睡眠不足を感じる人は一度この検査を受けたほうがいい…医師が解説"日中の眠気"に潜む怖い病気
2024年3月1日(金)7時15分 プレジデント社
※本稿は、大坂貴史『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang
■レム睡眠の間は全身の筋肉が弛緩、ノンレム睡眠は脳の活動が低下
「眠る」ということは人間を含めたすべての動物に必要な脳と身体を休める行為です。動物によってその時間は異なりますが、人間は約3分の1の時間を睡眠に費やします。
そして、その睡眠が不足した場合にはパフォーマンスの低下、事故や死亡のリスクの増加、心理的および身体的健康の悪影響があることは誰しもが感じることです。
寝ている間はずっと一定に寝ているというわけではありません。その間にも脳の活動は大きく変化します。寝ている間は大きく分けてレム睡眠とノンレム睡眠があります。
レム睡眠のレムはRapid Eye Movementの頭文字をとったもので寝ている時に眼球が素早く動くことから名づけられています。このレム睡眠の間は脳の活動が活発で全身の筋肉は弛緩(しかん)しており、ノンレム睡眠の間は逆に脳の活動が低下しております。
眠る時にはこのノンレム睡眠から始まります。このノンレム睡眠はそのうちステージN1、N2、N3と分けられており(※1)、それらを経てレム睡眠となります。夢を見ているのはレム睡眠の間と言われており(※2)、睡眠時間全体の4分の1未満ですが、記憶の定着などに重要な役割を担っているだろうと言われています(※3)。
■適切な睡眠時間は成人以降ほとんど変わらない
さて、この睡眠には持続時間(量)と深さ(質)の2つの側面があり、どちらも重要です。適切な睡眠時間と適切な睡眠の深さがなければ日中の注意力や機能が落ちてしまいます。
睡眠時間が長くても睡眠の深さが悪ければ適切な睡眠とは言えません。良質な睡眠とはどのようなものでしょうか。それには2つの軸が重要です。
ひとつは睡眠時間です。適切な睡眠時間は年齢によって変わりますが、成人以降はほとんど大きな変化がありません。アメリカ疾病予防管理センターの推奨する睡眠時間を図表1に示します(※4)。
出所=『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』
もうひとつは睡眠の質です。十分な時間眠っていても睡眠不足を自覚する場合は睡眠の質の低下が原因です(※5)。この睡眠の質とはどういうことかというと、夜間にどれぐらい目覚めるかは先述したレム睡眠、ノンレム睡眠の割合などで決まります。
とくに睡眠時間の中断に関しては重要です。古い研究(※6)ですが、実験的に1時間あたり60回睡眠を中断させた場合、40〜64時間の睡眠不足に相当する日中のパフォーマンスの低下があったとされています。
これらの睡眠の量や質に関しては3次元型睡眠尺度(3DSS)チェックシートで確認することができます(※7)。これは日勤労働者を対象としたチェックシートですので、簡易的な確認にはよいと思われます。
出所=『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』
■加齢により夜間は寝つきが悪い一方、昼間は寝つきがよくなる
年をとると体にいろいろな変化が起こります。もちろん、睡眠についても変化が起きます。ここでは年齢とともに睡眠がどのように変化するのかについてお話しします。
先ほど睡眠には量と質という2つの軸があるというお話をしました。この量についてアメリカ疾病予防管理センターの推奨する睡眠時間(※8)を見る限り、大きくは変わりありません。年齢とともに変化するのは主に睡眠の質なのです。
まず、高齢者は若い人に比べて、早い時間に眠たくなり早い時間に起きる、つまり早寝早起きになります(※9)。これは体内時計が朝型にシフトすることが原因ではないかと言われています(※10)。また、睡眠も浅くなります。
深いノンレム睡眠とレム睡眠の時間が少なくなり、浅いノンレム睡眠の時間が増えます(※11)。そのため、夜間覚醒といって夜間に起きてしまうことが多くなり、横になっている時間に対する睡眠時間の割合である睡眠効率が少なくなります。夜間の尿意などで起きやくなるのはそれが原因です。
このような夜間の睡眠の質の低下が日中の睡眠不足につながり、昼寝が増えます。ご高齢の人が昼によく寝ていることはしばしば目にしますが、加齢により夜間は寝つきが悪い一方、昼間は寝つきがよくなるのも原因のひとつです(※12)。
