総務相の「県庁いらない」発言、知事たちは反発一色じゃなかった…背景には存続の危機にある地方自治体の事情が
2025年5月28日(水)17時0分 読売新聞
埼玉県八潮市の道路陥没事故を受け、下水道管を点検する作業員ら(1月、千葉県松戸市で)
[戦後80年 昭和百年]地方<上>
日本は戦後、政府の強力な権限で国全体を
「将来は国と市が直結するシステムがいい。県庁は全部いらない」
人口減社会での統治機構の将来像について、村上総務相は2月13日の衆院総務委員会で手ぶりを交えてそう説明した。行政効率を高めるために自治体再編を進め、30万〜40万人規模の市を全国に300〜400つくれば、都道府県が必要なくなるという考えだ。3月7日の参院予算委員会では「50〜60年先に現在のシステムが維持できるのか。今から考えないと間に合わないのでは、という問題意識だ」と訴えた。
村上氏の発言は波紋を呼んだ。知事からは「国ではきめ細かい対応が難しく、経済単位として市町村では小さすぎる」(江崎禎英・岐阜県知事)と異論が出た。一方で、「行政機構のスリム化、合理化は必要。地域の実情に応じた行政の形があってもいい」(大村秀章・愛知県知事)と理解を示す声もあった。
知事が反発一色でなかったのは、実際に人口や財政難で地方自治体の運営が難しくなりつつあるからだ。
約2600人が暮らす鳥取県若桜町。土木技師の応募は約10年なく、定年後に再任用した技師1人の下に一般職員をつけているが、公共工事の積算に時間を要し、インフラの維持管理も優先順位をつけてしのぐのがやっとだ。上川元張町長は昨年12月の総務省の会合で「一般職の応募も少ない」「人材が足りない」と訴えた。
国の調査では、土木・建築技師がゼロの市町村が2024年時点で全体の25%に上った。インフラの維持管理が適切でなければ、1月の埼玉県八潮市の道路陥没のような事態が起きかねない。保健師や保育士の確保が課題とする自治体もそれぞれおよそ80、70%に上るというデータもあり、「介護認定の訪問調査の人員が足りない」「保育士の応募がない」と悲鳴が上がる。
財政面でも高齢化による社会保障費や、成長期に建設した公共施設の更新費などが重荷だ。財政の余裕度を示す経常収支比率(人件費などの必要経費が一般財源に占める割合)は80%以下が理想とされるが、23年度は955市町村が90%以上だった。
関西圏のベッドタウンの三重県名張市は経常収支比率が100%とギリギリで、企業の破産にあたる「財政再生団体」に28年度にも転落する恐れが出てきた。職員給与の削減や高齢者向け福祉バスの廃止、応急診療所の平日・土曜の夜間診療の中止などに手をつけ、行政サービスの低下は避けられない状況だ。
行財政基盤の確立のため、国は1999年から11年間かけ、「平成の大合併」を進めた。市町村数は3232から1727まで減少したが、目標の1000には届かず、小さな町村も多く残った。首長の方針や住民感情が壁になったためだ。
高齢者の人口がピークとなる2040年代に市町村が存続できるよう、国は今、自治体間の連携を促している。例えば、政令市や中核市と近隣が協力する「連携中枢都市圏」。現在38圏域で計385市町村が観光や産業振興、移住支援などで連携を図っている。
首相の諮問機関「地方制度調査会」は20年、この圏域行政について、専門職の共同活用や広域のまちづくりを進めるよう答申。利害調整が必要な事業の連携も進めるよう指摘した。
政府は6月に「令和の日本列島改造」と銘打ち、今後10年間の地方創生策を打ち出す方針だ。新時代のインフラ整備や都道府県域を超えた広域連携の枠組みの推進を掲げており、疲弊する地方に活力を生み出す方策となるか注目が集まる。