「外国人街化」する日本の名所。海外のオーバーツーリズム事例に学ぶ、観光客に“ナメられない”対策とは
2025年2月22日(土)21時25分 All About
インバウンド急拡大により、「外国人街化」した北海道ニセコ町。オーバーツーリズムの問題は、京都や大阪などでも同様に抱えている。日本はどのようにコントロールしていくべきか。海外の事例と比較しながら考察する。(サムネイル画像出典:Lewis Tse / Shutterstock.com)
筆者も日本各地を出張に行くことが多いが、特に京都などでは日本人の生活に支障が出るほど観光客でごった返しているのを目の当たりにしている。仕事で大阪にもよく行くが、新幹線のホームでは数多くの外国人観光客が大きな荷物を抱えて右往左往している姿をよく目にする。
「外国人街」と化したニセコ
日本でもオーバーツーリズムが問題になっている観光地は北海道の人気リゾートであるニセコ町(以下、ニセコ)だろう。ニセコは外国人観光客の急増によって「外国人街」と化しているという。その様子を取り上げたある記事では、食料品などの物価が高騰し、ウニが1折3万円で売られ、急速冷凍したタラバガニのボイルも3万円近い値段になっているとの報道があった。地元住民には信じられないような価格だが、それでも飛ぶように売れているという。このような状況では、住民の生活にも悪影響を与え、安心して暮らせなくなっていく可能性がある。物価高騰で特に地元の労働者や年金暮らしの高齢者なども居場所がなくなる懸念もある。世界には京都やニセコと同じように「オーバーツーリズム」で地元住民が迷惑している観光地が少なくない。専門家によるいろいろな報告書などを読んでいると、結局は、オーバーツーリズムに対処するには観光客を抑制したり、コントロールしたりすることが重要になる。そこで今回は、海外の人気観光地ではオーバーツーリズムに対してどのような対策を行っているのか、見ていきたい。
日帰り観光客に「入島税」を導入したヴェネツィア
まず参考になりそうなのが、世界で最も人気の観光地の1つであるイタリアのヴェネツィアだ。ヴェネツィアは長年にわたって世界中の観光客を受け入れてきた。歴史的な街の美しさを守りながら、観光客による大混雑を管理するためいくつかの対策を行っている。まず、観光客に対する入島税である。ヴェネツィアでは2024年から、日帰り旅行者を対象に、一定の日時に限定して入島税を導入している。宿泊しない訪問者が立ち寄るだけでは街に恩恵は少ないため、街の景観維持の資金を確保するために、カネをしっかりと取れるようにする。それによって、インフラへの投資も可能になる。
さらに長期滞在を奨励することで、地元文化への理解を深める観光を促進できる。地元ビジネスを支援し、大量生産の土産物店を減らす取り組みも可能だ。
またピーク時には、事前予約を義務付ける試験的なシステムを導入した。それによって人の流れを管理し、混雑を緩和できるようにしている。またスマートセンサーとカメラで観光客の動きを追跡し、混雑エリアの調整やルート変更に活用しているという。デジタル化やAIなどの導入で、ピークの予測などもかなり正確にできるようになっているそうだ。日本でも訪問者の「交通整理」に乗り出すべきかもしれない。
罰則化によって、観光客に“ナメられない”対策を取る必要性
加えて、日本でも奈良公園の鹿にケリを入れる観光客の動画などが一時話題になったが、こうした行為は地元住民が観光客に不快感を持つ原因になる。ヴェネツィアでは、マナーを守らせる取り組みを行っている。例えば、歴史的建造物に座る、禁止されている鳩への餌やりなどに罰金を課すルールを厳格化した。日本の場合は、ゴミの放置や路上飲酒(外国では禁じられている国も少なくない)、喫煙など、ルールを守らない観光客には毅然(きぜん)と罰金を課すべきだろう。
さらにヴェネツィアでは公共意識を高めるキャンペーンも行っており、標識やデジタル掲示板で、観光客に街と住民への敬意を呼び掛ける啓発活動を展開している。これは日本もやるべきだ。
日本では英語ができない警察官も多いので、音声の翻訳機を持たせて毅然と対応させるようにしたほうがいい。フレンドリーなのはいいことだが、ナメられるのはいけない。最近も北海道に現れた外国人の迷惑系YouTuberに警官がフレンドリーに接していたことで話題になっていたが、警官が迷惑行為をする人に対してもフレンドリーな態度に終始するようだと地元住民は不安に感じるだろう。
新規ホテル建設を禁止にしたバルセロナ
ほかの街はどうだろうか。世界的な有名観光地スペインのバルセロナも長年オーバーツーリズムに悩まされてきた。住民の生活と地域経済のバランスを取りながら観光を管理するためいろいろな取り組みを行っている。例えば、短期賃貸の規制で、Airbnb(エアビーアンドビー)など短期賃貸を厳しく制限している。さらに無許可物件に高額な罰金を課し、数千件を閉鎖。これにより住宅価格の高騰を抑え、地元住民の住環境を守っている。
また観光税を引き上げている。ホテルや短期賃貸の税金をきちんと取り、それを公共施設の維持やインフラ改善に活用している。日本は現在、日本から出国する観光客を対象に「国際観光旅客税(出国税)」として1回につき1000円を徴収しているが、入国税も導入して観光地に還元する制度があってもいい。
バルセロナの場合、人気スポットの混雑緩和のために、例えばサグラダ・ファミリアの入場を事前予約制にして、入場者数を制限している。またホテル開発の制限も行い、バルセロナ市の中心部では新規ホテル建設を禁止にした。代わりに、密集エリア外に誘導するように試みている。
迷惑行為への規制もバルセロナのやり方は参考になるかもしれない。バルセロナでは、公共の場での飲酒は禁止で、夜間での騒音にも罰金が課せられている。ヴェネツィア同様、意識向上キャンペーンを行っており、観光客には「責任ある観光」を求め、文化や住民への敬意を呼び掛けているのだ。
こうした取り組みを日本も国が主導しながら、自治体と一緒に行っていく必要がある。京都でもよく耳にしたが、マナーのない外国人が少なくなく、外国人全体への嫌悪感が強まっている印象がある。これは健全なこととは言えない。きちんとコントロールしながら日本の文化を楽しんでもらい、きれい事ではなく、きちんとカネを落としてもらう。そうしないと、日本中にニセコのような景色が広がってしまう可能性がある。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
(文:山田 敏弘)