心配ごとの91.4%は実際には起こらない…「残りの8.6%」がそれでも気になる人に届けたい「幸福の知恵」

2024年2月27日(火)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

写真を拡大

寝ても覚めても不安が消えない時は、どうすればいいのか。『あやうく、未来に不幸にされるとこだった』(東洋経済新報社)より一部を紹介する——。
写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

■「悪い予測のほとんどはハズれる」という事実


未来を心配するのは、無意味で愚かしいことです。


何の利益もなく、自分の心を苦しめるだけだと言い切れます。実際、「未来への不安はほぼ現実化しない」という研究結果も出ています。2020年にペンシルバニア州立大学で実施された研究(※)に、大変面白いものがあります。


29人の参加者にそれぞれ10日間にわたり、心に浮かんだ心配ごとを記録してもらい、それらに根拠があるかどうかを調べたそうです。結果、心配ごとのうち最も多かったのは「まったく根拠のない心配ごと」でした。


さらに「なんらかの根拠がある心配ごと」についても、30日間にわたって追跡調査をしたところ、その91.4%は実際には起こりませんでした。


この結果からわかるのは、「私たちが日々心を悩ます心配ごとは、かなり的外れで、ほとんど現実化しない」ということです。


心配ごとに取りつかれ不安にさいなまれている最中は、それがとてもリアルに感じられるものです。しかし、それはわき起こった不安が、そうさせているだけ。ですから「心配ごとの多くは無根拠で、悪い予測のほとんどはハズれる」という事実を知っておくと、うんとラクになります。


※ペンシルベニア州立大学の研究によると、不安障害の人の心配ごとの91.4%は当たらないことがわかりました。心配が当たらない確率が高い人ほど、不安を改善しやすいそうです。つまり、不安を消し去るには、心配が的外れであることを実感することが大切なわけです。〔La Freniere, L. S.,& Newman, M.G.(2020).“Exposing worry’s deceit: Percentage of untrue worries in generalized anxiety disorder treatment.” Behavior Therapy, 51(3), 413-423.〕


■でも、「残りの8.6%」がもし起きてしまったら?


そうは言っても、私たちの心は、「不安」からなかなか抜け出せません。


「心配が現実化するわずかな可能性」を、心は無意識に探し続けます。そして、私たちはそれをまるで「確実に起こること」であるかのように受け止めてしまいます。


そうなると、私たちは「到底起こりえないような不安」を、「確実な未来」だと信じ込み、おびえてしまいます。「取り越し苦労」で、人生を浪費してしまい、「いまを楽しみながら生きること」ができなくなるのです。これは、何とかしなければなりません。


先ほどお話ししたように、「不安」の91.4%は無駄なわけですから、無視すればよいのですが、「心」にとってはそれはなかなか難しいこと。なぜかというと、心は不安にフォーカスしたがるからです。怖いとわかっているからこそ、ホラー映画を観てしまう。そんな経験はありませんか?


私たちの心は、不安があることに気づくと、それをじっと見続けてしまうのです。実際、いま、あなたは「残りの8.6%」が気になっているはず。


「すべての心配ごとのうち、91.4%は無視してよい」と言われ、気持ちがラクになったはずなのに、今度は「残りの8.6%」が自分に当てはまるのではないか、と心配なのですよね。よくわかります。私もそうでした。


■心のバランスを取り戻す魔法の言葉


でも、それって、めちゃくちゃ疲れませんか? そして、あまりに悲観的だと思いませんか?


楽しくないまま、いまを過ごす生き方なんて、やめちゃいましょう。大げさに聞こえるかもしれませんが、命の無駄遣いです。


厳密に言うと「いま感じている不安」は、「未来の不安」ではありません。未来に対して、いま、わざわざ起こしている不安です。どうなるかわからない未来を変えることは大変ですが、「いま」ならすぐに変えられます。


つまりその不安は、いますぐ取り除けます。


未来のわずかな可能性のせいで、いまの心が不安で一杯になるなんて不健康です。


少ない可能性は、小さく心配したほうが当然合理的ですし、何より心を健やかに保てます。幸い、そのためのよい方法があります。


心のバランスを取り戻すテクニックなのですが、やり方は簡単。「いま」に集中して、不安な気持ちを次のように言い換えるだけです。


「未来も、ほぼ100%大丈夫」


この呪文は未来を追い払って、現在に集中するためのものです。どんな物事も、どこを強調して表現するかで印象ががらりと変わります。そして、大きな意思決定にまで影響が及ぶこともあります。


これを心理学では「フレーミング効果」と呼ぶのですが、この呪文はその応用です。人が損得を感じる基準点をズラすと、価値の感じ方まで変わります。具体的な例を見てみましょう。


■苦しくなったら、「メリット」があるほうを考える


あなたは、次のキャッチコピーのうち、どちらを選びたくなりますか?