さて、このように睡眠の質が悪くなってしまうことによって睡眠不足となってしまうため、睡眠時間はあまり変わらないものの、寝床にいる時間は増えています。
令和元年国民健康・栄養調査(※13)によると、年齢とともに睡眠時間は長くなる傾向を示しており、これはアンケートによって確認されたものですので、寝床にいる時間が長いことがわかります。
横になっている時間が長い(=動いていない時間が長い)ことはこれまでお話ししてきたようにサルコペニアや心血管病などに関係し、かえって不健康ですのでよくありません。
■60歳以上で1.7倍になる睡眠の病気
また、年とともに増えてくる病的な睡眠障害に閉塞(へいそく)性睡眠時無呼吸症候群と不眠症があります。
睡眠時無呼吸症候群とは寝ている間に無呼吸と低呼吸を特徴とする病気です。これには閉塞性睡眠時無呼吸症候群といって空気の通り道がふさがってしまうことで無呼吸と低呼吸が起きるものと中枢性睡眠時無呼吸症候群といって空気の通り道が塞がっていないのに、無呼吸と低呼吸が起きるものがあります。
過去の報告ではこの睡眠時無呼吸症候群は60歳以上で1.7倍になると言われています(※14)。この睡眠時無呼吸症候群では寝ている間に呼吸が止まってしまうため脳に酸素が届かなくなり、日中の眠気やいびき、朝の頭痛だけでなく、高血圧症、心血管病、脳血管障害、不整脈や突然死とも関係があると言われています(※15)。
この睡眠時無呼吸症候群の検査は寝ている間に特殊な機械をつけるというもので、専門施設でないと実施できないことが多いため見逃されやすいですが、治療によって日常の生活の質や高齢者の場合は認知機能の改善が期待できる可能性が報告されている(※16)ため、検査の重要性は高いです。
日中の眠気が強い場合などはぜひ検査を受けていただきたいです。最近は郵送などで対応し、自宅でも実施が可能なところもあります。
不眠症も問題となることが多いです。これにはさまざまなことが原因としてあげられます。例えば関節などの痛みで夜が眠れなくなったり、前立腺肥大によって頻尿となり尿意が増えたり、認知症・うつ病・不安などの精神疾患、友人や家族との別れなどの心理的な要因など、それぞれの理由によって対応法は異なります。
写真=iStock.com/Filmstax
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原因を調べながら、場合によっては睡眠導入剤を使うこともありますが、最近の睡眠導入剤は今までの薬剤より安全な薬剤が増えていますので、ぜひ病院でご相談ください。
他にもレストレッグス(むずむず脚)症候群、周期性四肢運動障害、レム睡眠行動障害など高齢者が起きやすい睡眠障害がありますので、睡眠不足や日中の眠気で悩んでおられる人はぜひ病院を受診してください。
■睡眠不足はうつ病や不安に似たような症状が出る可能性
睡眠不足は体に悪そうだというのは昼間のパフォーマンスが落ちて体がだるくなることから多くの人に納得していただけるかと思います。さて、どのように睡眠不足は健康に悪いのでしょうか? 具体的に、解説していきます。
睡眠不足による不健康には急性効果と慢性効果があります。急性効果は睡眠不足だった翌日どうなるかというものですね。具体的にはいろいろあります。1つ目は認知障害(※17)です。わかりやすく言うと判断力、注意力、警戒心の低下ですね。
他にも知覚、記憶、実行能力などにも影響があります。また、睡眠不足はうつ病や不安に似たような症状が出る可能性があります(※18)。そして私も睡眠不足の時に経験があるのですが、マイクロスリープといって起きている時に急に数秒間寝てしまう現象が起きやすくなります。
もちろん運転中などの場合には非常に危険です。とくに車の運転中など身体を動かすことがあまりない時などに急に強い眠気を感じると重大な事故に繋がります。
そして慢性効果についてです。現在多くの研究で、睡眠不足が積み重なった結果として、事故や死亡のリスクの増加、心理的および身体的健康への悪影響があることがわかってきています。中国で2017年に発表された研究(※19)を紹介します。
