「長く寝る人ほど、早死にする」祖父・父・息子の3代で90年以上続けてきた睡眠研究が証明

2024年2月12日(月)17時15分 プレジデント社

出典=『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣』

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歳を重ねても質の高い睡眠をとり、長生きするにはどうすればいいか。三代にわたって90年以上睡眠研究を続ける睡眠医療専門家の遠藤拓郎さんは「睡眠研究をしていた私の父やチューリッヒ大学の研究・実験データは『睡眠時間が短い方が、深い睡眠の量が増える』ということを明らかにしている。実際、世界から『働き過ぎ』『睡眠不足』とされてきた日本は、『日中にがんばって働くこと』と『質の良い短い睡眠』がセットになって、世界一の長寿国となっている。裏を返すと長く寝る人ほど、早死にする」という——。(第1回/全3回)

※本稿は、遠藤拓郎『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣』(横浜タイガ出版)の一部を再編集したものです。


■歳を取ってからも「深い睡眠」を増やす方法


中高年になるにつれて、深い睡眠の量はどんどん減っていきます。


深い睡眠が減ると、睡眠の質が落ちるだけでなく、脳や体のメインテナンスに欠かせない「成長ホルモン」の分泌も減ってしまいます。


では、歳を取ってから、深い睡眠を増やすためには、いったいどうすればいいのでしょうか?


「深い睡眠の量」は「起きていた時間」、つまり「いかに長い時間起きているか」と密接な関係を持っています。


この2つは、どのような関係性を持っているのでしょうか?


まずは、図表1をご覧ください。


これは私の父の研究データをもとに作成したグラフで、「起きてからの時間」と「深い睡眠の量」の関係をまとめたものになります。


このグラフをご覧いただくと、2時間後、6時間後、10時間後、16時間後と「起きていた時間」が増えるにつれて、「最も深い睡眠」も「深い睡眠」も、ともに増えていることがお分かりいただけると思います。


これは例えば、朝7時に起きたとすると、2時間後の朝9時に寝るよりも、6時間後の午後1時(13時)に寝た方が、深い睡眠の量は2倍になるということです。


同様に、16時間後の午後11時(23時)に寝たとすると、朝9時に寝た場合と比べて、深い睡眠の量は3倍になります。


つまり、起きていた時間が長ければ長いほど、逆に言うと、睡眠時間が短ければ短いほど、深い睡眠の量は増えていくものなのです。


出典=『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣
出典=『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣

■睡眠時間が短い方が、深い睡眠の量が増える


次に図表2ですが、これは年代別、男女別に分けて、「深い睡眠の量」を比較したデータになります。


このグラフをご覧いただくと、深い睡眠の量は、女性よりも男性が少なく、また歳を取れば取るほど少なくなることがお分かりいただけるでしょう。


深い睡眠の量を増やすためには、起きている時間を増やして、睡眠時間を減らすしかありません。


父の研究のさらなる裏付けとなるのが、図表3です。


これは、かつて私が留学していたスイス・チューリッヒ大学の実験データです。


普段の睡眠が、平均6時間以下の人(ショートスリーパー)と9時間以上の人(ロングスリーパー)で、それぞれ深い睡眠の量がどれくらいあるかを調べたところ、6時間以下の人は平均して70分以上、9時間以上の人は平均して50分未満という結果が出ました。


9時間以上の人と比較すると、6時間以下の人の方が20分以上も深い睡眠が多いことが分かります。


出典=『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣

つまり、この実験においても「睡眠時間が短い方が、深い睡眠の量が増える」ということが証明されたのです。


だからこそ、「いかに睡眠時間を削るか」が肝心です。


睡眠時間を削れば削るほど、逆に起きている時間が長ければ長いほど、睡眠は深くなるのです。


さて、ここで気になるのは「どれくらい睡眠時間を減らせばいいのか」、もしくは「睡眠時間を減らして本当に大丈夫なのか」という点ではないでしょうか?


最近、世間でよく言われるのは「睡眠負債が溜まるから、睡眠時間を減らすのは体に良くない」ということです。


睡眠時間を減らすことは、本当に体に良くないのでしょうか?


