高齢化、経営不振、後継者不足... 消えゆく大衆浴場を救う「銭湯代行業」とは

2019年12月28日(土)11時0分 Jタウンネット


「お知らせ 東京浴場は当分の間休止します 大家」



2019年5月、西小山の東京浴場(品川区)が休業を宣言した。1962年に創業した老舗銭湯の休業にショックを受けるファンは少なくなかった。


しかし11月頃から、「東京浴場が復活する」という噂が流れ始めた。ツイッターでは、


「仕事場で泊まるたび世話になっていた西小山の東京浴場が休業になりはや半年、もはや絶望していたけど現在リニューアル中と知りとても嬉しい...」
「頻繁に行っていた東京浴場が休業になって近場の銭湯がみんな無くなり残念だったのですが、再開と聞いて心から嬉しいです。どんな風に生まれ変わるのか今から楽しみです」
「なくなりつつある銭湯が復活されるのは良いですね!」



といった声が寄せられている。


いったい、どういうことなのか。


実は11月23日、銭湯経営の代行業を行う「ニコニコ温泉」という会社が、東京浴場の運営を引き継ぐ旨をツイッターで発表したのだ。同社はこれまでにも、「富士見湯」(東京都昭島市)や「湊山温泉」(神戸市)といった銭湯を引き継ぎ、運営している。


銭湯代行業という仕事自体、聞いたことがないという人もいることだろう。経営者の高齢化によりやむなく廃業するケースも少なくない中、どのような方法で銭湯を復活させているのだろうか。Jタウンネットがその裏側を取材した。


入浴以外のサービスを新たな収益源に


Jタウンネットは12月13日、現在リニューアルオープンに向けて準備を進めている東京浴場に足を運んだ。


休業してから半年ほどたった銭湯は以前の姿を残したまま。しかし所々に機材が置かれ、パイプがむき出しになった床を見ると、一つの時代を終えたことを実感する。


ニコニコ温泉の広報を担当する田川あす美さんによると、SNSで「誰か引き継いでくれないか」との声があったことから、東京浴場の運営を引継ぐことを決めた。店子と同じように大家に家賃を払い、銭湯をやっていくという。


銭湯代行の事業を始めたのは2016年から。グループ会社の「伊豆高原ビール株式会社」より出資をうけ、廃業や休業を余儀なくされる銭湯の経営・運営を引き継いでいる。「銭湯はコヂンマリとしており楽しそうで、儲かりそう」と思ったことが事業開始のきっかけだという



引き継ぐといっても、以前の姿そのままで運営するということではない。ビジネスとして収益を上げるため、外観・内観ともに大きく手を加える。


例えば、すでにリニューアルオープンした「富士見湯」では、営業時間を拡大するほか、


・浴場壁画を明るくポップなものに変更
・ロビーに漫画7000冊を置き、読み放題に
・オモチャをたくさん入れたお風呂で子連れ客を誘致
・寝転べる有料休憩スペースの設置


といった取り組みを行った。銭湯の枠を超え、「漫画喫茶」に近い改造だが、これにより来客は増加。引継ぎ前は平日客数80人程度の赤字銭湯だったが、現在は平日350人、土日祝は550人が足を運ぶようになり、黒字経営を実現している。


「組合に属する銭湯は物価統制により入浴の価格を自社で上げることが出来ません。よって入浴以外のサービスにより新たな収益源をつくることを目的に、銭湯とマンガやアニメ等、サブカルチャーと掛け合わせた事業にチャレンジをしています」



廃業の話題の尽きない銭湯を、現代にも通用するビジネスモデルとして確立させたい——田川さんは既存の客層に加え、20代、30代の若い世代を取り込みたいと意気込む。富士見湯ではその目論見通り、若い客層がぐっと増えたそうだ。


工事前の準備に悪戦苦闘


東京浴場はどんな姿になるのだろうか。


ロッカーの数を減らして更衣室を狭くし、ロビーを設置。ロビーにはたくさんの漫画を置き、浴場の壁画はプロジェクターに、水風呂や座り湯などお風呂の種類も充実させる。外からロビーの様子が見えるようにする——


工事自体は施工業者へ依頼するが、設備の確認やデザインは自分たちで行う。


「元の形にはこだわらないけど、ステンドグラスや床など生かせる部分は生かしたい」



リニューアルするにあたり、田川さんはこのように話す。


東京浴場に関しては周辺地域に温泉施設の競合があるため、方向性などは他施設と被らないようにするとのこと。収益を得られる見込みがあることを前提にしながらも、「遊び心を取り入れること」「訪れた人がわくわくする空間」にすることを目指しているそうだ。


しかし現在はまだ改装工事に取り掛かる前の準備段階。改装に当たって分からない部分が多く、作業は難航しているようだ。


半年ほど休業していたため、久しぶりに設備を稼働させてもお湯は薄く濁ってしまっている。もちろんこれをどうにかしなければお客さんは呼べない。この後「濾過器」を回し、お湯は見違えるように綺麗になったようだ。


濾過器ほんと凄い。風呂の底が良く見えるくらいお湯が綺麗に。剥がれたタイルの失われた海底都市が見えました......(・ω・`) #銭湯 #西小山 #東京浴場 pic.twitter.com/zs0hAWEfx7
- 西小山 東京浴場 (@245tokyoyokujo) December 17, 2019

またリニューアルにあたって、配管の配置を知る必要がある。お湯を流し、手で触ってその温度を確かめていくが...。なかなか根気のいる作業だ。


新しい店主は21歳


浴場内を歩いていて思ったのは、銭湯を維持し運営するのは、高齢者にとって体力的に非常に厳しいということ。浴槽や屋上のタンクの清掃など、店子自身もしくは少ないスタッフでやらなければいけない。


銭湯を引き継げることはラッキーだと、田川さんは話す。これまでリニューアルした湊山温泉は600年以上の歴史を持つ老舗。すでに廃業が決まっていたが、なんとか継続することができた。朝5時からの朝風呂が高齢者に好評だという。


東京浴場の新店主は21歳の相良正之さん。母の温泉で働いていた影響もあり、小さいころから温泉や銭湯が好きだった。上京してからは銭湯を紹介するブログを書き、社会人になってからも銭湯関係のアルバイトを続け、19年4月にニコニコ温泉に転職したという。


かねてより自身で銭湯を経営したいと思っていた相良さんは、オープン後は東京浴場に住み込みで働く。


「清潔で、家族連れを始めとしたいろいろな世代が来る銭湯にしたいです」



設備の点検を行いながら、新・東京浴場のオープンに向けてそう意気込んだ。


東京浴場は2020年2月オープン予定。

Jタウンネット

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