柳井正氏の後継者をどう育てる?ユニクロが取り組む「FGLイニシアティブ」「MIRAIプロジェクト」の相当ハードな内容とは
2025年2月26日(水)4時0分 JBpress
時価総額約15兆円、企業価値創出力No.1と、名実ともに国内企業のトップランナーに成長したユニクロ。その強力な経営スタイルは、創業者・柳井正氏のカリスマ性によるところが大きいと思われがちだが、実際にはそうしたトップダウンとは真逆のところにこそ、ユニクロが持つ最大の強みがある。本連載では『ユニクロの仕組み化』(宇佐美潤祐著/SBクリエイティブ)から、内容の一部を抜粋・再編集。ユニクロを展開するファーストリテイリングの元執行役員である著者が、「仕組み化が9割」という同社の経営戦略をひもといていく。
今回は、同社の次世代リーダー育成プログラムにフォーカス。「ポスト柳井氏」を見据え、過酷な試練を通じてマネジャー、若手・中堅のキャリアアップを後押しする仕組みについて紹介する。
次世代のリーダー・後継者を育成する仕組み
ユニクロは次世代のリーダー育成には以前から取り組んでいます。それは柳井さんにも強烈な危機感があるからでしょう。
「自分がいなくなってもユニクロが成長し続ける仕組み」こそ、ユニクロの「仕組み化」の最後のピースといえるからです。
そのための布石は約10年前から打っています。
■ 次世代リーダーを育成する仕組み
私が責任者を務めていたFRMICがその役割を担っていました。09年に経営幹部養成機関として設立され、今では社内教育全般を担当しています。FRMICはかなり独特の組織で従来型の社内教育機関とは、まったく異なる発想を持っています。名前の通り経営変革を通じ経営者・人材育成を図ることがミッションです。
その中で次世代経営者育成の2本の柱となる「仕組み」が、「FGL(Future Global Leader) イニシアティブ」と「MIRAIプロジェクト」という二つのプログラムでした(現在は異なるプログラムに進化)。FGLイニシアティブは、マネージャークラス(年齢による区切りはありませんが、目安は30代です)を3年間で経営者(役員あるいは上級部長グレード)に育成するためのプログラムでした。対象者はグローバルグループから各事業の経営者によって抜擢された60人程度で、女性が半分、日本人は3分の1程度の構成でした。
育成のキードライバーは、次の3点です。
1. 志をベースにした3年間の試練が与えられる。前述の通り、全ての社員は自分が立てた志をもとにして各自のキャリアプランを進めているが、このイニシアティブの対象者は、この志とキャリアプランについて経営者レベルを交えて討議し、承認された後、特別な3年間のストレッチした経験機会が付与される。
2. 対象者個々に役員クラスのメンターが指名され、3年間の育成にコミットし、責任を負う。メンターはキャリアプランの構築、その実践で成果を上げるための相談相手という重要な役割を果たす。また、成果が上がらない場合には、いったんFGLから外れることをアドバイスすることもある。
3. 3カ月に一度FGLセッションを実施する。内容は、柳井社長をはじめとした経営者との直接対話や、現場・現物・現実でのビジネスの深い理解(たとえば中国の生産工場訪問)、自らがリーダーとなる組織横断イニシアティブの柳井社長への提案・討議などである。
これらを通して、経営者としての視座・醍醐味・大変さを、通常業務よりも直接的に学ぶ。
ただし、一度抜擢されたらその立場は安泰と思わせないように、一定の割合で入れ替える(敗者復活の道は設けた上で)。常に全力で上記のプログラムに当たるようにする。
試練の例としては、以前お伝えしましたが、営業センスは優れているが国内だけで育ってきた、英語も覚束ない日本人をロシア事業の最高執行責任者(COO)に就かせたり、人事・教育の経験しかない人材をサプライチェーン全体を統括する責任者に登用したりです。あれらの人事はこのプログラムの一環でした。
