「次の衆院選で政権交代」は本当にできるのか…中核市長選挙で2連勝した立憲民主党に残された「大きな課題」

2024年2月9日(金)7時15分 プレジデント社

立憲民主党大会で気勢をあげる泉健太代表(中央)ら=2024年2月4日午後、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

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2月4日に京都市長選、前橋市長選が行われ、いずれも立憲民主党が支援した候補が勝利した。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「立憲民主党は地方の首長選で容易に『与野党相乗り』をすべきでない段階に来ている。地方選で有権者に選択肢を示すことが、国政での党勢拡大にもつながる」という——。
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立憲民主党大会で気勢をあげる泉健太代表(中央)ら=2024年2月4日午後、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■前橋市長選と京都市長選での異なる構図


2月4日、立憲民主党は党大会を開き、「次期衆院選で政権交代を目指す」という方針を3年ぶりに示した。そして多くのメディアは「政権交代」を見出しにとって、大きく報じた。この状況には隔世の感がある。


数カ月前なら、党大会の記事がこれほど大きく掲載されることもなかっただろう。自民党の裏金問題という「敵失による棚ぼた」感は否めないが、その批判を受け止める勢力として、野党第1党である立憲の認知度が上がってきたのも確かなようだ。


だが、今回の本題は党大会ではない。党大会の当日に行われた二つの府県庁所在地の市長選——前橋市長選と京都市長選である。立憲は二つの選挙でともに勝利したが、選挙の構図は全く異なる。


前橋市長選は、新人で元群馬県議の小川晶氏が、自民、公明両党が推薦した現職・山本龍氏の4選を阻み初当選した。小川氏は県議時代に立憲民主党系会派に所属したことがあり、選挙戦では同党のほか共産、国民民主、社民の各党の議員から支援を受けた。事実上の与野党対決を野党側が制したと言える。


新人5人の争いとなった京都市長選は、立憲のほか自民、公明、国民民主の各党が推薦した松井孝治氏が、共産党が支援した福山和人氏や元市議の村山祥栄氏らを破り初当選した。松井氏は元民主党参院議員で、鳩山政権で官房副長官を務めた人物。立憲が推薦を決めた松井氏に自民党などが乗り、結果として国政の与野党が「相乗り」して共産党候補と戦い、勝利した。


■立憲が「相乗り」で稼いだポイント


SNSなどでは、京都市長選にことさらに着目し「立憲の与野党相乗り」を批判する向きがある。立憲が自民党に対立候補を擁立して勝利すれば、前橋市長選と合わせて自民党を「2敗」に追い込み、大きな打撃を与えられたはずだ。それなのに立憲は自民党にすり寄り、日本維新の会や国民民主党のような「ゆ党」と化した、というわけだ。


こういう主張も理解はできる。しかし、筆者はこの立場は取らない。この「相乗り」によって、立憲は今後自民党と政権を争う上で大きなポイントを稼いだ、とみるからだ。俗に言う「国政と地方選は違う」論をあえて脇に置き、「政権戦略」の観点から京都市長選を振り返りたい。


■もともとは「維新vs非維新」の構図だった


この市長選の「陰の主役」は、野党第2党の日本維新の会だ。


京都は2021年の前回衆院選以降、メディアなどで盛り上がった「立憲vs維新の野党第1党争い」における最大の戦場と化している。隣の大阪府で圧倒的な勢力を誇る維新は、かねて京都に勢力を広げることに執念を燃やしていた。


地理的な側面もあるが、京都は立憲の泉健太代表や福山哲郎元幹事長など同党の有力者が多い。維新としてはここで勝って立憲に打撃を与え、最近停滞気味の維新への関心を再び高めたい思惑もあっただろう。維新の目下の大目標は「立憲から野党第1党の座を奪う」ことなのだから、京都重視は当然の戦術と言える。


一方の立憲は、野党第1党として自民党と政権を争うためにも、維新の伸長を何としても止めたい。党首の地元であり、維新の本拠地に隣接する京都を、間違っても落とすわけにはいかないのだ。


立憲は「非維新」を大義名分とした国政与野党の「共闘」に走った。擁立したのは、かつて民主党の同僚議員だった松井氏だ。だが自民、立憲の両党からは「与野党相乗り」を嫌う造反も出て、松井陣営の足元は揺らいだ。


維新は元市議の村山氏を擁立し、さらに国民民主党の京都府連や、同党を離党した京都の実力者、前原誠司氏の新党「教育無償化を実現する会」も推薦の方針を決定。結果として維新は旧民主系を「割る」ことに成功した。


こうして京都市長選は「維新vs非維新」という緊張感のある構図が生まれた。「維新の京都進出なるか」が、事実上の選挙戦の争点だった。


■「与野党相乗り」の候補が取り残された


ところが、この構図が選挙戦直前に突然崩れた。


維新が担いだ村山氏に、政治資金パーティー券を販売しながら実際には参加者がいなかった、という疑惑が浮上。維新など各党は、選挙の告示8日前(1月13日)というタイミングで、村山氏の推薦取り消しに追い込まれた。政党の支援を失った村山氏は、立候補はしたものの主要候補からこぼれ落ちた。選挙戦最大の争点とみられた「維新の京都進出」は、告示を目前にして、突然消滅した。


