これで肥満防止、がんの抑制、全身の体力向上になるうえボケない…長生きに直結する「卑弥呼の教え」の中身

2024年4月18日(木)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ako76

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長生きするために食事で何を心がけるべきか。精神科医の保坂隆さんは「よく噛んで食べることが何よりも大切だ。噛むことの大切さを考え、伝えることを目的にした日本咀嚼学会には『卑弥呼の歯がいーぜ』という標語がある。そこでは、肥満防止、がんの抑制、全身の体力向上など、噛むことの8つの効用を伝えている」という——。

※本稿は、保坂隆、西崎知之『おだやかに80歳に向かうボケない食生活』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/ako76
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■古代人は1時間かけて1回の食事で約3900回噛む


毎日の食事でとくに重要なのは「よく噛(か)んで食べること」でしょう。


個人差はあるものの、一般的に年齢を重ねるとともに歯が欠けたり、舌の運動機能や唾液の分泌も悪くなる傾向があります。


その結果、食べ物がうまく飲み込めない「嚥下(えんげ)障害」を起こしやすくなります。


嚥下障害が進むと、誤嚥といって、食べ物が食道ではなく気道に入ってしまい、肺炎を起こすことがあります。これを誤嚥性肺炎といいます。


この言葉は最近、よく耳にするのではないでしょうか。誤嚥性肺炎は高齢になるほど罹患する比率が高くなります。いまや日本は世界一の超高齢社会です。誤嚥性肺炎は、悪い意味でのその象徴なのです。


では、誤嚥を防ぐためにはどうしたらいいのでしょうか。


答えはとてもシンプルです。


「よく噛んで食べること」。これが重要で大切なことになります。


古代の日本人の主食はおこわで、干物、くるみや栗などの硬いものを食べていたとされています。硬いものはよく噛まなければならないので、古代人は1回の食事で噛む回数は約3900回、時間にして1時間ほどかけていたと考えられています。


平安時代から昭和の戦前までの間は、米や麦、魚や野菜を主に食べてきました。古代に比べると、噛む回数はぐんと減ったと考えられています。とはいってもそれは1500回ほどで、食事の時間も20〜30分はかかっていたと推測されるのです。


■「ひと口30回」を目標にするのが理想的


時は流れて現代。食事の欧米化が進み、食べるものがどんどん軟らかくなってきました。軟らかなものは当然、よく噛まなくても飲み込めます。


ですから噛む回数はこれまでに比べてガクンと減って620回程度。時間にすると11分ほどしかかかりません。これでは、あまりに少ないといわざるを得ません。


では具体的に、どのくらい噛んでから食べるようにするといいのでしょうか。


これはあくまで目安ですが、「ひと口30回」を目標にするのが理想的とされています。


しかし、噛むことにあまり慣れていない現代人にとって、ひと口30回というのは意外とハードルが高いようです。


そこで、クリアするためには、噛みごたえのある食材(玄米、胚芽米(はいがまい)、きのこ、根菜、こんにゃくなど)をメニューに取り入れるといいでしょう。


また、食材を大きめに切ったり、逆にひと口に入れる量を少なくして味わって食べるようにする。味付けを薄めにして素材そのものの味を楽しむ、といった工夫も有効でしょう。


現代人は、平均するとひと口で10〜20回しか噛んでいないそうです。「飲み込もう」と思ったときに「あと10回!」を実行すれば、ちょうどよくなります。


■噛むことの大切さを伝える“卑弥呼の教え”


日本咀嚼(そしゃく)学会をご存じでしょうか。


噛むことの大切さを考え、伝えることを目的のひとつとして1990年に発足したNPO法人です。その日本咀嚼学会には「卑弥呼(ひみこ)の歯がいーぜ」という標語があります。


よく噛んで食事をしていたと考えられる古代時代の女王・卑弥呼にかけて、噛むことの8つの効用を伝えています。ひとつずつ見ていきましょう。


ひ:肥満防止

よく噛むことで脳が満腹感を覚えるので、食べすぎ防止になります。


み:味覚の発達

よく噛めば、食材本来の味がよくわかるため、味覚が発達します。


こ:言葉の発達

噛めば噛むほど顔が動くので、顔の筋肉が発達します。それで表情が豊かになり、言葉を正しく発音できるようにもなります。


の:脳の発達

額の脇に手を当てるとよくわかりますが、噛む動作をしているとき、こめかみはよく動きます。このことによって、脳への血流がよくなって、脳の活性化につながります。


は:歯の病気予防

噛む回数が増えると、唾液の分泌がさかんになります。すると、口の中が唾液によって洗い流され、虫歯や歯周病の予防になります。


が:がんの予防

唾液のなかには「ペルオキシターゼ」という成分が含まれていて、その成分には食品中の発がん性を抑制する働きがあるとされています。


い:胃腸の働きの促進

たくさん噛むことで食品が細かくなり、それを消化する胃や腸の負担が少なくなります。そのため、胃腸の働きが正常に保たれます。


ぜ:全身の体力向上

しっかり噛むとあごが発達するので、ぎゅっと歯を食いしばることができます。そうすると全身に力が入ります。


このように、噛むことには本当に多くの利点があります。つまり、噛めば噛むほど健康になるのです。お金もかかりませんし、特別な技術も必要ありません。ただ噛めばいいだけです。