それまでのキャリアからかなり飛躍して、試練を与えていることで、実践でもがき苦しみながら、自らがリードし、チームをつくり成果を出すことにチャレンジさせます。
一方、MIRAIプロジェクトは、未来のユニクロを担う若手層の発掘・抜擢・育成を目的としたプロジェクトです。FGLよりさらに若いジュニア層(20代から30代前半が主体)が対象です。
経営層からすると個々の人材の能力や可能性が未知数な層なので、グローバルに公募をかけ、自ら手を上げさせ、選考をして、60人程度に絞り込むプロセスをとっていました。FGLと同様に女性半分、日本人3分の1程度の構成となっています。
プロジェクトの期間は1年。5人程度のチームを基本的には地域・事業のくくりで組成し、各地域・事業の経営者の問題意識も踏まえてテーマを設定します。プロジェクトを進めていき、その成果を3カ月ごとに柳井社長に報告します。
現場・現物・現実に入り込んで得た洞察をベースに仮説をつくり、関連経営者のところに行って議論し、さらにFRMICアドバイザー(社外有識者)の叱咤激励を受けた上で、柳井社長との討議に臨みます。日常業務を続けながらのプロジェクトなので、相当にハードです。
そうした内容の濃いプロセスを通じて鍛えます。進捗状況はFRMICのスタッフが随時チェックし、成果の見えないプロジェクトは途中で中止になります。その一方で、知られざる逸材がプロジェクトを通して認知されると、その社員は一段上のFGLイニシアティブへの参画を含む次のチャレンジ機会を与えられました。
たとえばある日本人の女性店長は、ずっと夢として持ち続けていた世界的に著名なある会社とのコラボレーションをMIRAIプロジェクトで提案し、柳井さんに認められました。
そしてそのプロジェクトのリーダーに抜擢されています。
いずれの枠組みも、ユニクロが抱えている経営課題を見つけて、そこに解決案を出してもらい、実践する取り組みでした。
他の企業でも経営課題を社員が見つけて、それに対して提言するようなプログラムはありますが、必ずしも実践が前提ではありません。ユニクロの場合は実践を前提に提案しなければいけません。
「ごっこ」の提案では済ませられない覚悟が問われますが、成果を出せば自分の未来も拓けます。
経営変革を提案させて、実践させて、成果を出せたら、卒業して昇格します。非常に実践的で、成長を後押しする仕組みといえるでしょう。
この2つの枠組みは柳井さんの後継者を育成するサクセッションプランに連携する形で仕組み化していました。
現在はFGLイニシアティブ、MIRAIプロジェクトはいずれも終了していますが、FRMICが育てようとしている経営者人材が自らのアスピレーションを明確に持ち、それをベースに骨太に企み、実践をドライブし、結果として成長・利益をあげる人であることに変わりはありません。
<連載ラインアップ>
■第1回経営理念を神棚に祀らない ユニクロの理念を実践につなげ生産性を高める「全員経営」の原理原則とは?
■第2回 柳井正氏の後継者をどう育てる?ユニクロが取り組む「FGLイニシアティブ」「MIRAIプロジェクト」の相当ハードな内容とは(本稿)
■第3回「大ぼら吹きになってください」ユニクロで柳井正氏が創業当初から意識する変革の原動力「3倍の法則」とは?
■第4回ユニクロで上司に差し戻される目標に決定的に欠けている要素とは? MBO×コンピテンシー評価でつくる独自制度(3月12日公開)
■第5回 ユニクロの塚越大介氏は44歳で社長に 柳井正氏の「人間25歳ピーク説」と修羅場を積ませる抜擢人事の仕組みとは?(3月19日公開)
■第6回 柳井正氏のゴルフ帰りの気付きも共有 ユニクロ役員が勢ぞろい、月曜朝8時に始まる「週次PDCA」は何がすごいのか?(3月26日公開)
※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者をフォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから
筆者:宇佐美 潤祐