吉岡里帆と蓮佛美沙子が二人芝居「まつとおね」で能登へ...被災地への思い
2024年12月24日(火)11時0分 大手小町(読売新聞)
来年3月に上演される吉岡里帆さんと蓮佛美沙子さんによる二人芝居「まつとおね」(石川県七尾市・能登演劇堂)は、地震と豪雨で大きな被害を受けた能登での舞台で、「復興祈念公演」と銘打たれました。ともに戦国武将の妻の役を演じる吉岡さんと蓮佛さんに、舞台にかける思いを聞きました。
<まつとおね> 戦国動乱の世に天下統一を果たした豊臣秀吉に仕え、加賀(石川)の地を治めた前田利家の妻・まつと、秀吉の妻・おね。固い友情の絆で結ばれ、戦国武将の夫を献身的に支えた二人の女性の生きざまを描く。
原作・脚本は、NHK大河ドラマ「天地人」(2009年)、「花燃ゆ」(2015年)などで知られる脚本家の小松江里子さん。演出は歌舞伎俳優の中村歌昇さん。ナレーションは、シンガー・ソングライターの加藤登紀子さん。音楽は、NHK連続テレビ小説「あすか」や「ごくせん」などを手がけた作曲家・大島ミチルさん。企画・プロデュースは、七尾市出身の近藤由紀子さん。
——二人芝居に出演するのは今回が初めて?
四人芝居の経験はありますが、二人芝居は初めてです。ただ、私自身、二人芝居をよく見に行っていて、役者さんが相手にだけ集中して演じている感じが面白いなと思って、いつかやってみたいと思っていたんです。だから、出演のオファーをいただいた時は、とてもうれしかったです。
——演じる二人の空気感が、舞台を支配しますね。
きっと緊張すると思います。責任がより重大ですよね。蓮佛さんを絶対に困らせたくないですし……(笑)。それに、劇場の大きな空間をどうやって二人で埋めるのか、私にとってはチャレンジです。四人芝居に出演した時は、家の中の一室だけで物語が展開していく設定だったけれど、今回は、年月も場所も移り変わっていく設定なので、それを二人だけでどのように見せるのか。「これは難しそうだな」と感じています。
——脚本を読んで、まつという女性をどう受けとめましたか?
激動の時代の中で、何があっても強く生きていくんだという気持ちがまつさんにはあって、私も励まされる気がしたし、簡単には心が折れないところに共感しました。
——最近は、テレビドラマや映画など映像のお仕事が多いと思いますが、演劇への思いは?
小劇場でのお芝居から(俳優業を)スタートしたこともあって、演劇のお仕事は思い入れが強いです。映像だと、見てくださるお客さんと役者は直接つながれませんが、演劇は、劇場に足を運んでくださって目の前にいるお客さんのためだけに演じる。役者としてすごくシンプルでピュアなことだけれど、一番緊張することでもあります。
——その日その日でお客さんの反応も異なると思います。
お客さんが作ってくださる空気によって、お芝居が変わったりもします。そういう“生もの”としての舞台の面白さは、実際に見ていただいて初めて分かるものかもしれません。来年から大河ドラマ(「豊臣兄弟!」)の撮影が始まるので、舞台のお仕事はしばらくできなくなりそうですが、その分、今回の「まつとおね」に私の全てを注ぎ込んで、舞台への思いをぶつけたいです。
——1月の地震で、能登演劇堂も照明などが損壊して公演が開けなくなりましたが、修繕が進んで、「まつとおね」で公演が再開されることになります。プレッシャーは感じませんか?
もちろん、たいへん感じています。石川県の皆さんが「やってもらって本当に良かった」「素晴らしいものを見た」と思ってくださるよう頑張らないといけないなと今から緊張しています。
——県外からも大勢の人が訪れると思います。
9月に七尾を訪れた時、地元の方々が「能登に来てもらうことに意味がある」とおっしゃっていて、私もそれが復興のためにとても大事なことだと思っています。まずは能登に関心を持ってもらって、能登を訪れたら、買い物をしたり、食事をしたり、能登演劇堂で観劇を楽しんでもらったり。すごく良い一日になるんじゃないかと思います。
——多忙な日々のなかで、気分転換のために実践していることはありますか?