20〜80歳の成人で肥満ではなく糖尿病や高血圧症などのメタボリックシンドロームでない16万2121人を対象に、1996年から2014年まで睡眠時間とメタボリックシンドロームなどの病気の発症の関係について調査を行ったところ、6〜8時間の睡眠時間と比較して、6時間未満の睡眠時間だと肥満のリスクが12%増加し、空腹時血糖値の上昇リスクが6%、高血圧のリスクが8%、HDLコレステロールの低下リスクが7%、高トリグリセリド血症のリスクが9%、メタボリックシンドロームのリスクが9%増加しました。
■睡眠時間の短い人は心筋梗塞のリスクが1.2倍高い
また、8時間以上の睡眠時間は、高中性脂肪血症およびメタボリックシンドロームのリスクを減少させました。加えて、2019年に報告された研究(※20)では英国の心血管病になったことがない46万1347人以上を中央値7年間追跡分析し、睡眠時間と心血管病の関係について調べられています。
その結果、毎晩6〜9時間睡眠する人と比較して睡眠時間の短い人は1.2倍、心筋梗塞のリスクが高かったのです。
そして、睡眠不足は免疫とも関係しています。面白い研究があります(※21)。153人の健康な人の14日間の睡眠時間と睡眠効率(ベッドにいる時間のうち寝ている時間の割合)を評価したあとにライノウイルスという風邪のウイルスを投与され、どのように風邪になるか観察されました。
その結果、睡眠時間が7時間未満の人は、8時間以上の人に比べて風邪を発症する可能性が2.94倍高かったのです。睡眠効率が92%未満の人は、98%以上の人に比べて風邪を発症する可能性が5.5倍高かったということです。
ちょっと人体実験に近い研究ではありますが、睡眠不足だとウイルスに暴露された際に風邪を引きやすいという重要な内容だと思います。
そういったこともあって睡眠不足は死亡リスクも上げることが報告されています。16の研究から138万2999人についてアンケートで得られた睡眠時間と死亡について評価した報告(※22)では睡眠時間が短いと死亡リスクが高くなると関連していました。
逆に寝すぎも死亡リスクの上昇と関係していると言われていますが、今のところはっきりとはしていません。適切な睡眠時間と睡眠の質が非常に重要だと言われています。
■よい睡眠を得るために重要な睡眠環境
さて、ここまでで睡眠の大切さについてお話ししてきました。ここでは睡眠不足をどのように改善させていくのかについてお話しします。
まず、睡眠不足について認識することです。アメリカ睡眠学会(※23)によると、睡眠不足症候群とは「日中に眠気を感じる」「睡眠時間が年齢に合わせた適切な睡眠時間より短い」「3カ月以上ほぼ毎日続く」「忙しくない朝の時には普段より睡眠時間が延びる」「睡眠時間を増やすと日中の眠気が改善する」「他の原因が考えられない」といった診断基準があります。
写真=iStock.com/chachamal
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中にはもともと睡眠時間が短い人もいて、そういう人は睡眠時間が短くても日中の眠気などを感じません。ただ、そういった人を除き、成人の睡眠時間としては7時間以上というのがひとつの目標となっています(※24)。さて、こういった十分な睡眠時間が確保されていても日中の寝不足を感じる場合、睡眠の質の低下が存在すると考えます。
睡眠の質の低下については先述のように病院でポリソムノグラフィーなど詳しい検査をしてもらうのが一番正確です。病院で評価してもらう場合、病的睡眠障害の可能性についても評価してもらえます。
病的睡眠障害には先述した睡眠時無呼吸症候群の他にレストレッグス症候群や周期性四肢運動障害などがあります。これらはそれぞれの病気に合わせた治療法がありますので、生活を変えただけでは改善しません。病院ではまずはこういった病気がないかについて確認できますので、病院で評価してもらうことについても重要であろうと考えます。
ただ、近年はウエアラブルデバイスでも簡易的に睡眠の質について評価が可能です。かつてはポリソムノグラフィーよりは誤差が大きかったようですが、最近のものはポリソムノグラフィーと大きく変わらない評価ができると言われています(※25)ので、睡眠の質を評価する上で簡易的に見るのにはよいと思われます。
さて、よい睡眠を行うのには睡眠環境を整えることが重要です(※26)。まずは睡眠のスケジュールを守りましょう。休みの日でもそうじゃなくても同じ就寝時間、起床時間を守ることは重要です。また、寝る前の行動も重要です。就寝の2〜3時間前には薄暗い光にして、少なくとも1時間前にはパソコンやスマホなどの使用をやめておきましょう。
