【ハワイ州の取り組み】後世に残したい自然こそ、私たちが見たいもの。官学民一体で社会課題の解決を目指す

2022年5月6日(金)11時0分 ソトコト

マラマハワイ——ハワイを思いやる意識から持続可能な観光をつくる





近年、世界の多くの観光地は持続可能な社会の実現に向けて、観光産業が担う役割の重要性を認識し、地域社会へ貢献できる観光へと舵を切っています。
ハワイではこのような取り組みの源流とも言える“Mālama Hawaiʻi マラマハワイ”という概念が、1976年、約40年も前に生まれています。マラマとはハワイのことばで「思いやりの心」という意味です。ハワイ州観光局は「マラマハワイ」をスローガンに、ハワイの文化や自然を守り、住民の生活も旅行者の体験も、より豊かなものにする取り組みをおこなっています。また、ハワイ州は、国連SDGsの正式採択に先駆けて2014年に定められた「アロハプラスチャレンジ」という、いわばハワイ版SDGsを社会目標に掲げており、観光でよりよい社会を実現する取り組みも目指しています。
そこに2020年の新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、半年間ほど旅行者の往来が途絶えました。そのことは経済的打撃というマイナス面だけではなく、自然環境が目に見える形で再生し、島々を守り継いでいく住民の責任意識を高めることにもつながりました。
「観光と環境」、「住民と旅行者」の関係は、適切に管理することでちょうどよいバランスを保ち、持続可能な観光に繋がります。そのことを証明した人気観光地・オアフ島のハナウマ湾自然保護区と、カウアイ島のハエナ州立公園の例をご紹介しましょう。


王族に愛された美しいビーチ、ハナウマ湾自然保護区の水質が改善





ハワイの玄関口であるオワフ島東海岸にあり、全米ベストビーチランキング1位に2度も輝いたことのある人気の自然保護区、ハナウマ湾。もともと透明度が高く、ウミガメや熱帯魚が多く見られるシュノーケリングスポットでもあります。
約3万2000年前の火山活動によってクレーターが形成され、長年の海水や雨の浸食によって、ハワイ語で「曲がった湾」という意味をもつ現在の形になりました。高台からの眺めは格別で、ハワイの王族たちに愛された神聖な場所でもあったそうです。王族以外の立ち入りは禁止されていました。
以前は湾の魚に餌を与えることが禁止されていませんでしたが、多くの人が餌付けしたことで水質が悪化。生態系にも影響を与えることが問題となり、自然保護区に指定され、環境を守るためのさまざまなルールが設けられました。たとえば、餌を与えること、海の中で珊瑚の上に立つことや触ること、足ひれで海底の砂を巻き上げること、サンゴに有害な成分を含むの日焼け止めを使用すること、などが禁止されています。
このように、コロナ禍以前からさまざまなルールを設けて環境保護に努めてきたハナウマ湾ですが、パンデミックによる公園閉鎖で海洋環境が再生したことを受け、さらに強化されました。


コロナ禍で観光客が減ったことで、海水の透明度が42%も高まったハナウマ湾





ハワイ大学の研究者が2020年4月21日から6月16日の間、週に1回、水の透明度を測定したところ、コロナ禍で閉鎖される前よりも湾の水が約42%澄んでいることがわかった、と発表しています。またコロナ禍以前の、湾が閉鎖されている火曜日と比較しても、水は18%澄んでいたということです。
この状態をできるだけ維持しようと、ハワイ州は2021年7月1日より、入場料金をこれまでの12ドルから25ドルに引き上げたほか、1日に入場できる人数を1400人(10分40人)にまで減らしました。また、入場時の混雑を避けるため、2021年4月26日にオンライン予約システムが導入され、入場するためには予約が必須となりました。
※予約サイトの内容については、2022年5月時点のものになります。最新の情報は公式サイトをご覧ください。