そもそも、どのような背景から「睡眠負債」という考え方が生まれ、広まっていったのでしょうか?


次は「睡眠時間」と「平均寿命」の相関関係について、国際比較の視点から考えてみることにしましょう。


■「睡眠時間」と「平均寿命」の意外な関係


世間でよく言われるのは、「日本人は働き過ぎで睡眠時間が短い」「日本人は睡眠の質が良くない」ということです。はたして、本当にそうなのでしょうか?


この点を国際比較の視点から考えてみましょう。


図表4をご覧ください。


これは世界各国の「平均寿命」と「睡眠時間」の関係を示すグラフになります。


このグラフでは、OECDの主要加盟国の中から、比較的長期間、裕福だった国々を選び出しました。


その理由は、「貧困」と「平均寿命」には密接な関係があるからです。


出典=『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣

「GDP」と「平均寿命」の関係を見ると、正の相関関係が見られます。


つまり「経済的に豊かな国ほど、平均寿命が長い」ということで、平均寿命は経済的な豊かさに左右される傾向があるのです。


そのため、貧困の問題がある日本以外のアジア、ならびに南米の国々を対象から外しました。


OECDの中から、長年にわたって生活水準が安定している国々のみをピックアップすることによって、「経済が平均寿命に与える影響」をできる限り排除し、「睡眠時間と平均寿命の関係」にフォーカスしたのです。


さて、前置きが少し長くなりましたが、図表4のグラフをご覧いただくと、近似直線が右肩下がりになっていることがお分かりいただけるはずです。


近似直線とは何でしょうか?


近似直線が右肩下がりであるということは、いったい何を示しているのでしょうか?


分かりやすい例を出すと、一般的に「身長」と「体重」の関係は比例します。


出典=『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣

簡単に言えば、「身長が高い人の方が、体重も重い傾向がある」ということです。


例えば、小学校の1つのクラスに、10人の子どもがいたとしましょう。


図表5のグラフのように、それぞれの身長と体重に点を打っていくと、近似直線はたいてい「右肩上がり」になります。


近似直線が右肩上がりであるということは「身長と体重は正比例関係がある」、つまり、「身長が高い人の方が、体重が重い傾向がある」ということを示しているのです。


さて、ここまでをご理解いただいたうえで、もう一度、図表4のグラフをご覧ください。


平均寿命と睡眠時間の近似直線は「右肩下がり」になっています。


つまり、これは平均寿命と睡眠時間が「反比例」していることを示しています。


分かりやすく言えば、「睡眠時間が短い国ほど、平均寿命が長くなる傾向がある」ということを示しているのです。


■働きすぎの日本は世界で一番の長寿国


国際的に見て、「日本人は働き過ぎだ」と長らく言われています。


たしかに、それはそのとおりかもしれません。


しかし、図表4のグラフを見れば一目ですが、日本は世界で一番の長寿国です。


働き過ぎによる睡眠不足が、体に悪影響を与えているとすれば、日本人の平均寿命は他国に比べて短いはずです。ところが、実際は、そうはなっていません。


これは、いったいどういうことなのでしょうか?


図表4のグラフから言えるのは、世界的に見て、「日本型のライフスタイル」が一番、平均寿命を延ばすということです。


世界から「働き過ぎ」「睡眠不足」とされてきた日本人のライフスタイルこそが、健康に長生きするうえで、実は一番優れているのです。


日中にがんばって働けば、その分、睡眠時間は短くなります。


睡眠時間が短ければ、深い睡眠が増えて、睡眠の質が上がります。


つまり、「日中にがんばって働くこと」と「質の良い短い睡眠」がセットになって、日本人の平均寿命を押し上げてきたのです。


にもかかわらず、なぜ「睡眠負債」という考え方を中心に、「日本人」=「睡眠不足」=「体に良くない」という考え方が生まれ、広まっていったのでしょうか?


