だとか、中村隼人くん(29歳)の伯父は『鎌倉三代記』で三浦之義村を演じている中村時蔵さん(68歳)とか、わかってから観たほうが面白いですよね。歌舞伎は家が基本。親子、伯父甥、従弟といったことが役付きにも関わってきていて、それもまた不思議な世界なんです」

 劇場に入ると、演目の見どころや出演者情報などが載っているパンフレット、「筋書(すじがき)」が売られている。始まる前に読んでおくと、舞台がわかりやすくなる。

 歌舞伎公演は、本来1日かけて演じられる長い演目を、一幕だけ切り取って演じているものなどが多いので、初めてだとよく理解できないこともあるが、松田さんは問題ないという。

「もともと歌舞伎は、江戸の庶民の娯楽ですから、そんなに難しく考えなくてもたのしめるものなんです。

 筋書でチェックしておくといいのは、ストーリーより、見どころ。『知らざあ言ってきかせやしょう』といった名台詞。主人公の二人が止まってキマる瞬間など、歌舞伎には、『これを聞かせるために、ここを見せるために演目がある』と言えるようなものがあります。『音羽屋!』『大和屋!』といった掛け声も掛かる見せ場ですから、予習しておくといいと思います」

 歌舞伎座には、同時解説「イヤホンガイド」もある。オンラインストアの事前予約や劇場のカウンターで有料貸し出しをしており、演目の解説を聴きながら観劇できる。

「観ているだけではわからない、演目のなるほど解説がたくさん聞ける面白さが魅力です。ただし、イヤホンをつけて音声を聴きながら観劇すると、役者の息遣いや劇場の雰囲気を100%味わうことができないというデメリットもあるんですよね。私が昔やっていたのは、1回目は安い後ろの方の席でイヤホンガイドを聴きながら観て、2回目はイヤホンガイドなしでいい席で観るというやり方です。これだと、舞台がすごくたのしめます」


歌舞伎みやげ、食事など、劇場周辺そぞろ歩き

 観劇の前後に近くのお店に行くのもたのしみのひとつ。

「歌舞伎座には、場内や地下に売店やおみやげの店がたくさんあるので、目移りするほど。公演のある日は多くの人でにぎわっていますし、周囲にもたくさんのお店があります。

 私は歌舞伎みやげには、歌舞伎座のはす向かいの銀座大野屋で、日本手ぬぐいをたくさん買っています。團十郎の『かまわぬ』、菊五郎の『よきこときく』など、役者にちなんだ柄もありますし。『勧進帳』を観た記念には弁慶格子柄のものを買うなど。創業明治元年という老舗は、立ち寄る価値ありです」

 シチュー専門店「銀の塔」、日本最古の本格インド料理店「ナイルレストラン」のムルギーランチなど、役者たち御用達のグルメも周辺に数多くある。

「終演後に歌舞伎座横の茜屋珈琲店に行ったら、さっきまで舞台に出ていた寺島しのぶ(50歳)の息子、尾上眞秀くん(11歳)が、紙袋を持って入ってきたことがあります。渡されたお店の人が『ママは?』と聞いたら『あとで行くって』といってぴょこんとお辞儀をして出て行きました。そんな光景が見られるのも、歌舞伎座のある東銀座の街ならではのたのしみですね」

※情報は記事公開時点(2023年11月13日現在)。

筆者:新田 由紀子

JBpress

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