もともとハナウマ湾では、入場前に9分間のオリエンテーションビデオの視聴が義務付けられていますが、予約するのはこのオリエンテーションビデオの視聴時刻です。
このように、多くのルールや規制があるハナウマ湾ですが、保護された美しい海は波も少なく、浅瀬では海洋動物が見られるため、シュノーケリングスポットとして不動の人気を維持しています。
自然や環境を学べるエデュケーションセンターもあり、ハナウマ湾で楽しく遊ぶだけではなく環境を守るためのルールや規則も学べ、より深くハナウマ湾を体感できるようになっています。ハナウマ湾自然保護区では、美しい環境を守ることが住民の生活も旅行者の体験も豊かなものになると捉え、観光と環境のバランスをとることで持続可能性を目指しています。


大自然を満喫できるカウアイ島ハエナ州立公園では、無断駐車や渋滞問題が解決





もう一つの事例は、カウアイ島の北岸にあるハエナ州立公園です。カウアイ島は約500万年前にハワイ諸島の中で最初に誕生した島といわれ、別名「ガーデン・アイランド」と呼ばれています。島には雄大な自然が満喫できる数々のトレイルがあり、その玄関口として多くの旅行者が訪れていたのがハエナ地区にある州立公園です。
ハエナ地区には「リマフリ・ガーデン(熱帯植物園)」があり、昔の村落やロイカロ(タロイモ畑)が再現され、カウアイ島やニイハウ島固有の植物などが育てられています。山頂から海辺までの資源を平等に分配する暮らしを管理したエコシステムで、ハワイ先住民の生活や理念を知る上で重要な概念のひとつを“アフプアア”と言いますが、リマフリ・ガーデンでは、その生活様式の復元に取り組んでいます。住民にとっては先祖から継承した「心のふるさと」といえる大切な場所です。





公園の北端で街からの道路の終点に当たる海岸は、カウアイ島で最も美しいと言われるケエ・ビーチ。シュノーケリングに適していて、大型のウミガメの産卵地でもあります。また、ナパリ・コーストなどにも行けるトレイルの出発点でもあるため、とても賑わう場所です。





「ナパリ」はハワイ語で「絶壁」。島の誕生から長い時間をかけて隆起や風雨の浸食により作り出されたナパリ・コーストは、切り立った断崖絶壁の岩肌が濃い緑で覆われ、海と空の青色のコントラストが荘厳で美しいところです。
その他にも滝や洞窟があり、ハワイの先住民の小人族の伝説の発祥地でもあり、ハワイの大自然と民俗に興味のある人にはとても魅力的な公園です。そのため多くの旅行者が訪れます。道路脇に無断駐車する多くのレンタカーや交通渋滞などの問題が年々深刻化し、地域住民は抗議活動を行なっていました。


地域の非営利団体が州立公園の管理運営を任される





2018年、ハエナ地区のあるカウアイ島北岸は壊滅的な洪水の被害を受け、ハエナ州立公園とナパリ・コースト州立原生自然公園は2019年6月まで閉鎖されていました。これを改革機会と捉らえた州立公園局は公園管理の見直しに次のように取り組みました。
まず、公園の管理を地域住民によって構成される非営利団体『フイ・マカアイナナ・オ・マカナ』が担うことになりました。『ハワイ州土地・天然資源委員会』からの承認は1年間の期限付きですが、ハエナ州立公園の保護と管理に全面的に参加しようとする地域住民の努力の成果です。
フイ・マカアイナナ・オ・マカナは、ハエナ州立公園への入園をすべて予約制にして、来園者の入場制限を実施。駐車場を整備し駐車台数を制限して、その管理を地域密着型の非営利団体『ハナレイ・イニシアチブ(THI)』に委託しました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより運行を停止していたシャトルバスの運行も、2021年7月に再開しました。これにより、10カ月間に74,000人がシャトルを利用し、3万台の車両数を減らすことができました。
現在、ハエナ州立公園への1日の入園者数は900人までと定められ、事前予約が必要です。州民以外の入場予約には1人5ドル、駐車予約1台10ドルが必要です。予約は30日前から可能となっています。このような取り組みにより、自然資源のさらなる保全、よりよい現場管理が旅行者の体験の質を高めることに成功しました。
※予約サイトの内容については、2022年5月時点のものになります。最新の情報は公式サイトをご覧ください。


* * * * * *
興味深いハワイの取り組みはまだあります。次回は「ゼロ・ウェイスト」の取り組みをご紹介します。

ソトコト

「ハワイ」をもっと詳しく

「ハワイ」のニュース

「ハワイ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