高橋大輔の新たな一歩、新しいアイスショー「滑走屋」までの軌跡とこだわり

2023年12月26日(火)12時0分 JBpress

文=松原孝臣 撮影=積紫乃


アイスショーの新たな幕開け

 新たな一歩を踏み出そうとしている。

 高橋大輔は長いキャリアにおいて、いつもフィギュアスケ—トの新たな歴史を築いてきた。記録で見れば、2010年のバンクーバー五輪で日本男子初のメダルとなる銅メダルを獲得。同年の世界選手権ではやはり日本男子初の金メダルを獲得。いくつもの「初」を打ち立て、日本フィギュアスケートの未来を切り拓いてきた。

 その存在感は記録ばかりによるのではない。2014年に引退後、2018—2019シーズン、32歳で4年ぶりに現役に復帰、全日本選手権で2位となった。2020—2021シーズンからは村元哉中をパートナーに、アイスダンスに転向。世界選手権に出場するのみならず日本最高タイの成績を残し、スコアでも日本歴代最高を得た。挑戦者として歩む姿があり、何よりも屈指の表現者として氷上で見せる演技で人々を惹きつけてきた。

 そして今再び、新たな一歩を、チャレンジをしようとしている。2024年2月10〜12日にかけて「オーヴィジョンアイスアリーナ福岡」で開催するアイスショー「滑走屋」だ。高橋自らがプロデュースする。

「アイスショーの、新たな幕開けになれば良いなと思っています」

 その言葉は、ショーの内容、ショーのあり方の双方においてであることを高橋の話に知る。

 自らプロデュースする背景には、先のアイスショーでの体験がある。

「(2023年)1月に横浜、5月に福岡で行ったアイスショー『アイスエクスプロージョン2023』で初めてプロデュースを手がけました。出演するメンバーをどうつないで見せていくのか、グループナンバーをどこに入れるか、全体の流れをどうするのか、自分が見てみたいアイスショーをやってみた感じです。僕はもともと舞台やミュージカルなどを観るのが好きで、そういう世界、自分の世界に入り込んで途切れない感じを見てみたいという思いがありました。やってみて面白かったですね」

 好評を得た「アイスエクスプロージョン」でプロデュースへの感触を得て、同じく自らが見たい公演にしたいという「滑走屋」では、その方向性を深化させようとしている。


フィギュアスケートそのものの魅力を体現

 こだわりは出演スケーターにも表れている。今回、国際大会などで活躍するスケーターに加え、高校生や大学生たちもアンサンブルスケーターとして14名が参加する。

「東日本選手権、西日本選手権を見に行って、そこで出てほしいと思った選手にオファーしました。まずは人数で圧倒するパフォーマンスを見せたい、疾走感やスピードが生み出す迫力を出したいと思っています。出演する学生の子たちも、ほんとうにスピード感のあるスケーターたちです」

 それは、氷上ならではの陸上ではできない動きのできるフィギュアスケートそのものの魅力を体現しようという試みでもある。それをかなえるためのスケーターたちの集団であることを、タイトルにも示している。

「みんなが職人であって、職人たちによるクオリティが高いパフォーマンスができれば、必ずしもスケーターとしての知名度は必要ないと考えています。『滑走屋』は職人っぽいニュアンスを込めていますが、そういう考えもあってつけています」

 振り付けはフィギュアスケート界の外部から起用する。元劇団四季で東京パノラマシアター主宰のダンサー/振付家の鈴木ゆま氏で、高橋が主演した舞台「氷艶2019」に出演してもらったときからの縁だという。

.鈴木さんが今年演出した舞台を見に行かせてもらったときに、構図の使い方とかすごいかっこよくて、世界観が好きで、いつかやってもらいたいなと思っていました。フィギュアスケートの中だけの常識というか枠で収まってしまうよりも、外の人だったら全然違う提案があったり、面白さも出てくると思うんです」

 今回の出演者でもある村元の助力も得ている。

「哉中ちゃんは音楽編集ができるので、いろいろ相談にのってもらったりしています」

 プロデュースのみならず、今回のショーでは、4年ぶりに高橋の新しいソロナンバーの披露があるほか、村元もソロナンバーを予定しているという。

 ショーの内容もさることながら、実施する概要も目をひく。1回あたり1時間15分とし、今までのアイスショーにはない1日3回公演を行う。また、チケットの料金をアイスショーとしては低価格におさえられている。

 根底には危機感がある。

 今春以降、ときにフィギュアスケート界の人々から、「観客が減ってきているのでは」と聞くことがあった。実際、アイスショーや大会の中には、空席が目立つ会場もあった。高橋もその実感はあるという。だからこう語る。

「今までずっと見て応援してきていただいた方々にはもちろん、今までアイスショーを見たことがない方々にも来てほしいと思っています」

 だから、チケット料金を下げて手を伸ばしやすいようにし、「初めてだと2時間、2時間半は長く感じると思うので、公演時間を1時間15分にしました。もちろんその時間で十分楽しめるものにします」。


好評だったからこその悔しさ

 実は「アイスエクスプロージョン」は、好評だったからこそ、悔しさも残っている。

「初めてアイスショーを見た方々からも『面白かった』という声をいただきました。一方で、公演があったこと自体を知らない方も少なくなかったことも聞きました。来てもらえていたら楽しんでいただけたんじゃないかという思いがあります」

 これまで福岡では、アイスショーはあまり行われたことがない。決して身近なものではないことも知るから、12月初旬からは自ら福岡入りし、テレビ、ラジオ、新聞といった各メディアで、あるいはトークショーで、PR活動に精力的に努めた。それもまた、「滑走屋」で創り上げるエンターテインメントの力を信じるからにほかならない。

「アイスショーって冷たい空気感があって、そこで聴く音楽から感じられるものも神秘的だったり、その音楽と氷の上の動きだったり、ふだん体感できないものがあると思うんですね。やっぱり陸上ではないスピード感を出せますし、エンターテインメントもいろいろありますが、その中でも楽しんでいただけるものになると思います」

 そして、福岡公演の先をも見据える。

「福岡で成功すれば、今後、各地で公演を行っていくこともできると思いますし、『滑走屋』というアイスショーのフォーマットを確立できれば、それこそ僕じゃなくて(村元)哉中ちゃんだったり、(友野)一希だったり、他のスケーターが演出を担当することだってできると思うんです。将来的にはカンパニー的なものになっていけばいいな、という思いもあります。もし公演が各地でできるようになっていけば、将来的にその地域のスケーターをたくさん起用してやっていく感じもいいなっていう思いもあります。

 今も魅力的なアイスショーがたくさんありますが、それに加え、アイスショーという名の新しい形の提案をしたいですし、そのスタートを多くの方々に、一緒に見てもらえればうれしいですね」

 これまでもフィギュアスケート界の新たな地平を切り拓いてきた。「滑走屋」もまた、高橋大輔が切り拓こうとする未来にほからならない。

 福岡の地は、貴重なスタートの舞台となる。

筆者:松原 孝臣

JBpress

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