これを皿に盛り付けるだけで健康食が習慣に…"肥満大国"アメリカ糖尿病学会が勧めるプレート食の中身
2024年2月27日(火)15時15分 プレジデント社
※本稿は、大坂貴史『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/yukimco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yukimco
■一番大切なことは太らない、痩せすぎない
「健康的な食事を思い浮かべてください」と言われたら、どのような食事が出てくるでしょうか? 野菜、豆腐、玄米……。いろいろな食事を想像されたと思います。
「食事で健康になりたい!」と考えた時に(合っているかどうかは別として)テレビやインターネットで、○○が健康によい! というような話はたくさん聞かれると思います。こういった話は広がりやすいのは確かでしょう。ただし、大事な点が欠けています。それは「適切なエネルギーをとる」という概念です。
つまり、どれだけよいものを食べていたとしても、食べすぎては太りますし、食べる量が少なくて痩せていても、よくありません。「何を食べるのか?」ということと同時に「どれぐらい食べるのか?」ということを考えましょう。
太りすぎはなぜよくないのでしょうか? 肥満は2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症、心臓病、脂肪肝、(女性の)月経異常、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症、慢性腎不全などに関係していることが知られています(※1)。これらの病気は食事を減らすことで一定の予防や改善が可能です。
どれだけ「健康にいいもの」を食べていても、それによって太りすぎる結果になってしまうのではよくありません。国民健康栄養調査(※2)によりますと、太っている人(BMI≧25kg/m2)の割合は男性で33.0%、女性22.3%で男性では平成25年から増加しています。何を食べるかが難しい場合、まず量を減らすことも大きく健康へつながります。
痩せすぎもよくありません。痩せすぎは高血糖(※3)、骨粗鬆症(※4)、(女性の)月経異常(※5)、脳卒中、心筋梗塞、全ての死亡のリスク(※6)に関連していると報告されています。
また、痩せすぎの中でも筋肉が減っているサルコペニアの状態ですと「5.筋肉があることはあらゆる健康につながる」でもお話ししたように、2型糖尿病(※7)、非アルコール性脂肪肝、メタボリックシンドロームなどの代謝疾患(※8)、高血圧症(※9)などとも関係しています。痩せすぎの人は食事の内容にこだわることも大切ですが、とにかく体重を増やす、というのも大切です。
■今の体重は増えているのか減っているのかを把握する
どれぐらいの体重がよいのでしょうか。BMI(肥満指数)を参考にしてみましょう。BMIは体重÷(身長×身長)で求められます。あくまで参考値ですが日本人の食事摂取基準(※10)では表のようになっています。高齢者では痩せの基準が厳しくなっていることにご注意ください。
出所=『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』
この基準は総死亡率が一番少なかったBMIを元に、生活習慣病やフレイルなどを考慮して考えられています。
では、必要なエネルギー量はどれぐらいでしょうか。成人では体重当たり1日、30〜40kcalと言われています。ただし、日常どれぐらい体を動かすかや体質などによっても異なります。あくまで計算上であることを意識しないといけません。
実際今の食事で体重が増えているようであれば食事量は多い、今の食事で体重が減っているようであれば食事量は少ない、ということになります。
ですので、実は最も大切なことは今どれぐらいの食事をとっているのか、今の体重は増えているのか減っているのか、それを把握することが大切です。
食事の記録は難しいですが、最近はスマホのアプリなどで簡単に記録したもので摂取エネルギー量を推定できるものも増えていますので、それらを使用するのもよいと思います。
■地中海食に近い食事をとっている人はがん発生率と死亡率が低い
「地中海食」という食事を聞かれたことがあるでしょうか? 地中海食はフランス、イタリア、スペインなど地中海沿岸の国々の人たちが食べている伝統的な食事のことで、以下のような特徴(※11)があります。
・全粒穀物、野菜、豆類、果物、ナッツ、種子、ハーブ、スパイスなどの植物ベースの食品を積極的にとる
・脂肪の主な供給源としてオリーブオイルなどを用いる
・魚、海産物、乳製品、鶏肉は適度にとる
・動物の肉や甘いものはたまにしか食べない
・適量のワインを飲む
15万人以上の被験者を3〜18年間追跡した12件の研究を分析した報告(※12)ではこの地中海食に近い食事をとっている人はそうでない人に比べて、がんの発生やがんによる死亡、パーキンソン病とアルツハイマー病の発生、心臓病による死亡、全ての原因による死亡が少なかったとされています。
そういったことから地中海食は健康的な食事として知られています。地中海食はそれぞれを考えるとなぜ健康的なのかがわかってきます。
日本において植物由来の食品と心臓病や死亡率との関係を調べた研究(※13)では、野菜摂取量、果物摂取量、豆類の摂取量が多い人はそうでない人に比べて、それぞれ心臓病による死亡、全ての原因による死亡どちらも少なかったと報告されています。
そういったことから厚生労働省は健康日本21において野菜の摂取目標を350g、果物摂取目標を200gとしています(※14)。
全粒穀物とは大麦、玄米、オートミールなどの穀類です。反対に精製穀類と呼ばれるものは、白米、白いパンなどです。穀類は精製加工する際に胚芽などが除去されます。
この除去された部分に食物繊維、ビタミン、ミネラルなどが含まれるため、全粒穀物は精製穀類に比べてこういった栄養分が多いです。全粒穀物は肥満(※15)、心臓病による死亡率、すべての原因による死亡率(※16)の減少に関係しています。
■日本人は「ナッツ」「オリーブオイル」で健康になるのか
脂肪に関しても考えないといけません。脂肪にもいろいろ種類があるのですが、ざっくりと分けると、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸です。飽和脂肪酸は、血液中の中性脂肪やコレステロールなどに悪影響があり、心臓病のリスクを高める可能性があるといわれています(※17)。
