5つのがんを含む12の腫瘍に侵された女性が「強化人間」に? 未知の遺伝子変異と特殊免疫を発見=最新研究

2022年11月13日(日)17時0分 tocana

 2歳でがんになって以来、36歳までになんと12回も腫瘍が発生した女性の身に起こった驚くべき変化とは——。驚くべきことに遺伝子レべルで“強化人間”に変貌を遂げたというのだ。


■12回がんになった女性の遺伝子を解析

 あるスペインの女性は2歳の時に初めてがんの治療を受け、15歳の時には子宮頸がんと診断された。


 さらに20歳の時に唾液腺腫瘍が外科手術によって切除され、その1年後、低悪性度の肉腫を除去するためにさらに手術を受けた。そして20代から30代にかけて、次々と異なる腫瘍が診断され、彼女には36歳になるまで合計で12の腫瘍が発生し、そのうち5つは悪性であった。


 スペインの研究者はこの女性の奇妙な病歴に着目し、なぜ彼女ががんになりやすいのかを突き止めるための研究に取り組んだ。


 女性とその家族の許可を得て、スペイン国立がん研究センターが率いる国際研究チームは、血液サンプルを採取し、シングルセルDNA解析を用いて、何千もの細胞内の遺伝子変異を調べた。


 DNA解析の結果、きわめて奇妙なことにこの女性はがんになりやすい独特の突然変異を持っていることが判明した。


 細胞が分裂する前に染色体を整列させるのに役立つ「MAD1L1」と呼ばれる遺伝子が対になる染色体の両方で突然変異を起こしていることがわかったのだ。MAD1L1の片方が変異しているケースはマウスでも確認されているが、染色体の両方が変異しているというのは人間では前代未聞のことである。


 MAD1L1遺伝子は、細胞が分裂する前に染色体を整列させるのに役立つ重要な機械の役割を担っており、腫瘍の抑制に関与していると考えられている。つまりMAD1L1が変異すると腫瘍が成長しやすくなる可能性が高まるのだ。


 女性の家族のメンバーもこの変異を持っていたが、それは一方のみであり、遺伝子の両方のコピーがこの特定の変異を遂げていたのは彼女だけであり、それどころか人体で確認された初めてのケースであった。


 この女性では、突然変異が細胞複製機能障害を引き起こし、異なる数の染色体を持つ細胞を作り出していた。彼女の血液細胞の実に約30〜40%に異常な数の染色体があったのだ。


■「強化された免疫反応」を持っている

 人間は通常、身体のすべての細胞の核内に23対(46本)の染色体を持っている。染色体は細胞が有糸分裂または細胞複製を行おうとしているときに「X」の姿で形成される、凝縮されたDNAのパッケージである。


 染色体の各ペアでは、1つはその人の母親から、もう1つはその人の父親に由来する。


「多彩異数性モザイク(mosaic variegated aneuploidy、MVA)」と呼ばれるまれな状態の人は、異なる色のタイルのモザイクのように、異なる細胞にさまざまな数の染色体を持っている。この状態は、12のがんを経験したこの女性をはじめ、いくつかの異なる遺伝子変異によって引き起こされる可能性がある。


 MVAを持って生まれた人は、発達遅延、小頭症、知的障がい、およびその他の先天性欠陥を有することがよくある。そして彼ら彼女らはがんになりやすい。


 この女性には知的障がいはなく、彼女が受けたがん治療の回数を考慮すると比較的普通の生活を送ってきていた。


「この個体が胚の段階でどのように発達したのか、またこれらすべての病状を克服できたのか、いまだに理解できていません」とスペイン国立がん研究センターの研究チームは説明する。


 がんにおけるMVAの役割はまだ十分に理解されていないが、腫瘍の約90%に余分な染色体または染色体が欠落しているがん細胞があることがわかっている。また高度のMVAががんの予後不良と関連していることも突き止められている。


 この研究ではこの女性のようなMVAを持つ人々は「これらの患者の臨床管理に新しい機会を提供する可能性がある」ことが示唆され、「強化された免疫反応」を持っていることが示されたのである。12回のがんを体験することで彼女は強力な免疫力を獲得した“強化人間”に変貌を遂げたことにもなる。さらに研究を深めることで、画期的ながん治療法が開発できる可能性も指摘されていて続報にも期待したい。


参考:「Science Alert」、ほか

tocana

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