日本人はまんまと旧ジャニーズの「時間がたてば忘れる作戦」にハマった…元文春編集長「怒りの公開質問10カ条」

2024年2月6日(火)8時15分 プレジデント社

23年9月7日に開かれた記者会見。約束されたことは、今もほとんど闇の中。 - 写真=AFP/時事通信フォト

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ジャニーズは約束を何も果たしていない。あれほど「反省」を口にしていたメディアも、年が明けたらもう、ジャニーズ頼みの番組編成に戻りつつある。能登半島地震や松本人志の性加害事件に話題が集中する陰で、目論見通り「時間がたてばみんな忘れてくれる」という戦略。そんなジャニーズとメディアに、元週刊文春編集長が、10カ条の公開質問状をたたきつける——。

■口先だけの「反省」で終わらせようとしているのか


やはり、ジャニーズ問題は「一億総懺悔」で終わってしまうのでしょうか。


BBCの報道に始まったジャニー喜多川氏による、1000人以上という大規模な性加害に対して、藤島ジュリー社長は2023年5月に動画で謝罪し、元NHKの武田真一氏は「報道側として報じる責任があった」と認めてからは、9月以降、宮根誠治や大物キャスターが次々反省の弁を述べ、メディアの社長も軒並み報道機関としての責任を感じるとコメントしました。


そして9月7日と、10月2日には2度にわたりジャニーズによる記者会見も行われ、ジャニー氏の犯罪行為への謝罪と被害者への補償を尽くすことが繰り返し強調されたことは記憶に新しいはずです。


写真=AFP/時事通信フォト
23年9月7日に開かれた記者会見。約束されたことは、今もほとんど闇の中。 - 写真=AFP/時事通信フォト

しかし、それから約3カ月、ジャニーズ側の記者会見は行われていません。被害者補償が成立した人数が発表されたり、旧ジャニーズは新会社「SMILE=UP.」として補償のための清算会社となり、タレントとはエージェント契約を結ぶための新会社である「STARTO ENTERTAINMENT」と看板は変わったものの、あの記者会見で約束されたことはほとんど闇の中です。


たとえば、マスコミへの圧力をかけた白波瀬傑副社長について、「いずれ会見させる」とコメントしたはずですが、いつのまにか退職。会見に出てくる気配はありません。


戦後の「一億総懺悔」と同様に、みんながただ口先だけの「反省」を繰り返し、責任の所在をあやふやにしている。そして、ただほとぼりが冷めるのを待っている……。


「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は10月8日、記者会見のやり直しを求める要請文まで発表しましたが、放置されたままです。


いや、その間、重大な事件もおこりました。被害者の自殺です。遺族らによると、深刻なトラウマを抱えていた被害者は元タレントで、5月には被害を事務所に訴えたものの、連絡するという返事が来たまま5カ月の間、全く放置されていたとのことです。


また、ジャニーズ性加害問題「当事者の会」の石丸志門副会長によれば、「当事者の会」を通じて、被害者補償が行われたことはないと言い切っています。事務所が公言した「法を超えた補償」はどこヘ行ったのでしょうか。


■この「謝罪騒動」は茶番に終わると思っていた


私は、週刊文春のキャンペーン、そして、その後の裁判勝利、以降続いた彼らの文春への圧力の数々を経験していたため、元々この「謝罪騒動」は茶番に終わると思っていました。


ジャニーズ側の記者会見は、危機管理専門弁護士を起用したり、NG記者リストをつくったりと、事実を直視し、公開するより、時間がたてばみんなが忘れるという作戦だったと睨んでいました。


そして、それは見事にうまくいっているようにみえます。たしかに補償は少しは行われていますが、解決の速度はきわめて遅いといわざるを得ません。


反省したはずのメディアも、新年になって、4月改編のドラマでは木村拓哉主演の番組が発表されるなど、続々ドラマ主演の話が飛び出してきました。


ジャニーズ抜きのNHK紅白歌合戦が史上最低視聴率を記録したり、ジャニーズ中心のカウントダウンTVをバラエティ「逃走中」に切り換えたものの視聴率は3.4%。もう、ジャニーズ頼みの編成に戻ろうとしているのです。


メディア、特にテレビ局は、ジャニーズに忖度(そんたく)し、性加害の場所まで提供した、いわば共犯者であるという自覚があまりに足りないと思うのは私だけでしょうか。


殻にこもって、なんとか逃げようとする人間に大声を上げても、立ち止まるはずはありません。いや、国民全体も、記者会見をみて、記者のパフォーマンスでしかない行動に呆れ、メディアの反省もジャニーズの反省も一時のことだと悟ってしまったのではないかと思います。


■確約していた記者会見はいつ開かれるのか


しかし、私は、このまま放置して、かつての「一億総懺悔」のようにしてしまえば、日本人が変わる機会を失うと思っています。再度、二つに分かれた会社の記者会見を要求するとともに、まず、事情をもっとも知る元週刊文春の編集長として、公開質問を送りたいと思います。まずはこの基本的問題に会見で答えてから、各自の質問に移れば、NG記者リストなどつくっても無意味になるからです。


以下、私の公開質問です。


1.白波瀬傑元副社長の会見はいつ行うのか?