京都市民から見ると、有力な「非自民」候補が失われ「与野党相乗り」の候補が取り残されたことになる。これでは選択肢がない。こうした中で突然、有力な対立候補として急浮上したのが、共産党が自主支援した福山氏だ。前回の市長選にも立候補し、知名度もあった。


福山氏は選挙戦に入ると、松井氏と「横一線」と評されるデッドヒートを展開。敗れたとはいえ、松井氏に約1万6000票差に迫る善戦だった。出口調査によれば、福山氏は共産支持層のみならず、立憲や維新、果ては自民支持層の一部にも食い込み、無党派層では松井氏を上回っていたという。


これが京都市長選のおおまかな流れだが、なぜ立憲が「ポイントを稼いだ」ことになるのか。


■前橋、京都で自民・維新に痛手を負わせた


第一に「対自民」である。


4日の選挙における注目ポイントは、京都ではなく前橋になった。自民党が首相を4人も輩出し、鉄板の「保守王国」と呼ばれてきた群馬県の県都で、野党系の新人候補が自公系の現職を破ったのは「前橋ショック」とも呼べる衝撃だ。


前橋市長選の勝利自体が野党の大金星と言えるが、結果としてこの選挙は「与野党相乗り」の京都市長選の存在をかすませる効果を生んだ。


そもそも「維新」という地域的に特殊な要因を抱える近畿地方の選挙を、全国に当てはめて考えることは、ほとんど意味がない。例えば2015年の大阪府知事・大阪市長ダブル選挙では「反維新」の名の下に自民党と共産党でさえ「共闘」している。


国政における与野党による事実上の対決構図となった(陣営は「完全無所属」を主張しているが)前橋市長選のほうが、今後全国の選挙を考えるうえで、はるかに普遍性を持つはずだ。メディアなどで京都より前橋の市長選の結果が大きく報じられているのは、その証左だろう。


写真=iStock.com/TkKurikawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TkKurikawa

第二に「対維新」である。


維新は党として、市長選に臨むことさえできない失態を演じた。ここまで維新の存在感は、目立つ選挙で「自民党に勝つ」ことによって培われてきたが、目立つ選挙でその機会が失われたのは、維新にとって痛い。


何より「候補予定者の金銭スキャンダルで推薦取り消し」というのは、相当にみっともない。完全な「棚ぼた展開」ではあるが、維新が京都で相当のダメージを被ったことは、立憲にとっては胸をなで下ろす展開だったと言えるだろう。


■野党の「多弱化」も避けられた


第三に「対共産」である。


立憲と共産はすでに、市民連合の仲介によって次期衆院選に向けた共通政策に基本合意するなど、一定の協力関係にある。しかし、京都市長選で共産系候補が、立憲が「自公と相乗り」した候補に勝つ展開となれば、立憲の野党内での求心力は削がれ、今後の野党内の力関係に変化が生じかねなかった。


これまで何度も指摘してきたが、衆院選において野党が勝つためには、多弱の野党がどんぐりの背比べ状態にとどまるのではなく、野党第1党の立憲が中核的な立場を確立した上で、他の野党をまとめて「大きな構え」を構築する必要がある(昨年5月25日公開「『ひ弱な弱者連合』を続けてもしょうがない…次の総選挙で自民党に勝つために立憲民主がやるべきこと」を参照いただきたい)。


立憲が「野党の中核」としての求心力を失えば、野党の「構え」全体の力が衰える。こういう事態を避けられたのも、結果として立憲に好ましい結果だったと言える。


■安易な「与野党相乗り」は許されない段階にある


こう書いていくと立憲に良いことばかり言うようだが、最後に一つ注文をつけておきたい。


京都市長選は共産党系候補との事実上の一騎打ちとなり、相手候補に相当に迫られる展開となった。共産党が長く府政を握ってきた独自の地域事情もあるだろうが、各種出口調査によれば、相手候補には立憲や維新、さらには自民支持層の一部まで票が流れ込んでいた。


「選択肢がない」ことへの、有権者のフラストレーションの表れだったと考える。


今回は前述したように「対維新」という特殊事情があったことに加え、立憲のあずかり知らぬところで勝手に「選択肢が消えた」のであり、京都市長選で「立憲が選択肢を示さなかった」というのは酷というものだろう。だからといって、今後の選挙でも「与野党相乗り」を常態化することは、そろそろ許されないのではないか。選択肢を用意する役割の多くは、野党が担っていることを忘れてはいけない。


■地方選でも「目指すまちのありよう」で選択肢を与えるべき


「首長選は政党ではなく、人を選ぶもの」という釈明も聞かれる。しかし、国政において政権与党に対し「目指す社会像の選択肢」を示して戦うのであれば、当然ながら地方自治体でも「目指すまちのありよう」について、現職の方向性に対し「ほかの道はないのか」と問いかける姿勢が必要だ。


有権者にとって身近な基礎自治体において選択肢が示されず、投票意欲の湧かない首長選ばかりが続けば、国政選挙でいきなり「政権の選択肢」を示されても、有権者は戸惑うだけだ。


地域社会のすみずみまで「自民一強」という状況で、これまでは候補者探しも簡単ではなかっただろう。だが、今回の前橋市長選のように、まさかの土地で勝てるケースも出てきている。


国政選挙の候補者探しも十分に進んでいないことは理解するが、立憲はそろそろ地方の首長選においても「与党との相乗りはやらない」姿勢を鮮明にすべき時だと思う。


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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。新著『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)9月上旬発売予定。
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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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