「想像している以上の覚醒剤が日本国内で余っているので…」台湾黒社会関係者が明かした“日本の薬物流通ウラ事情”

2025年5月16日(金)7時20分 文春オンライン

〈 「客単価が1人5万円で毎日20人以上回転しますから」最高ランクは月収1000万円…“海外出稼ぎ売春”の裏側を関係者が明かす《ハードな行為に耐えられず帰国してしまう女性も》 〉から続く


 法律で禁止されているにもかかわらず、覚醒剤に手を出す人は後を絶たない。その一部は海外から輸入されているケースもあるが、はたしてどのように流通しているのか。


 ここでは、花田庚彦氏の『 ルポ 台湾黒社会とトクリュウ 』(幻冬舎新書)の一部を抜粋。台湾裏社会の関係者である王氏が明かした、日本と海外の薬物流通事情を紹介する。(全3回の3回目/ はじめ から読む)



©AFLO


◆◆◆


街頭の大物が所有する覚醒剤工場へ


 はからずも台湾における海外出稼ぎの話を聞けてしまったが、ここで残念な連絡が入った。紹介してもらえる予定となっていた王氏の兄弟分が、他の顧客の接待で体が空かないらしく、今回の取材では会うことができなくなってしまったのだ。


 次回来訪した際には会えるように取り計らうことを約束してくれた王氏に、この後本丸であるところの覚醒剤の工場まで連れて行ってもらうこととなった。


 その工場まで向かうため、王氏は事務所の近くにいるという運転手を呼びつけた。しかし、予定が変わった影響だからだろうか、運転手がこちらに来るまで、20分以上待たされてしまったのである。遅れてきた運転手に対し、王氏は筆者が必要だと思う以上に怒っていたのが印象に残っている。これが街頭のトップとして、普段若い衆や敵に見せている王氏の本当の顔なのかも知れない。


 ホテル近くから高速に乗り、田舎で降りて高雄の山道を小一時間走ったところに目的地となる空き地があり、そこに王氏は車を停めさせた。向かう前に王氏は、「2時間以上の道のりとなるので、寝ながら行きましょう」と提案してくれたのだが、かつてカイエンに乗せてもらった陳氏に勝るとも劣らない荒っぽい運転をされ、寝ることは許されなかった。


 台湾人は運転が荒っぽいことで有名であったが、皆が皆ここまでの荒っぽさだというのは予想外、というのが正直な感想である。もしかすると、王氏のグループ特有のものかも知れないが……。


 目的地に着いた後は、懐中電灯を片手に先を歩いた。近くには人家もあり、いつ密告されてもおかしくはない地域である。心配になった筆者は、そうした可能性について通訳を通じて王氏に尋ねたところ、「この周りの民家は殆どがこの覚醒剤の工場の従業員です。台湾には3000メートル級の山が200峰以上ありますが、そういうところには覚醒剤の工場が多いんですよ。私たちのグループだけでも5つありますから」と回答。どうやら、“身内”しかいないため、安全だということらしい。


「想像している以上の覚醒剤が日本国内で余っているので…」


 工場を5つ所有しているという発言に驚いた筆者は、その点についても聞いたが、この中で稼働しているのは現在2つだけだという。残り3つが休眠状態にあるのには、海外マフィアとの争いが背景にあると王氏は語った。


「今年(2024年)の旧正月明け、メキシコマフィアがタイのマフィアと組み、我々を出し抜いて、粗悪な品物を高雄経由で日本に送ったのです。受け取った日本サイドがその粗悪さに気付き『台湾産と思い、高い金を払ったのに』と知人を通して私にクレームが入りました。


 私は出荷元を調べ、他のグループの幹部とタイに行って向こうのマフィアのボスと会い、落とし前として腕を千切って、金を払わせました。この金が余っているというのが一つ。そして、想像している以上の覚醒剤が日本国内で余っているので、今は輸出する必要がないというのが一つ。


 一番の理由は、トクリュウの儲けが想像以上に大きかったので、他のことをやるより、そっちに注力したいという点ですね」


 指ではなく、腕を千切らせた……。誇張であることも筆者は当然考えたが、これが台湾黒社会の真の恐ろしさということなのだろうか。ちなみに、王氏が話したメキシコマフィアとタイマフィアが覚醒剤の取引を日本の裏社会と行ったという話自体の真偽について筆者は掴み切れていないが、春先に関西方面で大きな取引があり、覚醒剤の値崩れが激しいので、関東に半分持っていけるか、などの情報が裏社会で出回っていたのも事実である。


 思った以上の値崩れを起こしていたため、印象に残っているが、記憶が確かなら100キログラム100万円で、キロに直すと1万円という破格の値段であったはずだ。覚醒剤の末端価格は0.2グラムで1万円、つまり1グラムで5万円が通常相場で、ここ10年以上変わっていないはずなので、これがどれだけ安価であったかが分かるだろう。


 当局は大量の覚醒剤事件を摘発した場合、いまだに末端価格を6万円前後で発表しているが、この数字もそろそろ見直すべき時期が来たのかも知れない。


 そんな話を聞きつつ、筆者は王氏が所有する工場の中を見学し、覚醒剤を作る窯など、施設の説明を受けながら施設内を回った。一つの工場で月間の売り上げが約1000万円、年にして1億2000万円ほどあるという。残りの工場も同じ規模であると仮定すると、所有する工場5つをフル稼働すれば、6億円だ。


 先程聞いた件などの影響で、需要と供給のバランスが崩れているために、フル稼働させていない、という部分もあるのだろうが、それだけの利益が見込める工場の稼働を捨ておいても、トクリュウに注力した方が儲かるということなのであろう。


 覚醒剤は実際には日本でもかなりの僻地に工場があることが多いというのが定説だ(数年前に、名前は伏せるがある大都会の真ん中に小さい工場があったこともあるが、これは特別なケースである)。


 その理由としては、覚醒剤を作る際にかなりの異臭が出てしまうことが挙げられる。今回紹介された王氏の所有する工場のように、人里離れた場所に作るのは、こうした特徴を考えれば当たり前のことなのだ。このような密造工場が、観光大国台湾ののどかな山岳地帯に点在することは、同地を愛する人にしてみると、悲しい現実ではあるが、それゆえこれ以上ないほど台湾の実情を露わにする、リアルな情報とも言えるだろう。


(花田 庚彦/Webオリジナル(外部転載))

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