2.矢田次男弁護士の会見はいつ行うのか?


3.新会社の原資はどこから調達するのか?


4.新会社の名前やグループ名の選定は、ファンクラブにどのように相談するのか?


5.なぜそこまでファンクラブに権限をもたせるのか?


6.ヤング・コミュニケーションの社長には誰が就任するのか?


7.誠実に被害者への補償に向き合う気持ちが本当にあるのか?


8.ジャニー氏の行動が刑事事件に値するという認識はあるのか?


9.メディアへの圧力に対する謝罪の意志はないのか?


10.各メディアは、性加害に手を貸した自社の職員を探しだす気はないのか?


まずは1.記者会見で、東山紀之社長が出席を確約されていた、マスコミイジメ、いや「マスコミ抱き込み」のプロ・白波瀬傑元副社長の会見はいつになるのでしょうか。


そして2.同じく裁判でのジャニーのホモセクハラの言い分(編集部注)を聞いていた顧問弁護士矢田次男氏の出席はないのでしょうか。ジャニーズ内部では、裁判の敗北は、顧問弁護士が下手だったからと言われていたと記者会見で公言されて、矢田弁護士は、黙っているのでしょうか。


3.スマイルカンパニーの100%の株をもつジュリー氏は、すなわち旧ジャニーズ事務所の財産をすべて握っています。その状態で、多数のタレントを抱えている新会社は、いったい何を原資として、稽古場や打ち合わせ場所など新会社に必要な施設を用意するのでしょうか。その原資はどこから調達するのでしょうか。


ジュリー氏は、一切カネを出していないと言っていますが、今のところ、ジュリー氏のもつ会社のものを借りて、原資もジュリー氏から借りるしかないのではないでしょうか。新会社の福田淳CEOは、金融機関からの借り入れで、当面の運転資金はめどがついたとメディアに語っていますが、本当でしょうか?


写真=AFP/時事通信フォト
2023年9月7日の会見で、涙をぬぐうジュリー喜多川氏 - 写真=AFP/時事通信フォト

4.新会社の名前やジャニーズを冠したグループ名の選定をファンクラブに相談するということですが、これは全員にアンケートでも取ったのでしょうか。それともファンクラブの一部幹部と話し合ったのでしょうか。


(※編集部注)1999年10月から14週にわたって行われた『週刊文春』のジャニーズに対する「ホモセクハラ」追求キャンペーンに対し、ジャニーズ側が同年11月にジャニーズ事務所とジャニー喜多川氏が文春に対して名誉毀損(きそん)で提訴。裁判でジャニー氏は、少年たちへの性加害に対して「一切ございません」と答えているが、「少年たちがウソをつく理由がありますか?」という弁護側の問いに、「彼らがウソの証言をしたということを、僕は明確には言い難い」と答えた。文春の弁護は、その瞬間に「勝った」と思ったという。


■500億円のファンクラブの収入


5.なぜ、そこまでファンクラブに権限をもたせるのでしょうか。ファンクラブはファミリークラブと称しますが、以前から1200万人の会員を抱えるとジャニーズ事務所は公言していました。入会金は1000円。年会費は4000円。一人4000〜5000円を1200万人の会員数と計算すると、約500億〜600億円もの収入があることになります。このクラブの収入は、どこに上納されるのでしょうか。


2022年12月に東京国税局から“お年玉”など約9000万円を経費計上していたものは経費に認められないとして、約4000万円を追徴課税されていましたが、事務所の“常識外れ”な会計処理がうかがえます。


また、これはあくまでも会費です。チケットを買うために家族を全員会員にしているケースもあるといいますし、ファンクラブに入るのはコンサートで「ファンクラブ優先チケット」を申し込むためですが、そのチケットに当選したファンが代金を支払う先は、ジャニーズFCを運営しているジャニーズ事務所ではなく、「ヤング・コミュニケーション」という企業になっています。


6.7日の会見で、ジャニーズ事務所社長の辞任を発表したジュリー氏ですが、9月の時点ではヤング・コミュニケーション社の代表取締役は外れていません。発表もありません。オカネのなる木であるこの会社は、大事なはず。グループ会社をすべて引退するとジュリー氏が言うなら、この会社の社長は誰になるのでしょうか。


7.補償については、その後も、被害者が増加しているにもかかわらず、補償が確定した人数はわずかです。本当に誠実に補償に向き合う気持ちはあるのでしょうか。元々性加害に関する補償は、経験豊かな弁護士などによると、大体数百万円にしかなりません。


被害者の多くは、ただ性加害を加えられただけでなく、その精神的苦痛により、人生そのものを破壊された人々が多く、その人々に、弁護士ばかりのチームで彼らの人生を取り戻すような気持ちのこもった補償ができるのでしょうか。