これにはモニター画面などを見ることによって、睡眠に関係するメラトニンというホルモンが出にくくなることが関係していると言われています(※27)。また、眠れない時に時計を見るのもやめましょう。時計を見ることで眼が覚めやすくなります。
■午後の昼寝は避け、涼しくて静かな環境を
夜眠れなくて昼寝をしてしまうことがありますが、できるだけ昼寝は避けましょう。もし寝る場合は20分ほどの短時間にしてとくに午後の昼寝は避けておきましょう。眠る場所も重要で、涼しくて静かな環境が望ましいです。自然光を浴びることも大切です。1日30分は自然光を浴びることを意識しましょう。飲み物にも注意が必要です。
大坂貴史『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』(クロスメディア・パブリッシング)
昼食後以降のカフェイン、夕方のタバコはどちらも睡眠障害と関係しています(※28)。アルコールも眠る目的で飲まれる人がいます。実際寝つきがよくなると感じている人はいると思いますが、夜のアルコール摂取は起きている時間が長くなり、夜の後半の眠りが浅くなり、睡眠の質を低下させる可能性があると言われています(※29)。
ですので、眠るためにお酒を飲むというのはすすめられません。運動も重要です。定期的な運動は睡眠時間、寝つきやすさ、睡眠の質に効果的であることが報告されています(※30)。
ただ、就寝前は激しい運動をすると身体がリラックスできなくなるため、避けておきましょう。また、夜間にトイレで起きてしまう人は寝る前の水分摂取を控えましょう(※31)。
このような睡眠環境を整えた上で改善せず、先述した病的睡眠障害が認められない時は睡眠薬の使用が必要な場合があります。困っている場合はぜひ病院で相談しましょう。
※4 CDC Basics About Sleep How Much Sleep Do I Need?
※6 Bonnet MH. Effect of sleep disruption on sleep, performance, and mood. Sleep. 1985;8(1):11-9.
※8 CDC Basics About Sleep How Much Sleep Do I Need?
※10 e-ヘルスネット 高齢者の睡眠
※15 日本循環器学会2023年 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
※17 Killgore WD. Effects of sleep deprivation on cognition. Prog Brain Res. 2010;185:105-29.
※24 CDC Basics About Sleep How Much Sleep Do I Need?
※26 Sleep Foundation 20 Tips for How to Sleep Better
※31 日本睡眠学会 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン
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大坂 貴史(おおさか・たかふみ)
医師
京都府立医科大学卒業後、京都南病院で初期臨床研修を経て京都第二赤十字病院に就職。その後、京都府立医科大学大学院博士課程で医学博士を取得し、現在は綾部市立病院_内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌糖尿病代謝内科学講座客員講師。糖尿病専門医・指導医、総合内科専門医、日本医師会認定健康スポーツ医。市中病院で糖尿病をもつ患者さんを診察しながら、大学で糖尿病に対する研究を行っている。糖尿病と筋肉、糖尿病運動療法が専門。幸せになる運動の開発が現在の研究テーマ。趣味は料理とワイン。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、SAKE DIPLOMA。居合道・弓道・合気道有段者。YouTube、Xで医療情報を発信している。YouTubeの掛け声は「健康はぁ〜筋肉ぅ〜」
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(医師 大坂 貴史)