未成年でも教え子でもなかったのに…懲戒処分を受けた宮台真司氏の"不適切行動"はどこが不適切だったのか

2024年3月1日(金)11時15分 プレジデント社

宮台真司氏(撮影=村上庄吾)

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東京都立大学教授で社会学者の宮台真司さんが、20歳の大学生に不適切な行動を取ったとして、2月20日付で、同大を運営する東京都公立大学法人から戒告の懲戒処分を受けた。武蔵大学社会学部教授の千田有紀さんは「ネットでは『大学の対応は当然だ』という意見が多かったが、相手の学生は宮台氏の教え子ではなく、未成年でもない。本当の問題は、宮台氏が『調査研究の一環として』こうした不適切行動を取ったところにあるのではないか」という——。

■ラブホテルで20歳の大学生を取材


東京都立大学の教授で社会学者である宮台真司氏が、大学に懲戒処分を受けたという。報道では「都立大 宮台真司教授 “女子学生と不適切行動”で懲戒処分」(NHK News Web)、「宮台真司教授を戒告の懲戒処分 女子学生に不適切な行動」(共同通信 47NEWS) などと、軒並み「女子学生」「不適切な行動」として論じている。


宮台真司氏(撮影=村上庄吾)

共同通信の「宮台教授は昨年12月、調査研究の一環として、ラブホテルなどで女子学生に取材し、返礼として相談に乗るなどの不適切な行動を取った。週刊誌に報じられ、大学に苦情が寄せられるなど法人の信用を失墜させたとしている」といった報道に対して、Yahoo!ニュースでは多くのコメントが寄せられていた。大半が、「女子大生と関係を持つのは許されない」「大学の対応は当然だ」「もっと厳しい処分を」という論調であった。これには少し驚かされた。


宮台氏は、1990年代には女子高校生が着用済みの制服や下着を売る「ブルセラ」や「援助交際」のフィールドワークをするかたわら、自らの奔放な性関係についても多くの発言をしてきた。それらは、とがめられるというよりは、むしろ称賛されることも多かった。


私は氏のこういった「分析」に納得してはいない。しかし、時代が変われば、ここまで反応が変わるのかと感慨さえ覚える。やはり#MeToo運動を経過して、格段に性的な関係における権力関係が問題とされるようになったという実感がある。


■年齢差もあり立場も違う


64歳である宮台氏は、20歳の女子大生とは44歳も年が離れている。社会的な立場も経験も知識もすべてが異なっており、宮台氏が彼女との関係で優位に立っていることは明白である。


繰り返すが、近年はこうした力関係に焦点が当てられ、とくに未成年の子どもを、性的な行為を目的として手なずける「グルーミング」には、批判の目が向けられている。女子学生は宮台氏の強烈なファンを自称していたというが、のちに「私はだまされていたのだ」と思うのではないかと心配でもある。


■「教え子」であれば処分の根拠に


アメリカでは、教員が担当している学生と付き合うことは、たとえ両者が合意していたとしても禁じられている。教員は学生の評価権をもっており、圧倒的に権力をもっているからである。また他の学生に対して、公平性が保てないということもあろう。


私もかつて学生から、「ある先生が、あきらかに自分と同じ授業に出ている特定の学生と付き合っているようだ。その授業に出るのが苦痛だ」という訴えを聞いたことがある。周囲に影響が及ぶ点で、「環境型セクハラ」にもなり得ると感じた。


また、両者が合意していても、教室で学生に先生が性的な眼差しをむけたという事実に、深く傷つく学生もいる。


■「他大学の未成年ではない学生」との関係は問題なのか


ただ宮台氏の場合、女子学生との関係自体は倫理的に、また年齢の力関係を考えればいかがなものかとは思うが、処分の根拠とはならないのではないかと考えている。なぜなら、女子学生は宮台氏の大学の学生ではないからだ。宮台氏はこの学生と、利害関係はない。


しいて言うならば、もしこの学生が大学院生であれば、学会など、大学の外で力関係が生まれることもあり、問題となる可能性はある。大学院生の場合は、教授とはある意味上司・部下のような上下関係になることもあるため、ハラスメントの問題は深刻になりがちだ。しかし、宮台氏のケースはそれに当てはまらない。


また20歳は、まだまだ未熟なところがあるかもしれないが、成人年齢を超えており、処分の根拠とするには難しい。


処分には明確で明示的な根拠が示される必要がある。


確かに宮台氏と女子学生の間にある社会的な権力差、力関係を指摘することは可能である。しかし、もしも学生との関係であることが問題であるとするならば、「教員という立場の者と、学生という立場の者の関係が疑われた場合は、すべからく処分の対象とする」という合意を、まずもって形成しておく必要があると思われる。


学生にもさまざまな年齢の人がおり、何の利害関係もない場合の恋愛関係までをも禁じるのは、現実的には困難であると思われるが。


■処分の理由は何だったのか


ここまで長々と書いてきた。しかし都立大の運営主体である東京都公立大学法人から出された、宮台氏について書かれたとされている文書を注意深く読めば、やはり処分はせざるを得なかったのだろうと思われる。


ただそれは、他大学に通う20歳の学生との関係や、週刊誌報道により大学に苦情が寄せられ、大学の信用を失墜させたことが、主な理由であるとは受け取りにくい。学生との関係については、未成年ではなく、また宮台氏の教え子ではなく利害関係がないことから、処分の根拠とするには無理があることは、前述の通りだ。また、大学の信用を失墜させたことについては、報じられなければ問題がなかったのか、苦情が寄せられたことが問題だったのかなどの疑問も湧く。


私が本件で、処分をせざるを得なかったと考えるのは、「調査研究の一環として」不適切な行動を行ったというところだ。


東京都公立大学法人の文書には、以下のように書かれている。


「当該教員は、調査研究の一環として、他大学に通う20歳の学生に対し、令和5年12月にラブホテルなどにおいて、取材をするとともに、その返礼としての相談に乗るなどの不適切な行動をとった」

さらに宮台氏は、週刊誌への取材に対して、「最近の高校生の性愛事情に関して、本人や周囲の友人たちの行動や心理を細かく取材していました」と答えている。


写真=時事通信フォト
東京都立大南大沢キャンパス=2022年11月29日夜、東京都八王子市南大沢 - 写真=時事通信フォト

■「調査研究」としてあるまじき行動


宮台氏の「言い訳」を信じている人は少ないのではないかと思うのだが、取材対象者とラブホテルに行くなどは、研究者の調査研究としては論外の行動である。


近年は調査の倫理規定はとても厳しくなってきており、アメリカなどでは、調査旅行の行先すら言うことができない。守秘義務があり、調査旅行の行先を明らかにすると、調査対象者が誰かを特定される恐れがあるという理由からである。そして、調査対象者には、事前に、調査事項について書かれた多くの書類に目を通してもらったうえで同意の署名をしてもらう必要がある。調査者と被調査者のあいだにある力関係には、とくに細心の注意を払わなければならない。それほどまでに、調査の倫理が厳しくなっているのである。


もし宮台氏が、「プライベートなことだから放っておいてくれ」と言っていれば、批判を受けることはあったかもしれないが、懲戒処分を受けることはなかったのではないか。「調査をしていた」という説明をしたからこそ、ラブホテルに行ったことが問題となり、調査活動としては「不適切」だと処分されることになったのだろう。


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千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族—どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人
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(武蔵大学社会学部教授 千田 有紀)

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