これをやれば異なる考えに対峙しても心を乱されない…相手のペースに巻き込まれないための"土俵"の作り方
2024年3月7日(木)16時15分 プレジデント社
※本稿は、名取芳彦『達観するヒント もっと「気楽にかまえる」92のコツ』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/shapecharge
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shapecharge
■「自分のやり方」というアブナイ正義
人には3つのやり方があるそうです。正しいやり方、間違ったやり方、そして自分のやり方です。面白い分け方だと思います。
この中で、正しいやり方と間違ったやり方は、あとになって結果が出ます。やる前も、やった時点でも、正しいか、間違っているかは判断できません。
やる前には「これが正しい」と予測しますが、小さな親切だと思ったことが大きなお世話だったと判明する場合もあります。小さな子どもには無理だと思って手を出したら、「自分でやりたかった!」と怒られることだってあるでしょう。
このように、正しいやり方も間違ったやり方も結果論でしかなく、その結果もあとになって引っくり返る可能性があります。つまり、とても不安定なのです。
となれば残りは、“自分のやり方”しかありません。
結局、あなたも私も、人はみんな、自分のやり方しかしていないのです。「そんなことはない。会社のやり方にしぶしぶ従っているのだ」とおっしゃる人も、「会社のやり方に従う」が自分のやり方なのです。その意味で、人はみんな自分勝手です。
■「これが最初で最後かもしれない」と考えてみる
一期一会は、もともと茶道の世界で使われる言葉。亭主と客が過ごす茶席の時間を一生に一度のことと思って大切にするという意味です。
一度出会った二人が次に出会っても、前回別れてから時間が経過し、それぞれ経験を積んでいるので、考え方も言動も変化します。その中で、毎回を一期一会の出会いと感じれば、その時間がいとおしく、かけがえのないものになります。
仕事に追われ、家族と過ごせない人に「もっと丁寧に生きたい」と言われたことがありました。その方法を考えた結果、“いとおしさ”と“かけがえのなさ”を感じないと丁寧に生きられないという、一期一会の精神と同じ結論にたどり着きました。
「最初だと思えば謙虚になる。最後だと思えば丁寧になる」という言葉があります。最初と最後を一緒にして、「これが最初で最後かもしれない」と思えば一期一会の精神に適い、謙虚で丁寧な生き方ができるでしょう。
静かな茶席でもなければ一期一会を思うのは難しいでしょうが、丁寧に生きるために、いとおしさやかけがえのなさに気づく回数を、少しずつ増やしたいものですね。
■あなたは「裏切られる覚悟」を持っているか
「親友だから誰にも言わないだろうと思って話したのに、それを別の人に言っていたのを知って裏切られた気がして、とてもショックだった」と訴える女性がいました。
写真=iStock.com/MangoStar_Studio
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私は「『親友は打ち明け話を他言してはいけない』。それがあなたの親友の定義なら、その人は親友ではなかったのです。裏切られたことより、勝手に親友だと思い込んでいた自分の人を見る目のなさにショックを受けたほうがいいかもしれません」と少し突き放した言い方をしました。
彼女は「でも、人って裏切ってはいけないでしょ」と食い下がります。人は信頼関係で成り立っているのだから裏切ってはいけないと、真っすぐに信じている彼女はとてもいい人です。友達にするならこういう人がいいと思います。私もかつては彼女のように信じていました。
しかし、人は裏切ります。それも意外と簡単に。相手には裏切った意識がないこともあれば、仕方なく裏切る場合もあります。相手の事情が変化したのですから仕方ありません。信頼に応えるのは大切ですが、人は裏切る——私はそう覚悟しています。
■多くの人と“いい関係”を築くたった1つの方法
多くの人から好かれれば気持ちが良く、助けてくれる人も多くなり、生きやすくなります。人に好かれるには、相手の言動に共感し、寄り添うことが必要ですが、これをすべての人に行うのは不可能です。
やろうとすれば、相手によって自分の立場を変えることになり、信用を失います。
それでも多くの人といい関係を作りたければ、できることは1つ。あなたがみんなを好きになることでしょう。これなら、自分の努力で可能です。
好きになるには、相手との共通項に気づくのが最初のステップです。「あの人も私と同じように、人間関係で悩むことがあるだろう」「今日という日に、同じ国で生きている」などの気づきです。
こうした気づきから発生する「共感」の感情は、相手を受け入れる心を育んでいきます。そしてその心が、自分を生きやすい流れに乗せてくれます。
あなたが知っている人の中で、最も多いのは好きでも嫌いでもない人でしょう。同様に、多くの人にとってあなたはどうでもいい人です。「好き」「嫌い」でいちいち右往左往しないでいきましょう。
■まずは、自分の「土俵」をしっかり作るところから
私たちは、相手も自分と同じ考え方をしているだろう、あるいは、同じであるべきと、つい思ってしまいます。そのために、考え方の違いがはっきりすると相手の主張に眉をひそめたり、ムッとしたりします。
上司と部下、経営者と従業員、先生と生徒など、それぞれの立場によって、何に重きを置くかは異なります。これは1つの組織内のことだけではありません。
名取芳彦『達観するヒント もっと「気楽にかまえる」92のコツ』(三笠書房)
ある証券会社の社員は「退職しても株の売買はつづけるでしょうね。面白いんですよ」と私に言ったことがあります。しかし、私は面白い人生よりも、おだやかな心で生きる人生を望んでいます。
自分と異なる考え方の人に出会ったとき、私は「この人は私と違う土俵に立っている」と考えることで、心を乱さずにすんでいます。関取がカーリング選手に「この土俵で相撲しよう」と誘っても無理です。
相手は自分の得意なフィールド(領域)で勝負しようとしているのですから、ノコノコと上がれば負けるのは火を見るより明らかです。まずは、自分がしっかり立てる土俵を作っておきたいものです。
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名取 芳彦(なとり・ほうげん)
元結不動密蔵院住職
1958年、東京都江戸川区小岩生まれ。密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所所長。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。密蔵院写仏講座・ご詠歌指導など、積極的な布教活動を行っている。主な著書に、『気にしない練習』『人生がすっきりわかるご縁の法則』『ためない練習』『般若心経、心の「大そうじ」』(以上、三笠書房《知的生きかた文庫》)などベストセラー、ロングセラーが多数ある。
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(元結不動密蔵院住職 名取 芳彦)