ユニクロの塚越大介氏は44歳で社長に 柳井正氏の「人間25歳ピーク説」と修羅場を積ませる抜擢人事の仕組みとは?

2025年3月14日(金)4時0分 JBpress

 時価総額約15兆円、企業価値創出力No.1と、名実ともに国内企業のトップランナーに成長したユニクロ。その強力な経営スタイルは、創業者・柳井正氏のカリスマ性によるところが大きいと思われがちだが、実際にはそうしたトップダウンとは真逆のところにこそ、ユニクロが持つ最大の強みがある。本連載では『ユニクロの仕組み化』(宇佐美潤祐著/SBクリエイティブ)から、内容の一部を抜粋・再編集。ユニクロを展開するファーストリテイリングの元執行役員である著者が、「仕組み化が9割」という同社の経営戦略をひもといていく。

 今回は、「大きい服を着せる」という言葉で表現される、ユニクロの人事登用制度に注目。新卒から役員まで、あえて身の丈に合わないチャレンジを課す同社の狙いを探る。

 

■ 若手を抜擢する

 ユニクロには、人事評価制度以外にもイノベーションを促す仕組みがいくつかあります。

 そのひとつが若手の抜擢です。

 ユニクロは「若い」会社です。

 事業会社ユニクロの社長の塚越大介さんは、就任が44歳でした。皆さんびっくりしているかもしれませんが、30代で執行役員に就く人も少なくありませんし、昔は20代後半で役員になる人もいました。

 柳井さんは、「人間25歳ピーク説」を唱えていました。「人は25歳になれば、どんなことに挑戦しても成果を出せる肉体的・精神的能力を備えている」という考えです。この思いはかなり強く、私は2012年に入社した段階で「2020年の成長ビジョン実現のために育成すべき200人の経営者(執行役員以上)のうち、少なくとも3割は20代後半から30代の若手」と目標を課されました。

 実際、欧米のグローバル企業の多くは40代半ばまでに最高経営責任者(CEO)に選ばれていて(たとえばGE〈ゼネラルエレクトリック〉のジャック・ウェルチ氏やジェフリー・イメルト氏は、45歳でCEOに就任)、20年スパンで経営に長期コミットすることが企業価値向上には有効という考え方もあります。

 そこから逆算して、20代後半から30代前半で抜擢して、事業責任者としての経験を積ませながら、経営のプロに育成する仕組みが確立されています。一方、日本の多くの大企業では50代、60代になってようやく社長に就任し、2期4年や6年の任期を務めるのが一般的です。

 イノベーションには常識に囚われないアウト・オブ・ボックスの視点が不可欠です。50代、60代では過去の経験にとらわれ過ぎて、大胆な一手を打ちにくくなりかねません。ですから、柳井さんは、修羅場経験をとにかく早く積ませて、早く抜擢して、若者に活躍してもらいたいとずっと言っています。

 役員の登用と聞くと、一部の人だけの話なのではと感じるかもしれませんが、ユニクロは役員に限らず、他の会社に比べて総じて若手を抜擢する土壌があります。

 最もわかりやすいのが店長です。ユニクロは大卒の入社が4月1日ではなく3月1日に設定されています。

 春休みが1カ月間短くなります。友人が学生生活最後に遊んでいる間に、店長候補として店に配属されて、新卒入社の中で最速の人では半年で店長になります。大学の同級生が研修を終え、配属されて仕事に少しずつ慣れてきたころに、管理する立場になっている可能性があるわけです。

 新卒社員は小さい店に配属されますが、それでも部下は20〜30人います。ほとんど全員年上です。そうした現場で店長としてマネジメントする場が与えられます。最速で半年、遅くて2年半で店長になります。20代半ばで誰でも20〜30人の部下を持つわけです。

 普通の会社でしたら、2年目、3年目は企業の戦力としては仕事をようやく覚えた駆け出しの位置づけです。

 一方、ユニクロでは、自分より年上の人が大半の店舗スタッフの組織をマネジメントして、販売計画も立てて、利益も出さなければいけません。

 普通の会社で20〜30人をマネジメントするとなると、部長クラスでもおかしくありません。ほかの会社では20、30年経って担うことを2、3年で担うわけですから、当然、成長の速度も変わります。

 新卒の店長登用はわかりやすい例ですが、前述したようにユニクロには「大きい服を着せる」という言葉があります。その人の今の能力よりもかなり大きなチャレンジを与えることです。

 身の丈よりも大きい課題ですので、与えられた人は必死になります。脳みそから血が出るほど考え抜いて、実行しても壁にぶち当たって、もがき苦しみます。その過程で一皮むけて、飛躍的な成長につながります。

「大きい服」のポイントは、ストレッチを求められるチャレンジであったり、修羅場経験だったりすることです。

 ちょっと頑張ってできる程度の「服」はあまり意味がないので、普通の企業では考えられない「服」を着せられます。

 たとえば、前述したように営業センスはすごいのですが、国内だけで育ってきて英語も全くできない日本人をロシア事業の最高執行責任者(COO)に就かせたことがあります。当然、ロシア語もできません。

 本人は泣きながら赴任しましたが、ロシア事業(現在はウクライナ問題もあり撤退済みです)の基盤づくりにすごく貢献してくれました。

 中国人のリーダーをインドの生産事務所に赴任させたこともありました。また、私の部下は銀行やコンサルに勤めた後にユニクロに中途入社し、採用や人材育成に携わっていたのですが、いきなりサプライチェーンの担当役員を任されました。本人も信じられないという顔をしていましたが、これまでにない発想で自動倉庫など、サプライチェーンの変革をリードしました。

 みんな、辞令が出たときはがっかりしたり、信じられないという顔をしたりするのですが、意外に「大きい服」を着こなします。能力の問題もあるのかもしれませんが、環境に適応して何とかやり遂げてしまうのです。

 もちろん、みんなが成功するわけではありません。言葉は悪いですが、うまくいった人事は結果論という側面は否定できません。やってみないとわからない部分はあります。

 無謀なチャレンジを課しても、失敗したところでユニクロ人生が終わるわけでもないのが、ユニクロの「仕組み」です。仮にそのチャレンジに失敗しても、ユニクロには「敗者復活」の仕組みがあるのです。若手抜擢や「大きな服」を着せるのに組織としてためらいがないのも、敗者復活でそのリスクを担保しているからともいえます。

<連載ラインアップ>
■第1回経営理念を神棚に祀らない ユニクロの理念を実践につなげ生産性を高める「全員経営」の原理原則とは?
■第2回 柳井正氏の後継者をどう育てる?ユニクロが取り組む「FGLイニシアティブ」「MIRAIプロジェクト」の相当ハードな内容とは
■第3回「大ぼら吹きになってください」ユニクロで柳井正氏が創業当初から意識する変革の原動力「3倍の法則」とは?
■第4回ユニクロで上司に差し戻される目標に決定的に欠けている要素とは? MBO×コンピテンシー評価でつくる独自制度
■第5回 ユニクロの塚越大介氏は44歳で社長に 柳井正氏の「人間25歳ピーク説」と修羅場を積ませる抜擢人事の仕組みとは?(本稿)
■第6回 柳井正氏のゴルフ帰りの気付きも共有 ユニクロ役員が勢ぞろい、月曜朝8時に始まる「週次PDCA」は何がすごいのか?

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筆者:宇佐美 潤祐

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