サウナに行きます。最近は、カフェみたいな雰囲気のおしゃれなサウナもあって、そういうところで体を温めています。それと、家に植物をたくさん置いて、お手入れしながら癒やしをもらっています。ゼラニウム、レモン、オリーブ、ローズマリーなどなど、いっぱいあるんですよ。
——出演オファーを受けた時、どんなことを考えましたか?
能登半島地震からの復興を祈念する作品ということで、「すごく光栄だな」と思ったのと同時に、「上演していいのだろうか」という葛藤もありました。その時は地震からそれほど日もたっていなかったですし。
ただ、いろんな人にお話をうかがう中で、被災地に「エンターテインメントが生きる活力になる」と言ってくださる方がいると聞いて、その声は決して無視できないなと。能登にそう言ってくださる方が一人でもいらっしゃるのなら、その思いに寄り添って、応えられるように頑張りたいなと。
もちろん、地震や大雨の被害がより大きかった奥能登には、演劇どころではないという方々がいらっしゃることも忘れてはいけないと思っていますし、別の方法で支援を続けていきたいと思っています。
——蓮佛さんにとって演劇とはどういう存在なのでしょう?
演劇は、役者として特に鍛えられる、成長できる場所だと認識しているんです。例えば1か月間の公演だとしたら、同じコンディションを1か月間保つ必要があります。体調が思わしくないなら、「その時にできる100%の力」を模索して演じなくてはいけません。それに、映像のお芝居だったら、「もう1回やらせてください」とお願いして撮り直したり、後でうまく編集してもらったりできるけれど、舞台は“生もの”だから、それができない。演劇のお仕事は、より緊張感をもって臨まなければならない分、役者として鍛えられると思っています。
——脚本を読んで、おねにはどんな印象を抱きましたか?
感情の発露が鮮やかというか、思ったことを素直に表現できる女性なのかな。歴史の書物を読んで勉強してみても、そんなふうに書かれているものが多いんですよ。朗らかな性格だったおねが、時代に
——「まつとおね」は時代劇で、なおかつ二人芝居です。これまで経験した舞台とはかなり毛色が違いますね。
演出が中村歌昇さんで、歌舞伎の要素が入るという意味でも、私にとっては全く未知の世界です。今まで経験してきた舞台だと、役者さんが大勢いて、舞台からいったんさがる時間が休憩ポイントだったりしますが、今回は二人だけの会話劇なので、舞台上でずっとしゃべり続けるんです。役者としてお芝居の世界に没入できるので、ふだんとは違う感覚に入り込めるんじゃないかという期待がある一方で、お客さまにもお芝居に没入し続けていただかなくてはならないので、緊張も今から感じています。
——吉岡さんとは初共演ですね。どんな印象ですか?
テレビで拝見していた通りの華やかさ、穏やかさと同時に、彼女の目の奧にある「強さ」を感じました。役者の道を頑張って歩んできたからこそ得られた「強さ」なんだろうな、まつ役にぴったりだなと。
——二人芝居のパートナーとしては心強い?
心強いですね。彼女の方が年下だけど、「ついていこう!」と思いました(笑)。
——公演で七尾に滞在している間、楽しみにしていることは?
里帆ちゃんが、すごくおいしいおすし屋さんに行ってきたそうなんです。「一緒に行こう」と言ってくれているので、私もおいしいものを食べたいですね。同時に、能登の現状をしっかり見ていきたいとも考えています。
——仕事以外に最近、関心を抱いていることはありますか?
健康です(笑)。共演者や知り合いと「この蜂蜜がいいよ」などと情報交換をし合って、体に良いものを取り入れるようにしています。漢方を取り入れ始めたら、自分で体が変わってくるのが分かって、今すごく夢中になっているんです。健康を保って、「まつとおね」を最後までやりきれたらと思っています。
(読売新聞文化部 武田実沙子、メディア局 田中昌義)
【公演情報】「まつとおね」◇期間 2025年3月5日〜23日◇場所 能登演劇堂(石川県七尾市)◇出演 吉岡里帆、蓮佛美沙子◇ナレーション 加藤登紀子◇原作・脚本 小松江里子◇演出 中村歌昇◇音楽 大島ミチル◇企画・キャスティング・プロデュース 近藤由紀子◇主催 公益財団法人演劇のまち振興事業団◇チケット料金 前売り一般7700円、当日8200円、障がい者5500円、18歳以下(小学生〜満18歳まで)無料、18歳以下の同伴者3850円=いずれも税込み