12歳の少女が実父から受けた性的虐待…裁判所が「被害者の証言は信用できない」と、無罪を言い渡した“驚きの理由”

2025年3月12日(水)8時0分 文春オンライン

〈 子どもの性被害はなぜ不起訴に終わることが多いのか? 加害者を有利にする“記憶の汚染” 〉から続く


 2019年に静岡地裁で行われた一審で、強制性交罪(当時)と児童売春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われたが無罪判決が下った父親。2020年、東京高裁での二審では懲役7年の判決が言い渡されたものの、なぜ一審では無罪判決が言い渡されたのか。『 みんなで守る子ども性被害 』より一部抜粋し、その理由を探る。(全2回の後編/ 前編 を読む)


◆◆◆


「被害者の証言は信用できない」と性加害をした父親が無罪に…


 起訴され、裁判が開かれた場合でも、被害者の子どもによる証言の信ぴょう性は問われつづけます。2017年、当時12歳の少女が実の父親から挿入を伴う性的虐待を受けたとして、父親が起訴されました。少女が入所していた児相の職員が、本人から被害に遭ったと告白されたことがきっかけでした。2019年に静岡地裁で行われた一審で、強制性交罪(当時)と児童売春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われた父親に出た判決は……「無罪」です。



写真はイメージ ©AFLO


 少女は児相の職員に被害を自分の声で開示し、小学5年生の冬ごろから頻繁に性的虐待に遭っていたと具体的に告白しています。だからこそ起訴されたのだと考えられますが、裁判長が語った判決理由は次のとおりでした。


「被害者の証言は信用できない」


「家族がひとりも被害者の声に気づけなかったというのは、あまりにも不自然、不合理」


 少女には軽度知的障害があったことから、出廷した彼女の精神科主治医も「彼女は頻度や曜日についてうまく話すのは苦手」と証言しました。少女がどんな思いで自身の父親を性加害者として告発したのか。その信ぴょう性を否定されたとき、どんな気持ちだったのか——。想像するだけで胸が押し潰されそうになります。聴取では証言を信じてもらえたのに、裁判になって梯子を外された経験は、新たなトラウマとなってもおかしくありません。


成長・発達に合わせた聴取を受けられないのは権利侵害


 しかし2020年、東京高裁での二審では、父親に懲役7年の判決が言い渡されました。逆転有罪です。裁判長は、「証言内容は、実際に被害に遭った者でなければ語りえない、高度の具体性、迫真性を備えている」とし、知的障害があることについても「少なくとも重要な要素で、証言が変遷していると捉えることは不合理だ」と述べたと報道されています。子どもの声に真摯に耳を傾けた結果の判決として、高く評価できます。


 検察が起訴するかどうか判断するときにも、裁判官が加害者とされる被告人の罪状や量刑を問うときにも、被害を受けた子どもの証言は非常に重要だということがおわかりいただけたでしょうか。証言の解釈次第で加害者が不起訴処分になったり、起訴されても裁判で加害者に無罪判決が出たりすれば、被害から回復しようとする子どもにマイナスの影響を及ぼしかねません。


 そもそも子どもの記憶も表現も、とてもデリケートです。誰が、どのように聴取したかによって、内容が大きく変わることさえあります。なぜそうなるのかはこの後お話ししていきますが、子どもにとって成長・発達に合わせた聴取を受けられないのは権利侵害であるといえます。日本でも、チャイルドアドボカシーにもとづいた事情聴取の必要性を強く感じます。


(今西 洋介/Webオリジナル(外部転載))

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