【西日本豪雨から5年】命を守るために知っておきたい、恐ろしい水の力とは

2023年7月6日(木)5時10分 ウェザーニュース

2023/07/06 05:11 ウェザーニュース

広島県や岡山県、愛媛県などに甚大な被害を生じさせた西日本豪雨(平成30年7月豪雨)から5年。今年もすでに各所で線状降水帯やゲリラ豪雨の発生が確認されるなど、水害の危険性は高まっており、「水の力」の恐ろしさがさまざまな実例を基に報告されています。

記録的な大雨による甚大な被害

内閣府の「令和元年版 防災白書」によると、2018年7月5日から8日にかけて西日本に停滞した前線の活動により、西日本で15個の線状降水帯を発生させ、うち9個では最大3時間積算降水量が150mmを超えました。
さらに、6月29日に沖縄本島の南南東海上で発生した台風第7号の影響も加わり、日本付近に暖かく非常に湿った空気が供給され続けたことから、西日本を中心とした広い範囲で記録的な大雨となりました。
6月28日から7月8日までの総降水量が7月の月降水量平年値の2〜4倍の大雨となり、多くの観測地点で24、48、72時間などの降水量が観測史上第1位を記録しました。
この豪雨により、広島県や岡山県などで河川の氾濫(はんらん)や浸水被害、土砂崩れなどにより死者237人、行方不明者8人、重軽傷者432人(総務省消防庁情報)という甚大な被害をもたらしました。
建物の被害も岡山県を中心に、全壊6767棟、半壊・一部破損1万5234棟、浸水2万8469棟に達しています。西日本豪雨を含む2018年の土砂災害発生件数は、前年の2倍以上にあたる3459件で、過去最多の件数です。
ウェザーニュースが2018年7月に現地の方々へ実施した緊急アンケート独自調査(回答数2万2395人)では、水害リスクの高い浸水想定区域および低位地帯と、アンケートで浸水被害が報告されていたエリアがほぼ重なっていることがわかりました。
アンケートで寄せられた回答では、特に河川の氾濫が発生した広島県、岡山県、愛媛県で水位が「腰以上の高さ」だったとする報告が目立ちました。さらに被害が出ているエリアと雨量の関係を分析すると、「400mm」を境に被害が大きくなっていることがデータ解析からわかりました。
西日本豪雨の被害状況などをふまえ、梅雨の本格化にあたり、人命の危険に直結する水の力の恐ろしさと、命を守るための対策などについて、関西大学名誉教授の石垣泰輔先生に解説して頂きました。

水深や流速の少しの変化で「水の力」は大きく変わる

西日本豪雨の際には多くの地域で浸水被害が発生しました。家屋が濁流や崩れた土砂で押し流されたという直接的な被害例はもちろんですが、歩いて避難する途中で水に流されたり、水に浸かった車のドアが開かずに閉じ込められたりしたという例もみられました。
「水の力」というのはどれほどの強さ、危険性があるものと認識すればいいのでしょうか。
「『水の力』は、水深が2倍になると一気に4倍になります。さらに、流れの力も加わります。流速が2倍になると流体力も4倍になるのです。つまり、河川などの氾濫による浸水の際は流れが生じているので、水深が浅い場合でも思ったより大きな「水の力」が働くのです。
このように、水深や流速の少しの変化でも、水が圧(お)す力は大きくなり、場合によっては命に関わる事態を招いてしまいます。
1時間あたり50mm程度を超える降雨があると雨水排水能力を超え、マンホールや側溝から水があふれだして道路が水路と化すような『内水氾濫(ないすいはんらん)』が起きます。一般的に道路上の水の流れは速まることが多く、それに伴って流体力も大きく高まりますので、注意が必要です。
さらに、氾濫時には、漂流物がありますので、それによる力も加わります。固形物はより危険ですが、レジ袋などのポリ袋でも瞬間的に危険になります。
以前に小河川で流水中の樹木にかかる力を測定していた際に、ポリ袋が流れてきて樹木に引っ掛かりました。その時、樹木にかかる力が3倍に達しました。
つまり、流水中の歩行時にはポリ袋などの柔らかいものでも、瞬間的に大きな力が作用して転倒する危険性があることを示しています」(石垣先生)