①購入者の90%が、効果を実感!
②購入者の10%には、効果なし。

きっと①のほうが選びたくなったのではないでしょうか。内容はまったく同じなのですが、このように、「事態をよい方向に促す商品」の場合、「メリット」を説明した①のほうが、心により響くのです。


広告にもフレーミングというテクニックは巧みに取り入れられているわけです。私たちも、個人レベルでこうした小技をうまく活用していきましょう。


話を本題に戻しますね。


「未来も、ほぼ100%大丈夫」という呪文のどこが「フレーミング」なのかというと、「心が無意識にフォーカスするポイント」をズラしている点です。


私たちは、ともすると未来ばかりを見てしまいがちです。つまり、視点があまりに先すぎるので、心穏やかに過ごすためには、視点をときどき手前に引き戻さないといけないのです。


「不安な未来」と、「確実な現在」を比べてみてください。後者のほうが、ダメージをうんと抑えられますよね。


「90%以上」というか、「ほぼ100%」というかも同じです。あなたは、自分自身がラクになるほうを選んでいいのです。


そもそも、フォーカスを自分の気持ちひとつで自由自在に変えられるなんて、素晴らしいことだと思いませんか。(でも、思い込みがあると、それが途端に難しくなってしまうのです。人の心って複雑ですね)。


■「考え事をしていたら、家に着いていた」そんな人は要注意


普段から、私たちの心は常に未来を捉えているので、現在についてはボーッとしています。


「帰宅中、考え事をしていたら、いつのまにか家に着いていて、どうやって帰ったのかよく覚えていない」


そんな経験はありませんか? (私にも何度か経験があります)


それは「いま」を生きていないのと同じ。貴重な楽しみを、みすみす手放しているようなものです。


「そんなの、しょっちゅうだよ!」という人は、考え事の比重が未来に移りすぎて、「いまを忘れること」が多くなっているのかも。どうぞお気をつけくださいね。


こうした心の動きが癖として身についてしまうと、未来の心配に人生の大半を奪われ、味わうべき“いま”を失ってしまいます。


これは親しい精神科医に聞いた話ですが、悩みを抱えている人は「何かいいことないかな」というフレーズが、よく口癖になっているそうです。つまりフォーカスが未来に向いていて現在にない。それが「しんどさ」の表れなのだとか。


そのような場合、「いいことが来る!」「いいことが起こる!」と、現在形の断定口調に変えると、フォーカスが現在に引き戻され、生活が充実しやすくなるとのこと。


現在への集中が、人生を豊かにするわけですね。


■いまが“台無し”になったとき、どう考える?


あるカナダの心理学者が著書の中で、幸せになるためのヒントをいくつか挙げているのですが、その最後を「道で出会った猫を撫でる」で締めくくっています。


写真=iStock.com/liebre
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

いま、可愛い猫にたまたま出会ったことに気を留める。それを撫でて柔らかさや暖かさを感じる。その猫と心を通わせ、優しい気持ちになる……。そんな“ちょっとした幸せ”を見逃してはいけません。


いま、確実にそこにある幸せを、しっかりと意識したいものです。
いま、手にしたカップから立ち上るコーヒーの芳醇(ほうじゅん)な香りにうっとりしたり。
いま、目の前にいて他愛ない話をする人の幸せを願ったり。
いま、あびたシャワーの温かさに全身がほっこりする心地を感じたり。
いま、YouTubeで見つけたチャンネルのおかしさで心を一杯にしたり。


よくよく考えると、私たちの「いま」は楽しむことにずっと忙しいのです。ですから「未来を心配している無駄な時間」などありません。


いまにフォーカスできるようになった場合、いまが“台無し”になったときは、失望をより大きく感じることがあります。


①「思っていたのとは違う状態」を、残念に思うか
②「予想しなかった出来事」を、ラッキーと思うか

一般的に、①の考え方をする人は、「予想した通りのことが起こってほしい」人ですから、未来に対するフォーカスがやはり強いといえます。


■「ああではない」から、「いまこうである」と転換しよう


一方、②の考え方をする人は、現在の“受容度”が高い人です。総じて、こちらのほうが幸福度は高くなります。なぜなら、つらいときにフォーカスをより手前に引き戻すことができる人だからです。もう一度いいますが、未来など、どうなるかわかりませんし、心配ごとはほぼ100%現実にはならないのです。


「フォーカスを手前に引き戻す」という小技は、誰でもすぐにできる、最も簡単にして最強のテクニックです。


例えば、マラソン大会に向けて毎日ランニングを続けているとしましょう。努力が思うように実らないときでも、「なかなかタイムが伸びない」とがっかりする(=“いま”の状態を残念に思う)のではなく、いま、大会に向けて走っていること自体を楽しむべきです。健康な証拠ですし、何よりも体力ももっとつくのですからラッキーです。


言い換えると「ああではない」と嘆くのではなく、「いまこうである」を楽しむことが大事なのです。


子どもが何事も無邪気に楽しめるのは、どんな状況であろうと「いま」にフォーカスしているから。「ああではない」と別の「いま」をほしがったりはせず、「いま、こうである」を満喫しているからです。


つまり、置かれた状況で、何らかの面白味を発見しようとする姿勢が大事なのです。


■「いまやりたくない仕事」はどうするか?


