広末涼子さん過熱報道は「反省すべき」 人権について「考えていないとしか」...専門家がテレビ業界に警鐘
2025年4月18日(金)13時10分 J-CASTニュース
交通事故を起こして搬送された先の病院で医療関係者をけがさせたとして逮捕された広末涼子さんが、2025年4月16日早朝に釈放された。広末さんの動向には逮捕時から注目が集まり、テレビでは連日のように捜査状況などが報じられてきたが、その報道姿勢に疑問の声も上がっている。
専門家は、事実関係がはっきりしないうちから推測によるコメントが多く放送された、と指摘。メディアの報道の仕方においては「広末さんは被害者になっているんじゃないかなと思います」と話す。
薬物検査報道でさまざまな憶測も
広末さんが逮捕された8日朝、テレビでは本人だと断定される前から、静岡県警の発表に準拠する形で「自称・広末涼子容疑者」と速報。広末さんの過去の映像を流す番組もみられた。
その後は、広末さんが事故の前や取り調べ中にも落ち着かない様子が続いていたこと、薬物検査を行うこと、家宅捜索を行うことなどが報じられ、SNSでさまざまな憶測を呼んだ。
なお、広末さんの所属事務所は16日に、「正式な鑑定結果においてアルコールや違法薬物は一切検出されておりません。家宅捜索においても薬物が押収されたという事実はございません」と声明を発表している。
家宅捜索の際には警察が広末さんの自宅に入る映像を放送するニュース番組がみられたほか、釈放の際は、広末さんが一礼して車に乗り込む姿を静岡第一テレビ(日本テレビ系)が報じた。「news every.」(日本テレビ系)では、広末さんの行動について精神科医が分析し、その中で車に乗り込む際に笑顔を見せたようなことも指摘された。
一連の報道に、情報番組やワイドショーでも、コメンテーターがさまざまな見解を話した。暴行の現場状況や家宅捜索の理由、釈放のタイミングの理由、広末さんの精神状態、今後についてといったことを推測・分析したほか、驚きや心配の声、広末さんの精神状態や自身で車を運転していたことに言及するコメントなどもみられた。
加熱する報道に、Xでは「なんで連続殺人犯みたいな扱いなん?」「好奇な視線で広末涼子を面白がって消費する流れが醜悪すぎて見ていられない」といった疑問や批判の声が上がった。
報じる際に人権について「考えていないとしか思えない」
毎日放送(MBS)の元プロデューサーで同志社女子大・影山貴彦教授(メディアエンターテインメント論)は、広末さん自身がしたことについては「反省して償わなければならない」としたうえで、
「メディアの報道の仕方においては、広末さんは被害者になっているんじゃないかなと思います」
と見解を示した。
さらに、広末さんの件に限らず、テレビでは話題性のある出来事について尺を取って長く報じるために、センセーショナルな報じ方や本来なら記事にならない出演者のコメントなどを放送するとも指摘。とくに今回の広末さんの件では、事実関係がはっきりしないうちから推測でのコメントが多く放送されていたとし、報道の際に「人権というものをしっかり考えているのかというと、考えていないとしか思えない」とした。
また、SNSでは、捜査の状況や取り調べ中の様子など、メディアに情報を渡した警察にも問題があったのではないかとする意見も見られた。これについて影山教授は、警察の情報開示について自身は「玄人ではない」と前置きしたうえで、公表しないことで混乱を生むこともあるとし、「混乱を避けるために警察が必要十分な情報を開示するということは、ある種致し方ないという思いはあります」と述べた。
フジテレビ問題からの「目くらまし」と思われても仕方がない
テレビ業界の課題をめぐっては、直近ではフジテレビと中居正広氏の問題が取りざたされたばかりだ。
3月31日に第三者委員会の調査報告書が公表され、4月9日には「Live News イット!」のメインキャスター・青井実氏による不適切な言動があったことや、社員の対応にも不備があったとして処分したことも発表された。
これらの問題は、フジテレビのみならずテレビ業界、メディア全体の問題だと言われている。こうした状況を踏まえ、影山教授は、フジの問題よりも広末さんの件が過剰に報道されているのは、テレビ業界への批判の目を背けさせるための「目くらまし」と思われても仕方がないという。
「これを報道し続けることでさらにメディアに矛先が向いてしまうかもしれない。それを回避するために広末さんのネタを報じたのではないか。そう思われても仕方がないくらいに突出して、しかも事実関係がはっきりわからない中で放送の尺を費やして視聴者に提供し続けていました」
影山教授はそう指摘し、「メディアとして決して褒められた状態ではなかったと強く思います。反省すべき広末報道だったと思います」と評価した。
高い視聴率=ポジティブな評価ではない
それでは、これからのテレビ業界にはどのような報道姿勢が求められるのだろうか。
影山教授は、「事実関係がはっきりしていることをできるだけ客観的に伝えること」が一番重要だと述べる。
さらに、日本のニュース番組やワイドショーでは、コメンテーターやタレントが番組を通して出演し、扱うニュースに関して専門性がなくてもコメントをすることが多いが、影山教授はこうした番組構成は先進国では少ないと説明。なぜなら、専門的な知識がないと単なる感想や推測にならざるを得ないからで、「そのジャンルに特化した人が解説し、ニュースが変われば違う人が出てくるというのが、あるべき姿だと思います」と見解を示した。
また、センセーショナルな報道や有名なコメンテーターのコメントは視聴率が取れるかもしれないが、視聴者からの「ポジティブな評価」にはならないという。
「(番組が)やっているからついついリモコンを持つ手は止まるけれども、(視聴者が)これをいいと思っているかというと、そうではないです。視聴者は賢いですからね」
と述べ、「高い数字=評価・支持というのは早合点ですよ、というのは申し上げたいところです」とした。