噛むのは自分の歯でも義歯でも同じです。たとえ総入れ歯の人でも、噛むことで健康を保てるのです。


写真=iStock.com/Ibrahim Akcengiz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ibrahim Akcengiz

■赤・黒・緑・黄色・白…5色を食べるように心がける


食事をするうえで、最もといっていいほど大切なのがバランスよく食べることです。


いくら脳にいいからといって、ひとつの食材ばかりを食べていては身体によくありません。これもまた偏食です。過剰摂取すると、ホルモンのバランスを狂わせたり、成長阻害や下痢などを起こしたりする場合もあります。


バランスのいい食生活を心がけることが大切というわけです。


しかし最近は、少ない品数で済ませているケースが多いようです。高齢者でもそれは同じで、たとえば牛丼などの丼ものだけ、パスタだけ、ラーメンだけ、おにぎりだけ、サンドイッチだけ……。


あなたにも心当たりがあるのではないでしょうか。


かつての家庭料理は、それほど豪華ではありませんでしたが、味噌汁、煮物、焼き物、漬物など品数が豊富で、自然に栄養バランスがとれるようになっていました。


こうした食事ができにくくなっている現在、栄養バランスを保つためにはどうしたらいいのでしょうか。


食材の色に注目することです。


赤、黒、緑、黄色、そして白の5色がそろうように食材を選ぶことが大切です。各色の代表的なものを挙げてみましょう。


写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuto photographer

■メインの料理に“ちょい足し”する気持ちを持つ



にんじん、トマト、肉類など。



黒豆、黒ごま、昆布やわかめなどの海藻類、黒酢など。



レタス、ほうれん草、きゅうり、アスパラガス、ブロッコリーなど。


黄色

とうもろこし、かぼちゃ、たくわん、卵など。



大根、カリフラワー、豆腐、牛乳など。


たとえば、ラーメンを食べる際に、コーン(とうもろこし)、海苔、青ねぎをトッピングすれば、黄色、黒、緑がたちまちそろいます。


メインの料理に“ちょい足し”する気持ちがあると、各色をそろえやすいかもしれません。


■栄養バランスは「マゴワヤサシイ」でチェックする


バランスのとれた料理を心がけるべきというのは前項でお話ししたとおりですが、栄養バランスに関しては、バランスよくとれているかどうかをチェックする簡単な目安があります。


それが何かというと、キーワードは「マゴワヤサシイ」です。


つまり、一日の食事を通して、以下の食品がとれているかどうかをチェックすればいいだけです。



保坂隆、西崎知之『おだやかに80歳に向かうボケない食生活』(明日香出版社)
マ(豆類)

納豆、豆腐、煮豆、枝豆、きなこ、おから、ゆばなどがとれているか、チェックしてみましょう。


ゴ(ごまなどの植物性油脂)

いちばん簡単なのは炒りごまやすりごまを常備しておき、おひたしや味噌汁はいうまでもなく、サラダやうどん、そばなど何にでもひとさじ加えて食べる習慣をつけてしまうことです。


ワ(わかめなどの海藻類)

海苔、昆布、ひじきなど。口寂しいときには、昆布のスナックを口にするようにすれば、カロリーも低く、しかもヨウ素などの栄養素も摂取できます。


ヨウ素は甲状腺ホルモン合成に必要な成分で、人にとって必須元素です。海藻類を食べなくなると、ヨウ素不足から甲状腺異常になりやすくなるので要注意です。


ヤ(野菜)

生野菜は見た目はたっぷりに見えても、厚生労働省が推奨している1日350グラムをクリアするのは大変です。煮たり焼いたり炒めたりしてクリアをめざしましょう。


サ(魚)

とくに鰯、秋刀魚、鯵などの青魚を積極的に食べるようにしましょう。味噌汁をつくるときも、できるだけ煮干しから出汁(だし)をとるようにしたいところです。


シ(しいたけなどのきのこ類)

しめじ、エリンギ、えのきだけ、まいたけなどをストックしておき、味噌汁、炒め物、鍋などには必ずきのこを入れるようにしましょう。


イ(いも類)

いもに含まれる澱粉は、脳の栄養分である糖分の補給源になります。繊維質も多いので便秘予防の効果も期待できるでしょう。


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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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西崎 知之(にしざき・ともゆき)
医師、医学博士
1954年生まれ。神戸大学医学部卒業。神戸大、米国カリフォルニア大学アーバイン校と一貫して生体内情報伝達機構を専門に研究している。特に脂質シグナルと関連づけた新規の認知症治療薬、糖尿病治療薬、がん治療薬の開発に従事している。現在、上海中医薬大学附属日本校、ベトナム国家大学ハノイ校の客員教授を務め、後進の研究指導に当たるとともに新しい研究分野にも挑戦している。著書に『認知症はもう怖くない』『私は「認知症」を死語にしたい』『脳の非凡なる現象』(以上、三五館)、『ボケるボケないは「この習慣」で決まる』(廣済堂出版)がある。共著に『あと20年! おだやかに元気に80歳に向かう方法』(明日香出版社)がある。
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(精神科医 保坂 隆、医師、医学博士 西崎 知之)

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