写真=iStock.com/Liubomyr Vorona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liubomyr Vorona

■早期リタイアで睡眠時間が長くなるアメリカ


まず「睡眠負債」という考え方が生まれた背景について説明しますが、これはアメリカ側の視点から生まれたストーリーです。


睡眠負債は、スタンフォード大学のデメント教授により提唱された概念で、「日々の睡眠不足が借金のように積み重なり、心身に悪影響を及ぼすおそれのある状態である」と定義されています。


少し説明を加えておくと、睡眠負債という概念が生まれた背景には、睡眠不足による眠気が、数々の大事故を引き起こした歴史がありました。


スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故、アラスカのタンカー座礁事故、スリーマイル島の原発事故などの重大事故は、全て眠気が原因であると言われています。


そのため、「睡眠時間を増やして、眠気を解消させよう」というムーブメントがアメリカで起こったのです。


私自身はアメリカにも留学の経験があり、アメリカ人のライフスタイルを目の当たりにしてきました。


アメリカでは、早期にリタイアをして郊外に住んでいるシニアが数多くいます。


近所にコンビニやスポーツジムなどもないので、家でフットボールを観ながら、ビールを飲み、ポップコーンを食べるという生活が多いように感じました。


睡眠時間を増やそうというムーブメントに加えて、外でアクティブに活動する時間も減っているわけですから、睡眠時間が長くなるのは必然です。


こうしたライフスタイルと比較すれば、「日本人は働き過ぎで、睡眠時間も短か過ぎる」ということになるのでしょう。


■「長く寝る人ほど、早死にする」という明確な結果


しかし、平均寿命の観点から見れば、アメリカは一番の劣等生です。


アメリカ人の平均寿命と睡眠時間の関係を見れば、「睡眠時間を長くしたからといって、健康に長生きできるとは限らない」ということがお分かりいただけるのではないでしょうか?



遠藤拓郎『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣』(横浜タイガ出版)

実際に、私が2015年に発表した「アメリカ人の起きる時間とうつ」に関する英文論文でも、60歳から、起きる時間が急激に遅くなり、抑うつ傾向が強くなることを明らかにしました。


過労死などの一部の問題を除けば、日本人は「今の短い睡眠スタイル」をそのまま維持するべきなのです。


そもそも日本で「睡眠負債」という考え方が広まった背景には、「働き方改革」がありました。働き方改革を推進したい国にとって、睡眠負債という考え方が好都合だったのです。


2018年に「働き方改革関連法」が成立しましたが、その背景には、過労死や人口減少による労働力の不足を解決させるため、長時間労働を抑制する意図がありました。


例えば、労働力の不足による長時間労働の非効率化を補うため、政府は労働環境を改善することで、労働の生産性を高めようと試みたのです。


その際、睡眠負債という考え方は、まさに格好の材料でした。


NHKなどでも取り上げられて、話題になりました。


睡眠負債という考え方に基づき、「日本人は働き過ぎ」「もっと寝なければダメ」というストーリーを広めることによって、「働き方を改革しなければならない」というムードを醸成していったのです。


しかし、国際比較のデータを見れば分かるとおり、睡眠時間と平均寿命の関係は「逆相関」になっています。つまり、「睡眠時間を長くすればするほど、健康に長生きできる」というのは幻想にすぎないのです。


実際に「日本人の睡眠」を詳しく調べた研究データでも、「長く寝る人ほど、早死にする」という明確な結果が出ています。


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遠藤 拓郎(えんどう・たくろう)
スリープクリニック調布院長
慶応義塾大学医学部特任教授、医学博士。東京慈恵会医科大学卒業、同大学院医学研究科修了、スタンフォード大学、チューリッヒ大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校へ留学。東京慈恵会医科大学助手、北海道大学医学部講師を経て、現職。祖父(青木義作)は、小説『楡家の人々』のモデルとなった青山脳病院で副院長をしていた時代に不眠症の治療を始めた。父(遠藤四郎)は、日本航空の協賛で初めて時差ボケを研究。祖父、父、息子の3代で90年以上、睡眠の研究を続けている「世界で最も古い睡眠研究一家」の後継者である。
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(スリープクリニック調布院長 遠藤 拓郎)

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