仕事の場合も同じです。どうしても気持ちの乗らない仕事もあるでしょう。自分にとっても、会社にとっても、何かしら意味があるとは思えないような仕事もあるものです(いわゆるブルシットジョブですね)。


可能なら、それを避ける方法を考えましょう。担当を誰かと代われないか掛け合うのも一つの方法でしょう。あなたにとっては、つらい仕事でも、同僚にとっては「いまやっている仕事よりはマシ」かもしれません。


そうであれば、喜んで代わってくれるでしょう。たしかに、そんなに都合よくいかないかもしれません。でもそれがきっかけで、もっとよいやり方を教えてもらったり、業務を見直そうという社内の機運につながったり、「え、それってやらなくていいやつだよ」ということがわかるかもしれません。


最もまずいのは、自分で「やらないといけない」と思い詰め、閉じこもってしまうことです。愚痴を聞いてもらうだけでもよいので、周りの人も巻き込んで、力を借りることは(あなたがストレスをためこまないためにも)重要です。


その上で、「どうしても避けられない」のなら、フォーカスをもっと手前に引き戻して楽しまなくては損です。「嫌だ」と思っていても始まりません。


■仕事のミスは、未来の大きな失敗を防いだと考える


嫌な仕事は、特に長く感じるものです。どうせ時間がかかるのであれば、その作業中に感じられる楽しみを早く見つけ、それを味わいながら仕事をこなすほうがいいでしょう。


また、「嫌な仕事」を次のように脳内でポジティブ変換することも、精神衛生上、大きなメリットがあります。


「仕事でミスをした」
(ポジティブに言い換え→)「これは何か他の大きな失敗と引き換えに先取りしたのだな。この程度で済んでよかった!」


「明日までにどうせ選ばれないアイデアを100個考える」
(ポジティブに言い換え→)「次の1個で人生変わるかも!」


「たった一度の会議のためだけに、大量のコピーを用意する」
(ポジティブに言い換え→)「これは疲れた脳を休ませるチャンス到来!」


「会議室の8人の重役に、コップに入ったお茶を一滴もこぼさず出す、という至難の業」
(ポジティブに言い換え→)「ミッション・インポッシブル!」


これも、先ほどのフレーミングというテクニックと同じ。未来にフォーカスするのではなく、「いま」に集中しましょう。


先ほどの例で言うと、「この程度で済んでよかった」と状況に感謝したり、「チャンス到来」と捉えてみる。あるいは、「ミッション・インポッシブル!」とワクワクしてみる。


写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■「時間の長さ」は人の主観によって変えられる


この「フォーカスを手前に引き戻す」小技こそ、自分自身の心を守る、最も簡単にして最強のテクニックです。


秘訣(ひけつ)はすべて「いまを楽しもう」と試みること。無理は決してしないこと。そして「私は、それが嫌なのだけど」と自分に言う代わりに、あえてその中に楽しみを見出すようにすると、楽しく感じられるものです。


「楽しんでしまえなんて、子どもでもあるまいし、ばかばかしい」



堀内進之介、吉岡直樹『あやうく、未来に不幸にされるとこだった』(東洋経済新報社)

そう思われるかもしれません。しかし、人生には避けられないこともあるとご存じでしょう。避けられそうにないことを、なんとか避けようともがき続けるより、楽しみながら乗り越えるほうがいいですよね。それが、大人の知恵でしょう。


「時間とは長さ」と思っている人は多いものです。でも、実はそうではありません。


多くの人が、「時間」を数値化された「長さ」「量」として考えがちですが、実は非常に個別的で主観的なもの。まずはその原則を心に留めておいてください。


私たちは、過去でも未来でもなく、いまにしか生きられません。終わった過去や、まだ見ぬ未来に心をとらわれる癖からは卒業しませんか。


----------
堀内 進之介(ほりうち・しんのすけ)
政治社会学者
Screenless Media Lab.所長、東京都立大学客員研究員ほか。博士(社会学)。単著に『データ管理は私たちを幸福にするか? 自己追跡の倫理学』(光文社新書)『善意という暴力』(幻冬舎新書)『人工知能時代を〈善く生きる〉技術』(集英社新書)ほか多数、共著に『人生を危険にさらせ!』(幻冬舎文庫)ほか多数。翻訳書に『アメコミヒーローの倫理学』(パルコ出版)がある。
----------


----------
吉岡 直樹(よしおか なおき)
Screenless Media Lab.テクニカルフェロー、ディレクター。(株)XAMOSCHi代表。デジタル系プロダクションの設立を経て現職。日本ディープラーニング協会認定ジェネラリスト(JDLADeepLearning for GENERAL 2017)、米国PMIR認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル、経営学MQT上級(NOMA)、ウェブ解析士(WACA)、日本マネジメント学会正会員(個人)。共著に『AIアシスタントのコア・コンセプト』(ビー・エヌ・エヌ新社)がある。
----------


(政治社会学者 堀内 進之介、吉岡 直樹)

プレジデント社

「知恵」をもっと詳しく

「知恵」のニュース

「知恵」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