「部下の失敗」に三流は怒りをぶつけ、二流は冷静に再発防止を求める…そのとき一流が選ぶキラーフレーズ【2023下半期BEST5】

2024年3月24日(日)12時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

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2023年下半期(7月〜12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。仕事術部門の第4位は——。(初公開日:2023年10月28日)
「部下の失敗」に対して、どんな声をかけるのが正解なのか。話し方講師で心理カウンセラーの桐生稔さんは「怒りをぶつけるのは論外だが、『次回の対策は?』などと聞くのもよくない。私が勧めたいのは『本当はどうしたかった?』と問いかけることだ」という——。(第3回)

※本稿は、桐生稔『質問の一流、二流、三流』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/takasuu
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■失敗してやる気がなくなったときにどうすべきか


【相手が失敗したとき】
三流は、「なんでそんなことをしたんだ!」と怒鳴り、
二流は、「次回の対策は?」と質問し、
一流は、どんな質問をする?

人がやる気をなくすのは、どんなときでしょうか?


それは、失敗したときや、うまくいかなかったときではないでしょうか。何もかもうまくいっているときは、やる気のことなんて考えません。スピーチをしたら大絶賛され、商談したら契約が取れて、好きな子に告白したらOKがもらえる。そんな絶好調のときに人は落ち込みません。問題は、失敗したときです。


失敗は、人間にとっては生命を脅かす危機だからです。そんな大げさな……と思われるかもしれませんが、そうでもありません。人類が誕生して約500万年。この歴史の中で、猛獣に襲われるか、飢えと闘うか、暑さ寒さに耐えるか、そんな過酷な環境下で、人類は生命を維持してきました。一歩間違えれば死が待っている生活が長かったのです。


失敗を続けていたら子孫は残せません。だから人間は、積極的に失敗を回避しようとします。いちいちやる気なんて出されたらたまったものではありません。脳の仕組みからすると仕方がないのです。ただ、現代において、何か失敗したからといって生命が脅かされるようなことは、ほぼないですよね。だからこそ、失敗しても前を向けるようにサポートしてあげれば、相手のやる気を取り戻すことができます。


■「次回の対策は?」は効果的ではない


たとえば、部下がお客様を怒らせてしまったら。「なんでそんなことしたんだ!」と怒鳴ったら、ただでさえ失敗に恐怖を感じているのに、部下はますますやる気をなくします。では、「次回の対策は?」と再発防止に目を向けるのはどうでしょうか。


それも必要ではありますが、前述した通り、人間には、失敗に対して生命の危機を感じるようなDNAが組み込まれているので、失敗したときはとにかく目線が下がっています。ですから、失敗した人には、まずは目線を上げてもらう必要があります。目線を上げるとは、あるべき姿を思い出すことです。そのための質問が、「本当はどうしたかった?」です。


そもそも失敗したということは、本来手にしたかった未来があるということです。たとえば、子供が友達と喧嘩したとしましょう。話を聞いた上で、こう質問します。


【親】「本当はどうしたかったの?」
【子供】「本当は仲良くしたかった」
【親】「そう。じゃ、一緒にあやまりに行こうか」

下を向いていた子も、ここで初めて顔を上げることになるでしょう。目線が上がるとはこういうことです。やる気とは、文字通り「やろうとする気持ち」です。ならば、本来やろうとしたことを思い出すことが先決です。


失敗したとき、見通しを暗くしているのは失敗した本人です。自分で自分を苦しめています。なかなか一人でやる気を取り戻すのは難しいです。そんなとき、本来手にしたかった原風景を思い出させてくれる人がいたら、どれだけ心強いか。失敗しても心のコンディションが整い、活動するエネルギーも湧いてきます。やる気を巧みに引き出す質問をするのも、一流のスゴ技です。


一流は、「本当はどうしたかった?」と質問する
⇒あるべき姿を想起させることでやる気を取り戻す

■「なんで?」と詰めることは否定と同じ


【相手を叱るとき】
三流は、相手を否定し、
二流は、否定してから質問し、
一流は、どんな質問をする?

私が初めて部下を持ったとき、部下の叱り方で、上司に呆れられたことがありました。


ある本に、「部下は叱ってはいけない」と書いてあったので、私はその教えを守り、叱らずに「なんで?」「なんで?」と質問をしていました。時には、「だからなんでそうなるの?」と激しく質問したこともあります。


上司から言われました。「おまえ、それ叱っているのと一緒だぞ」と。「たしかにそうだ」と思いました。部下からしたら、「なんで?」「なんで?」と詰め寄られれば、「なんでそんなこともできないの」と否定されているのと一緒です。それから私は、「心理的な安全性」について積極的に学ぶようになりました。「叱る」とは、相手の非をとがめて厳しく注意することです。


これは相手にとっては非常に避けたいこと。攻撃されると感じるからです。


写真=iStock.com/78image
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/78image

■質問に肯定を重ねていく


避けたいことを受け入れてもらうには、心理的な安全性を確保する必要があります。具体的にいえば、「攻撃するつもりはありませんよ」と伝え、相手の警戒心を解くことです。警戒心を解く方法はいたってシンプルです。人は否定されると心を閉ざすなら、その逆をやればいい。そう、「肯定する」です。


誰かを叱るときをイメージしてみましょう。「佐藤君はよく提出物が遅れるから気をつけなさい」これは、否定です。相手の心はいきなり閉ざされます。心が閉ざされている状態では、あなたの伝えたいことは相手の心の中に入っていきません。では、「肯定する質問」とは?


