柳井正氏のゴルフ帰りの気付きも共有 ユニクロ役員が勢ぞろい、月曜朝8時に始まる「週次PDCA」は何がすごいのか?
2025年3月19日(水)4時0分 JBpress
時価総額約15兆円、企業価値創出力No.1と、名実ともに国内企業のトップランナーに成長したユニクロ。その強力な経営スタイルは、創業者・柳井正氏のカリスマ性によるところが大きいと思われがちだが、実際にはそうしたトップダウンとは真逆のところにこそ、ユニクロが持つ最大の強みがある。本連載では『ユニクロの仕組み化』(宇佐美潤祐著/SBクリエイティブ)から、内容の一部を抜粋・再編集。ユニクロを展開するファーストリテイリングの元執行役員である著者が、「仕組み化が9割」という同社の経営戦略をひもといていく。
今回は、ユニクロの圧倒的な成長を実現させている「週次PDCA」の取り組みを紹介。全社規模で徹底的に高速PDCAサイクルを回す同社の仕組みについて見ていく。
■ 現状維持をよしとしない
繰り返し述べている通り、ユニクロは現状維持をよしとしない「CHANGEOR DIE」の会社です。現状にとどまるくらいならば、失敗してもいいからチャレンジしろと推奨する風土があります。
チャレンジすることで場数を踏めば、失敗したとしても、結果的には成長につながります。これまでの延長でのわずかな増益よりは、大きな挑戦での失敗による学びの価値を重んじます。
挑戦し続けさえすれば誰でも成長できます。
とはいえ、自律的なチャレンジが難しいのは、これまで何度かお伝えしてきた通りです。「チャレンジしましょう」と言ったところで、チャレンジできる人は言われないでもしています。
重要なのは、言われるだけではなかなか踏み出せない人をチャレンジさせる「仕組み」です。組織として判断と実行を社員に迫る多くの「仕組み」をつくらなければいけません。
ユニクロで成長を促す象徴的な取り組みが「週次PDCA」です。どんなに遅くても週単位で、どのような部門や店舗でもPDCAサイクルを回しています。
PDCAとは計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のことです。目標が決まったら、目標までの道のりを逆算して「計画」を立てます。その計画を「実行」に移しながら、目標と現実のギャップを「評価」し、認識します。それを踏まえて「改善」の手を打ち、軌道修正を図ります。
これがPDCAサイクルです。このサイクルを繰り返し、ひたすら回し続けることが、経営においては非常に重要です。
みなさんの中には、もしかするとPDCAを厳密に意識しないで働いている人もいるかもしれません。目先の仕事がたくさんあるので、ひとつずつ、一生懸命片づけていく。それだけで充実した気持ちになり、達成感を覚えてしまう。そんな人も少なからずいるはずです。
では、PDCAを回さないと仕事はどうなるかというと、「成り行き任せ」「行き当たりばったり」になりがちです。ですから、PDCAを回さなければ、企業経営は遅かれ早かれ行き詰まります。
経営はいずれ成り立たなくなるのですが、多くの企業はPDCAを実行していなくても成り立っています。日々の業務は意外と成り行き任せ、行き当たりばったりでも回ってしまうからです。
ただ、それでは未来はありません。
PDCAサイクルをしっかり回すには「いつまでに1周させるか」と、あらかじめ周期を決めておく必要があります。たとえば、会社の中期経営計画に沿って3年、5年といった中長期的な周期では必ず必要になります。あるいは、決算期に合わせて1年、さらにそれらをブレイクダウンして、6カ月(半期)、3カ月(四半期)でもいいかもしれません。
ユニクロはこれを週次で回しています。もちろん、月次、週次で回している会社はほかにもありますので、この周期自体は特筆すべきものではありません。ユニクロがすごいのは、全社レベルで週次でPDCAサイクルを回している点です。毎週、徹底的な評価(チェック)とそれに基づくアクションの決定が行われます。