飽和脂肪酸は牛肉や豚肉などの鳥以外の肉類や乳製品、ココナッツ油やパーム油などに多く含まれています。地中海食では脂肪分をとる時には、これらよりはオリーブオイルなどを積極的にとることになっています。
さて、こういった話はよくテレビ、雑誌やインターネット記事で取り上げられるため、「ナッツを食べると健康になるのだ!」「よし! 明日から家の油はすべてオリーブオイルにしよう!」と考えられる人も多いのですが、注意が必要です。
これらの比較対象はこういった食事をしていない人たちです。例えば先ほどの飽和脂肪酸ですが、現在日本人の摂取量の中央値は全エネルギーの6.2〜8.2%と言われており(※18)、目標値の7%は約半分の人が達成されていることになります。
また、ここでいうオリーブオイルなどというのはサラダ油やごま油などの植物油でも問題はなく、サラダ油をオリーブオイルに変えたから健康的だということではありません。
現在の食事がこの地中海食と真逆の人であれば効果がある可能性は高いですが、そもそも日本食がかなり近い形ですし、ましてや今の食事はそのままにして、追加してナッツを食べたりワインを飲んだりオリーブオイルをかけると健康的になるということではありませんので、その点には注意が必要です。
■アメリカ糖尿病学会がすすめるプレート食
自分がどんな食品をどれぐらい食べたらよいのか? それを正しく知るというのはかなり難しいです。もし、あなたが糖尿病や高血圧症などの病気があれば、病院を受診することで栄養士さんにいろいろと詳しく教えてもらえます。
費用は3割負担で1000円弱です。自分のことを詳しく知るのにはとてもよいのですが、残念ながら今の保険制度ではなんらかの病気がある人か、食べる力が落ちてしまった人か、低栄養状態にある人のみ適用で、健康だけど将来の病気を予防したい! という人は保険で受けることができません(※19)。
また、詳しく知るのには時間もかかります。とりあえず、ざっくりとちゃんとした食事の情報を知りたい! という人向けに農林水産省が「食事バランスガイド」というものを出しています(※20)。
出所=『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』
これは推定エネルギーが2200kcalのものですので、ご自身の体重によって上下しますが、いかがでしょうか? いろいろと細かくなっているのですが、わかりやすさからは少し離れているかもしれません。
さて、アメリカは肥満大国と言われており、最新のデータですと国民の4割以上が肥満です(※21)。また、10年前は3割ほどでしたので、増加傾向であると言えます。
こういった問題があることからシンプルな食事ガイドが求められており、プレート法と呼ばれる食事法が一般的にすすめられています。今回は糖尿病学会が推奨する方法について解説します(※22)。
23センチほどの目安のお皿を用意し、下図のように仕切りをします。もとからしきりがあればなおよいです。
出所=『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』
■牛乳は飲料というより食品の一部
まず、お皿の半分に「でんぷん質のない野菜」を詰めます。でんぷん質のない野菜は、アスパラガス、ブロッコリー、ニンジン、キャベツ、セロリ、キュウリなどです。イモ類は含めません。炭水化物が少ないため血糖値も上がりにくく、ビタミン・ミネラル・食物繊維もたくさん含んでいます。
大坂貴史『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』(クロスメディア・パブリッシング)
次に、お皿の4分の1を「脂肪分の少ないたんぱく質が多くふくまれる食品」で満たします。魚、鶏肉、赤身の牛肉、大豆製品、チーズなどです。脂肪分が少ないたんぱく質はカロリーが少ないのもよい点です。豆類、豆腐などの植物性たんぱく質も積極的にとりましょう。
最後にお皿の4分の1を「炭水化物食品が多く含まれる食品」で満たしましょう。穀類、イモ類などです。玄米、大麦、オートミールなど精製されていない食品であれば、ビタミンやミネラルが豊富で血糖値が上がりやすい炭水化物の中でもその程度が軽いです。
そして、一緒に飲む飲み物はできるだけカロリーの少ないものを選びましょう。よく言う話ではありますが、とくに牛乳は飲料というより食品の一部として考えてください。
またこのプレート法は基本的な考え方ですので、必ずしもこのプレートで食べないといけないわけではないですが、量を一定にしつつバランスも考えられますので、食事の質を上げる上ではとてもよい方法であると考えられます。
※11 MAYO CLINIC Mediterranean diet for heart health
※14 厚生労働省 健康日本21(第三次)の推進のための説明資料
※20 農林水産省 食事バランスガイド
※21 Centers for Disease Control (and Prevention) Adult Obesity Facts
※22 American Diabetes Association What is the Diabetes Plate Method?
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大坂 貴史(おおさか・たかふみ)
医師
京都府立医科大学卒業後、京都南病院で初期臨床研修を経て京都第二赤十字病院に就職。その後、京都府立医科大学大学院博士課程で医学博士を取得し、現在は綾部市立病院_内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌糖尿病代謝内科学講座客員講師。糖尿病専門医・指導医、総合内科専門医、日本医師会認定健康スポーツ医。市中病院で糖尿病をもつ患者さんを診察しながら、大学で糖尿病に対する研究を行っている。糖尿病と筋肉、糖尿病運動療法が専門。幸せになる運動の開発が現在の研究テーマ。趣味は料理とワイン。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、SAKE DIPLOMA。居合道・弓道・合気道有段者。YouTube、Xで医療情報を発信している。YouTubeの掛け声は「健康はぁ〜筋肉ぅ〜」
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(医師 大坂 貴史)