「佐藤君は約束を破る人じゃないでしょ」(肯定)+「今回はどうして提出物が遅れたの?」(質問)

さらに、


「佐藤君は普段しっかりしているからさ」(肯定)+「何かあったんじゃない?」(質問)

などと重ねていきます。


■相手の警戒心を解けば自然と本音が出てくる


「田中さんは普段、いろんな意見を話してくれるじゃん」(肯定)+「でも会議だと発言の数が減る気がするんだけど、どうだろう?」(質問)
「田中さんのことだから何か考えは持っていると思うんだ」(肯定)+「会議では言いにくい環境だったりする?」(質問)

肯定+質問で伝えると、相手の警戒心が解かれ、「実は会議みたいに大勢の人がいるところで発言するのが苦手で……」などと、本音を吐露してくれるかもしれません。叱るときは、まずは肯定することで心理的な安全性を確保する。これを知ってから、私のマネジメント力は大きく飛躍し、最初は5人くらいのチームから、最終的には300人ものメンバーを統率するまでに至りました。


「叱らせるようなことをする本人も悪い」。そう言う人もいます。ただ、誰かを叱るとき、怒りに任せて口走るのは、開いていない扉をハンマーで壊すようなもので、相手はズタズタになります。そしてあなたの手もボロボロになります。相手の心の扉を閉ざすのが否定。開くのが肯定。肯定が、あなたの言葉に潤いを与え、相手と心を通じ合わせる潤滑油になるはずです。


一流は、肯定してから質問する
⇒心理的な安全性を与え、相手の警戒心を解く
写真=iStock.com/PlatooStudio
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■事前に警戒させることで心を開く方法もある


【耳の痛い話をする】
三流は、嫌われたくないから言えず、
二流は、ストレートに伝え、
一流は、どう伝える?

前項の「叱る」も今回の「耳の痛い話」も、同じようなテーマですが、耳の痛い話となると、さらに相手にとっては聞くのが辛いイメージがあります。先ほどは、「心を開くとは、警戒心を解くこと」と解説しました。逆に、警戒してもらうことで、心を開く方法もあります。それが「許認可」というやり方です。


事前に相手から許可を取ることです。いきなり耳の痛い話をして相手に受け入れてもらえるのは、関係性ができている場合だけです。突然耳の痛い話をするのは、ギャンブルに近い行いです。だからこそ、事前に警戒してもらう「許認可」という方法が効いてきます。こういう質問を差し込みます。


「今から耳の痛い話をするけどいい?」
「一つだけ厳しい話をしたいんだけどいいかな?」
「少し酷かもしれないけど正直に伝えてもいい?」

先に言っておく。筋を通しておくイメージですね。質問というより、宣言に近いです。相手は「嫌です」とは言いにくいですからね。でもこれが本当に大事。なぜなら、相手の心構えができるからです。


■許可を取ることで相手が受け入れる態勢を作る


私は、趣味でキックボクシングをやっていますが、不意にパンチをくらうと素人のパンチでも頭がクラクラします。逆に、ちゃんと構えていれば強烈なパンチをもらってもそれほど効きません。準備ができているからです。理屈はこれと同じです。信じられないかもしれませんが、許可を取らずに言うのと、たとえ形式的にでも許可を取ってから言うのでは、相手の印象は全然違います。


「怒らないで聞いてもらえる?」
「失礼を承知で一つ伝えてもいい?」
「気乗りしないかもしれないけど一ついい?」

桐生稔『質問の一流、二流、三流』(明日香出版社)

こう質問されて、「言わないでください」という人はほぼいないでしょう。相手も気になるからです。しかも、この質問によって、一瞬構える間ができます。この間が相手の準備タイムをつくります。「ひとりごとだと思って聞いてもらっていい?」というものもあります。ひとりごとなわけないのですが(笑)、これも相手に構えてもらうアプローチです。


言いたくないけど、言わなきゃいけないときもあります。相手を傷つけたくないからこそ、即座に相手の気持ちを考える。そして気遣いをした上で、伝えるべきことを伝える。自分の出世のために怒る上司と、部下のために怒る上司とでは、この気遣いが圧倒的に違います。部下から同じように慕われるわけがありませんよね。相手が嫌がる話ほど、事前の質問が功を奏してくるのです。


一流は、許可をもらう質問をする
⇒構えてもらうことで相手の受け入れ態勢を整える

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桐生 稔(きりゅう・みのる)
モチベーション&コミュニケーション代表取締役
1978年生まれ。新潟県出身。2017年、「伝わる話し方」を教育する株式会社モチベーション&コミュニケーションを設立。日本能力開発推進協会メンタル心理カウンセラー、日本能力開発推進協会上級心理カウンセラー、一般社団法人日本声診断協会音声心理士。著書に『10秒でズバッと伝わる話し方』(扶桑社)、『雑談の一流、二流、三流』、『質問の一流、二流、三流』(ともに明日香出版社)がある。
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(モチベーション&コミュニケーション代表取締役 桐生 稔)

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