前週の課題を吸い上げて、対策を協議し、その日のうちに議事録が全社員に共有されます。
ユニクロでは重要な事項は月曜日に決まります。まず、8時から全役員が参加する会議が開かれます。
これは企業として重要なトピックを議論したり、共有したりします。
その後、9時から10時まで部長会議が開かれます。ここで週次のPDCAサイクルを回しています。
A4サイズのホチキス留めの分厚い資料が配られ、そこに前週の売り上げの結果が記載されています。商品カテゴリーごと、店舗ごとに対前年度比の実績や年度計画に対する進捗率が記載されています。
未達の場合はハイライトされています。
細かくそれを一項目ずつ読んでいる時間はないので、そのデータとは別に、商品担当の役員や営業の担当役員が前週の結果とそこから見えてきた課題、やるべきことをまとめた資料で議論は進みます。
そうした定量データとは別に、柳井さんの定性データも共有されます。柳井正さんはゴルフに行った帰りなどにフラッと店舗を見て回っています。そこで柳井さんが気づいたことなどが共有されます。
経営トップ自ら定期的に現場を見ているのは、PDCAを回す上でも非常に意味があります。それらをもとに議論しながら、必要に応じて細かい数字の資料を参照します。
その上で、前週の結果をレビューしつつ、今週はどのように軌道修正するかをその場で即断、即決します。
10時に会議が終わると、即実行に移すわけです。
部長会議には、営業や商品に関係ない役員や部長も全て参加します。教育や人事の担当役員だった私も参加しましたし、広報など直接的には営業に関係ない部門でも、本社に勤務している部長職以上の全員がここでの情報を共有します。私が在籍していた当時は70人くらいの規模でした。
もちろん、柳井さんも出席します。長年、戦略コンサルタントとして多くの企業を見てきましたが、幹部が勢ぞろいで週次で全社規模のPDCAをしっかり回しているのは見聞きしたことがありません。このスピードで回しているので、当然、現場も非常に機動的に動けます。
会議での柳井さんの問題意識は非常にシンプルでした。シーズンに先駆けて、先行的に品出しをして、お客さまの需要も刺激しながら、需要を取り込み、次のシーズンに移る。
アパレル業界のみならず小売業の鉄則です。理屈の上では、対前年度の売り上げや計画に対する進捗が、週次でリアルタイムにわかるので、それを見ていれば機会損失は防げます。
たとえば、季節性の商品の動きが遅くて、このままだと確実に在庫がさばけないと感じたら、早めにセール品にすればいいわけです。
ただ、言うは易しで、これを実践するのはなかなか簡単ではありません。需要の後追いになって、品出しが遅れ、在庫をさばき切ないことはありがちです。
だから、そうした事態を避けるために数字をしっかりと見る「仕組み」を使ってチェックをしなければいけません。
<連載ラインアップ>
■第1回経営理念を神棚に祀らない ユニクロの理念を実践につなげ生産性を高める「全員経営」の原理原則とは?
■第2回 柳井正氏の後継者をどう育てる?ユニクロが取り組む「FGLイニシアティブ」「MIRAIプロジェクト」の相当ハードな内容とは
■第3回「大ぼら吹きになってください」ユニクロで柳井正氏が創業当初から意識する変革の原動力「3倍の法則」とは?
■第4回ユニクロで上司に差し戻される目標に決定的に欠けている要素とは? MBO×コンピテンシー評価でつくる独自制度
■第5回 ユニクロの塚越大介氏は44歳で社長に 柳井正氏の「人間25歳ピーク説」と修羅場を積ませる抜擢人事の仕組みとは?
■第6回 柳井正氏のゴルフ帰りの気付きも共有 ユニクロ役員が勢ぞろい、月曜朝8時に始まる「週次PDCA」は何がすごいのか?(本稿)
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筆者:宇佐美 潤祐