HPの申し込みフォームを通じて、被害を届け、外部の三人の弁護士により、聞き取りをして補償額を決めるということは、あまりに、誠意のない補償行為だと考えます。多大なトラウマを抱えた被害者が自殺までしているという現状なら、このスキームでは、また自殺者がでないとも限りません。


弁護士を増やすとか、ジュリー氏本人が被害者一人ひとりと話し合うとか、人間味のある対応ができないのでしょうか。そして、プライバシーの保護を前提として、補償額も公表すべきです。


■刑事事件になったら共犯者は自首してほしい


8.事務所に残ったメンバーには、ジャニー氏の行動が刑事事件に値するという認識はあるのでしょうか。児童保護法の時効は7年です。加害者自身が死亡しているとしても、これだけ多くの被害者が存在しているのです。中には時効以内であるこの7年以内に被害を受けた人物もいるでしょう。


彼らが被害を告発したなら、捜査は司直の手に委ねられます。その場合、共犯者は当然ながら刑事事件に問われます。私の目には、刑事事件に値する事件であることは明らかですが、事務所の謝罪の中には、刑事事件を犯した、それに手を貸したという自覚はあるのでしょうか。


もし共犯であると自覚した人物がいるなら、ぜひ自首して、事務所が児童を扱っているにもかかわらず、あまりに保護者の視点が足りなかったということを公表し、良心をみせる職員が出てきてほしいと思います。


9.記者会見では、ジャニー氏の性加害については何度も謝罪がされていますが、マスコミへの圧力や、テレビ局へのタレント起用の圧力については、何ら触れられていません。これは、謝罪の意志はない、あるいは間違ったことはない、という意志の表れなのでしょうか。それとも、今後徹底的に調査して、謝罪する意志はあるのでしょうか。あるのであれば、即刻調査チームを結成発表していただきたいものです。


撮影=阿部岳人
記者会見では、ジャニー氏の性加害については何度も謝罪されているが、マスコミへの圧力には何も触れていない。 - 撮影=阿部岳人

10.各メディアは検証番組や記事で、性加害の場所を局内などで提供した事実を認めています。犯罪行為に手を貸した職員を探し出し、警察に協力させて、その施設を利用した職員をあぶりだす行為はしていないのでしょうか。昔の話で分からなかったなどと弁明している会社がありますが、報道機関の調査力とは、その程度のものなのでしょうか。


■現役タレントに被害者はいなかったのか調査せよ


そして、最後に申し上げます。現役タレントにも被害者がいなかったか、プロの調査チームを結成して徹底的に調べていただきたいと思います。被害者でありながらスターの地位を失いたくないばかりに泣き寝入りしている人物がいたら、それこそ気の毒です。


私はその彼に言いたいのです。勇気をもって発言することこそが、名もなき被害者への勇気づけであり、また女性をはじめ、弱い立場に寄り添い、勇気をもって世の中の不正と戦うことこそ、人生を取り戻す機会になることを教えることになる、と。


口だけの反省……私たち日本人は戦後、「一億総懺悔」という情けない行動をとりました。昨日まで戦争万歳だった先生が、教科書に墨を塗って民主主義を叫び、徴兵がくれば大喜びで、近所の若者を兵隊に送り出していた国防婦人会が、突然、軍部の暴走により空襲でひどい目に遭いましたと告白するようになりました。


そして、そんな反省はいつのまにか忘れられ、敗戦によって得た男女平等も、三権分立も、報道の自由も、時がたつにつれてどんどん後退しているというのが私の持論です。


経済界はCM自粛という手段をとり始めましたが、刑事事件にすることを考えなかった司法機関、児童保護機関の見識も問いたいと思います。なにしろ、あの記者会見の真っ最中に、辞めたとはいえジャニーズのシンボルともいえる近藤真彦に一日署長を平気でさせていた警察です。ジャニーズのこういう警察抱き込み行為に騙されていたことを告白する幹部は出てこないのでしょうか。


たかが週刊誌が発掘した事件、たかが男性の性被害……そんな古い感情でメディアは、最高裁で認められた性加害を報じることを見送り、警察も捜査さえしようと思いませんでした。令和の時代は、この数十年の日本の閉塞感を吹っ切って、明日を切り開く時代になってほしい。


そのためには、まず、この事件を克服しましょう。女性ファンたちも、現役が告白することを応援し、それを望む声明を出してこそ、時代を切り開く行動になると自覚してほしいと考えます。


そして、「反省」を口にしたメディアの幹部やMCのみなさん。その言葉を私はずっと覚えています。そのことを忘れないでください。


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木俣 正剛(きまた・せいごう)
元週刊文春編集長
1955年生まれ。編集者。元週刊文春編集長。元文藝春秋編集長。大阪キリスト教短期大学客員教授。OCC教育テック上席研究員。
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(元週刊文春編集長 木俣 正剛)

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