東北でも四国でも山陰でもない…「空き家が多い都道府県ランキング」1~10位の意外な顔ぶれ
2025年1月31日(金)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse
※本稿は、牧野知弘『新・空き家問題——2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
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■空き家は「ボロボロの一軒家」だけではない
さて900万戸の空き家の内訳は、どのようになっているのでしょうか。
賃貸用空き家数は443万6000戸。全体の49.3%、およそ半数が賃貸アパートや賃貸マンションの空き住戸となっています。
空き家と言えばメディアなどではボロボロになった家やゴミ屋敷などの個人住宅を取り上げますが、それとは別に多くの賃貸住宅が空き住戸になっているのです。【図表1】
出所=『新・空き家問題——2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)
住宅着工戸数は2023年で81万9600戸ですが、そのうちの約4割、34万3900戸が貸家です。そんなに賃借需要があるのか不思議に思われるかもしれませんが、相続税対策や土地の有効利用などを目的に、今でも数多くの賃貸住宅が建設されています。
賃貸アパートなどは、築年数が新しいもののほうが商品力が高いため、古いものから空き住戸が目立つようになります。しょせん優勝劣敗のマーケットですが、需給バランスがだぶついているなかで供給だけはしっかり行なわれているのが実態です。
背景にあるのが、相続など税務対策です。
■新しいアパートが次々と建設されるワケ
土地は更地で所有して相続が発生すると、路線価で評価され課税対象となります。ところがアパートなどを借入金で建設し運用していれば、土地は貸家建付地として一定限の評価減が受けられ、建物は固定資産税評価額に対して貸家の評価減が適用されます。
さらに建設にあたって調達した借入金元本相当が評価額から差し引かれますので、相続税の節税につながるのです。
もちろんアパート収入も期待できるので、相続人の収入にもなる。そこでアパート業者や金融機関、税理士などのすすめで、当該エリアでの需給バランスと関係なくとりあえずアパートを建設してみようということになるのです。建設開業当初は業者による賃料保証なども受けられるので、安易に建設に踏み切る事象も多く見受けられます。
■「放置空き家」は5年で37万戸増加
個人住宅空き家数は385万6000戸です。前回調査(2018年)から37万戸、10.6%の高い伸びを記録しました。
牧野知弘『新・空き家問題——2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)
賃貸用空き家はたまたまテナントが入居しておらず、新たに募集を行なえば空きが解消する可能性があります。ところが個人住宅空き家は、所有者自ら居住せず、貸すことも売ることもしていない、言わば放置状態にある家を指します。
日本の人口はすでに2010年頃を境に減少に転じています。単独世帯が増加することで住宅総数は増え続け、ファミリー世帯に空き家が増加しています。空き家率の上昇が緩やかなのは、こうしたライフスタイルの変化による世帯数の増加が背景にあります。
ただ個人住宅空き家は増えるいっぽうで歯止めがかからない状況になってきました。個人住宅空き家は放置を続けることで、近隣や地域全体での新たな社会問題を引き起こす可能性を内包しています。
空き家はどの地域に多いのでしょうか。【図表2】【図表3】は都道府県別に見た空き家率の高いランキングおよび低いランキングを並べたものです。
出所=『新・空き家問題——2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)
出所=『新・空き家問題——2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)
■人口が増えている沖縄は空き家が少ない
ワースト5に名を連ねたのが、徳島県、和歌山県、鹿児島県、山梨県、高知県で、第6位の長野県までいずれも20%を超えています。
ただし、これには多少のバイアスがかかっています。山梨県と長野県は首都圏などに暮らす人たちの別荘(二次的空き家)が多数建設されているからです。空き家数から別荘を除くと、山梨県は16.7%、長野県は15.0%に数値は下がります。
ベスト5を見てみましょう。注目すべきは、2位の沖縄県9.4%です。沖縄県は、東京都と共に人口が増加しているたった2自治体の1つです。
沖縄県は2023年の都道府県別出生率ランキングでも1.60と全国首位。人口構成は若年層が多く、また観光需要もあって島外から働きに来る人も多く、空き家が少ないのです。
■空き家数ワースト10位は大都市圏
こうして見ると、空き家問題はやはり地方の問題だと考えがちですが、実態はまったく異なります。
東京都の空き家率は10.9%と全国で4番目に少ないのですが、都内には数多くの住宅があります。たったの10.9%であっても実数でカウントすれば何と89万6500戸と、全国でダントツなのです。【図表4】
出所=『新・空き家問題——2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)
空き家数の実数ワーストランキングでは他に大阪府や神奈川県といった、多くの人口を抱えた自治体名が並びます。空き家問題は地方の問題であるばかりではなく、実は多くの都会人の住む地域においてもごく身近な問題なのです。
■「家が買えない」はずが「家が空いている」
もうすこし詳しく見ていきましょう。個人住宅空き家はどこに多いのでしょうか。
個人住宅空き家率ワースト5を掲げたのが【図表5】です。首位は13.6%の鹿児島県。以降、高知県、徳島県、愛媛県、和歌山県が並びます。香川県を除く四国各県、和歌山県で個人住宅空き家が多いことがわかります。
出所=『新・空き家問題——2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)
さらにこれを実数カウントするとここでも大都市圏の都道府県が並びます。【図表6】
出所=『新・空き家問題——2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)
大阪府は個人住宅空き家の1位でその数は22万6900戸にもおよんでいます。以下東京都の21万4200戸、兵庫県、北海道、千葉県といったラインナップになります。
東京や大阪は不動産価格が急激に上昇し、もうこれらの地域では家は買えないのではないかとまで言われているいっぽうで、実は首都圏や関西圏といった大都市圏こそが空き家天国なのです。
たくさんの住宅があるので割合としては見落とされがちなのですが、実態は大都市圏において空き家問題はもっと論じられなければならない状況にあるのです。
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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産事業プロデューサー
東京大学経済学部卒業。ボストンコンサルティンググループなどを経て、三井不動産に勤務。その後、J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在は、オラガ総研代表取締役としてホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄』(文春新書)、『家が買えない』(ハヤカワ新書)、『2030年の東京』(河合雅司氏との共著)『空き家問題』『なぜマンションは高騰しているのか』(いずれも祥伝社新書)など。
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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)