学校でトイレを我慢してしまう子どもたち、小児科医が膀胱炎よりも心配なこと

2022年12月5日(月)10時21分 マイナビ子育て

子供が学校のトイレを嫌がって排泄を我慢してしまうのは、昔からよく聞く話です。でも、どうして子供は学校のトイレを嫌がるのか、排泄を我慢するとどんな問題があるのか、小児科医の森戸先生に聞きました。

公立小中学校の洋便器率は、まだ57%

(※画像はイメージです/PhotoAC)

昔から「学校ではトイレに行きたくなくて、つい我慢してしまう」と言うお子さんは多く、よく聞く話です。そもそも大人でも同じですが、排泄の問題は非常にデリケート。使い慣れていて、しかも家族しか使わない自宅のトイレがもっとも安心できるという人が大半でしょう。

次に、トイレが新しくて明るくて清潔かどうかも重要になります。ところが、学校のトイレには、正反対のイメージを持っている人も多いでしょう。何しろ日本の公立小中学校は第2次ベビーブームのころに建築されたものが少なくなく、改修が行われていない校舎のトイレはとにかく古いため「暗くて汚い」という印象を持つ子もいるでしょう。

すでにほとんどの家庭の便器は洋式なのに、公立小中学校の洋便器率は57%(2021年9月1日時点)[*1]。これも子どもがトイレに行きづらい理由の一つになっています。今では和式トイレで用を足したことがない子どもが多いので、使いづらいのです。

こうした状況から、文部科学省は老朽化した公立小中学校のトイレの改装を進めています。その結果、2022年に同省が杉並区において行った「トイレ改修による教育環境向上の効果例」によると、排泄を我慢する子が減ったことがわかっています[*2]。

今回はこの効果例について詳しく見ながら、子供とトイレ(排尿、排便)について考えていきましょう。

授業中にトイレへ行っても叱らないで

前述の文科省の調査によると、改修前にトイレに行くのを「我慢していた」子供は18%、「たまに我慢していた」子供は33%でした。それが、改修後には「我慢することが減った」との回答が86%だったのです。

トイレに行くのを我慢した理由は「トイレが汚くて嫌」が118件、「トイレが臭くて嫌」が102件、「和式のトイレが嫌」が102件、「時間が足りない」が55件、「人がいると恥ずかしい」が18件、「学校でうんちをするのが恥ずかしい」が18件、「学校でうんちをするとからかわれる」が14件、「その他」が9件でした(複数回答あり)。

やはりトイレが汚かったり、臭かったりすると入るのを躊躇してしまうんですね。この他、使い慣れない和式トイレだったり、休憩時間が短かかったりしても行きづらいようです。また子供はトイレに行くことを恥ずかしいと感じがちでもあります。

そのほか、授業中にトイレに行きたくなった子供に先生が「授業が終わるまで我慢しなさい」「休憩時間に行っておきなさい」などと厳しく叱りつけると、やはりトイレに行きたいと言い出しづらくなりますし、我慢するようになるでしょう。

もちろん、休憩中にトイレを済ませておくよう指導することも必要です。でも、多くの子供にとって、授業中にクラスメイトの前で「トイレに行きたい」と手を挙げるのは勇気のいることですし、生理現象は仕方のないことですから、叱らないようにしていただけたらと思います。

排泄を我慢するのは、なぜいけないのか

では、トイレを我慢するといけないのは、なぜでしょうか。

昔からよく「おしっこを我慢すると膀胱炎(尿路感染症)になる」と言われますが、じつは尿を我慢すること自体が原因で膀胱炎になることはありません。膀胱炎は、大腸菌などの細菌が尿道を通って膀胱に入ることで起こります。そのため、細菌が尿道に入り込んでいた場合に、排尿回数が少ないと尿とともに体外に排出されないために膀胱炎になるリスクが高くなるのです。

小学生の場合はそれよりも、人前でおもらしをしてしまうかもしれないことのほうが問題です。他の子供たちの前で、おもらしをしてしまうと、からかわれることになるかもしれませんし、そうでなくても排泄の失敗は本人の自尊心を傷つけます。

一方、うんちを我慢するといけないのはどうしてか、ご存じでしょうか。それは便秘になるからです。私たちの体は何度も便意を無視し排泄をしないでいると、便意を感じにくくなります。また、正常に便意を感じられず便が溜まって硬くなると、排便時に痛みを感じるのでますます我慢してしまい、悪循環に陥ってしまうのです。

便秘が悪化すると、お腹が張って食欲が低下したり、ときには脂汗をかくほどの腹痛が起きたり、肛門が切れて出血したりします。これを防ぐには、普段から同じ時間に食事をしてトイレに行って排便すること、授業中でもいつでも便意を感じたらトイレに行くことが大事です。

「トイレに行きたいときに行けること」、これは子供の人権を守るうえでも、健康を守るうえでも非常に重要なこと。トイレに行きづらい環境だと、水分の摂取量を減らそうとする子もいます。そうなると、特に春から夏は熱中症が心配ですね。

子供たちのために、常にトイレに行きやすい環境づくりを心がけましょう!

参考)[*1] 文部科学省「公立学校施設のトイレの状況について(令和2年9月1日現在)」[*2] 文部科学省「施設整備による教育環境の向上の効果(トイレ)」

お話をお聞きしたドクター 小児科専門医/どうかん山こどもクリニック院長森戸やすみ 先生 一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都谷中のどうかん山こどもクリニック院長。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本の発表に意欲的に取り組んでいる。『子育てはだいたいで大丈夫 小児科医ママが今伝えたいこと! 』(内外出版社)、『祖父母手帳』(日本文芸社)など著書、監修多数。■Twitter

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この記事の執筆者 大西まお 編集者・ライター。出版社にて雑誌・PR誌・書籍の編集をしたのち、独立。現在は、WEB記事のライティングおよび編集、書籍の編集をしている。主な担当書に、森戸やすみ 著『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、名取宏 著『「ニセ医学」に騙されないために』など。特に子育て、教育、医療、エッセイなどの分野に関心がある。■Twitter

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