水深50cmが安全避難の目安

西日本豪雨の際のアンケート調査では、水の高さが「足首以上」「ひざ以上」はもとより、「腰以上」という回答も少なくありませんでした。
水深や流れの強さの「危険ライン」はどの程度になるのでしょうか。
「河川などの氾濫の際は一気に水かさが増し、水の流れが速くなればなるほど水の力も強くなって、歩いて避難することが難しくなります。
浸水時に人が歩ける水深は、ひざの高さ程度。成人男性でも約50cmまで(流速50cm/sの場合)と認識してください。それを超えると歩行困難になり、女性や高齢者、子どもの場合の『危険ライン』はさらに下がります。
また、人は前からの流れに逆らってふんばることは比較的しやすいのですが、後ろや横からの流れには足をすくわれやすくなりますので、特に注意が必要です」(石垣先生)
浸水した道路や跨道橋(こどうきょう)のアンダーパスに進入した車が水没してしまい、ドアが開かなかったという例も多いようです。
「車が浸水した場合、エンジンが停止して車ごと流される可能性が高まります。車では水深50cm、流速1.5m/s以上が、漂流を始めてしまうかどうかの目安となります。
実物大の模型を用いた体験型の避難実験では、地面からの水深が70〜80cmを超えると成人男子でも前部ドアの押し開けが困難になるという結果が出ています。車種を変えたりスライドドアで行ったりしても、ほぼ同様です。
水没した車から何とか脱出できたとしても、水深が50cmを超えていると歩行避難が困難になることは、先に述べたとおりです」(石垣先生)

地下浸水の場合はよりリスク大

地下室のドアが流れ込んできた水の力で開かなかったという例もあるようです。
「地下室のドアは外開きになっているケースが多いので、水の力がドアにかかって開かなくなってしまうのです。
幅80cmのドアを押す水の力は、水深10cmで4kg、水深50cmなら100kgにも達します。ドアを押せる力は人によって異なりますが、自分の体重の3〜7割程度の重さが限界とされています。
実験では成人でも水深30cm、高齢者や子どもを含む被験者全員が押せたのは水深10cmでした」(石垣先生)
地下室のドアが開けても、地上へ昇るには階段を使わなければなりません。
「法令上、地下街の各室から地下道への出入口に至る歩行距離は30m以下でなければならないと定められています。逆にいえば、地下にいた人たちは地上の出入口まで最大30m離れている可能性があることになります。
実験では水深が30〜40cmの場合、直線部を通って階段を昇りきるまでに、水が流れていない場合の2倍近い時間を要したという結果が出ました。つまり、水深30cmが階段を使った安全避難限界の目安ということになります。
ただし、地下へ流れ込んできた水の流速が速ければ速いほど避難が困難になることは、いうまでもありません」(石垣先生)

水による被害から身を守るには?

水害から命を守るためには、どのような対策が必要でしょうか。
「まず、『水の力』の恐ろしさを日頃から認識しておくことです。そして、発災前や発災時、発災後にどう対応すべきか、事前に確認作業をしておきましょう。
具体的には、河川の堤防が決壊するなどの『外水氾濫(がいすいはんらん)』に加え、内水氾濫への注意も必要です。自宅の近くに河川が流れていないからといって安心することなく、内水氾濫に備えてマンホールや側溝など、周辺に水があふれ出す可能性がある場所を確認しておきましょう。
特に地下にいると地上の様子が分かりません。大雨注意報や警報などが出された時には、自分がどこにいるのか、直近の出入口はどこかを自覚しておくことが、自分を守ることに大きくつながります。
『水の力』で車に閉じ込められた場合、前部ドアよりも後部ドアのほうが開きやすいという実験結果もあります。浸水でパワーウィンドーが作動しないことも多いので、窓を割るためのハンマーなどを準備しておきましょう。
このように、事前にシミュレーションすることで、実際に災害が発生した場合でも時宜(じぎ)にかなった判断が可能になり、命を守る行動につながります」(石垣先生)
水害から命を守るためには、なによりも早めの避難行動が第一です。西日本豪雨から5年を機に、住んでいる地域のハザードマップを確認のうえ、水害の可能性が予想されたときには気象情報や自治体からの呼び掛けに応じて、適切な避難方法を実行しましょう。

参考資料など

取材協力/石垣泰輔先生(関西大学環境都市工学部 名誉教授)

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