「人望のある上司」と「人望のない上司」を分ける、たった一つの「特徴」とは?

2024年3月30日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

「人望のある上司」と「人望のない上司」を分ける、たった一つの「特徴」とは?

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多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。

写真はイメージです Photo: Adobe Stock

質の高い「傾聴」によって、「気づき」がもたらされる

 近年、多くの職場で「1on1」が行われるようになったこともあって、「傾聴」の重要性が認識されるようになりました。

「1on1」は上司が何かを伝達する場ではなく、部下の話を「傾聴」することで、部下に「深い気づき」がもたらされることを期待しているのだと、私は認識しています。

 たとえば、育成中の後輩がなかなかやる気になってくれないことにイライラしている部下の話を「傾聴」することによって、部下が自ら「自分がイライラしている感情の奥には、自分の働きかけに後輩が応えてくれないことに対する悲しさがあるのかもしれない」とか、「自分がその後輩のことを期待しているからこそ、悲しいのかもしれない」といった、「自己洞察=気づき」に至るのはよくあることです。その結果、部下が自らの意思で、後輩に対する接し方を変えたりすることがあるわけです。

 このような「傾聴」「1on1」ができるようになったら、周りの人たちは「あの人と話がしたい」と思ってくれるようになるはずです。その人と話をしていると、「あ、そうか!」という気づきが訪れるのだから、そのように思われるのは当然のことですよね? そして、人望のある上司として認められるようになっていくわけです。

知らないうちに、部下の「人望」を失う上司の秘密

 逆に、「1on1」などの機会に、頼まれてもないのに「アドバイス」「助言」をしてしまう上司は、高い確率で部下からは距離を置かれるはずです。

 怖いのは、これ以上、頼んでもいない(役にも立たない)「アドバイス」を聞かされるのを避けるために、「わかりました。ありがとうございます」などと部下が受け答えしてしまうことです。その結果、上司は「よし、いい1on1ができた」などと大いなる勘違いをする恐れがあるからです。だけど、実際には、部下からはどんどん距離を置かれ、人望のない上司としての地位を確立してしまいかねないわけです。

コミュニケーションの5段階

 もちろん、部下が自然と「気づき」に至るような「傾聴」をするのは、決して簡単なことではありません。だけど、そのような「質の高い傾聴」を行うために、上司(聞き手)が強く意識しておくべきことがあります。

 それについて考えるうえで重要なのが、心理療法の研究者が開発した「EXPスケール」です。下図は、それを日本人研究者が簡略化した「日本語版EXPスケール」をもとにつくったイメージ図です(池見陽、『傾聴・心理臨床学アップデートとフォーカシング 感じる・話す・聴くの基本』、ナカニシヤ出版、2016、P67)。ご覧のとおり、クライエント(話し手)の語る内容によって、カウンセリングによる気づきの効果が異なり、段階の数字が大きくなるほど、より気づきが深くなることを示しています。

 ご覧のとおり、浅いコミュニケーションである「段階1」から、深いコミュニケーションである「段階5」までの特徴を見ると、効果的な傾聴を実現するためには、「できごと」や「思考」ではなく、「感情」を語ってもらうことが重要なことがわかります。

「できごと」ではなく、「感情」を聴く

 当然ですよね? たとえば、「昨日は休日だったので映画に行きました。映画館は大変混んでいてほぼ満席でした」といった、「心理」「感情」と関係のない、単なる「できごと」を話しているだけでは(段階1)、「深いコミュニケーション」とは言えませんし、そこに「自己洞察=気づき」が生じるなどということもありえないでしょう。

 一方、同じ「映画」が話題であっても、たとえば「どんな映画が好きなの?」といった「感情」「気持ち」に関する問いかけをすると、話し手は「そうですね…あんまり流行りの映画って見に行かないですかね」などという話をしながら、「そうか! 僕はみんなと違うことが大切なのかもしれません。そう! 人と同じことが大嫌いなんです。……あー、これって父親とそっくりだ……子どもの頃、父親に映画に連れて行ってもらったけど、アニメとかじゃなくて難解な芸術作品みたいなものばっかりでしたよ!」などと、「ひらめき」を得たような「気づき」が訪れる可能性がありますよね?(段階5)

 この研究から、効果的な傾聴を実現するためには、話し手に「できごと」や「思考」ではなく、「感情」を語ってもらうことが重要であることがわかります。 ということは、裏を返せば、聴き手はそれを促進しなければならないということ。つまり、聴き手は「できごと」「思考」ではなく「感情」へ焦点をあて、話し手が「感情」を語ることを促す必要があるのです。これこそが、「人望のある上司」と「人望のない上司」をわける、きわめて重要なポイントだと言えるのです。

「感情」に敏感になることが重要

 そのために第一に必要なことは、聴き手が「感情」に敏感になることです。「感情」に鈍感な人が、話し手に「感情」を語ることを促すことなどできません。しかし、研修講師である私から見た多くの会社員は感情に対して極めて鈍感です。日々の仕事で課題解決ばかり「思考」することに慣れ、「感情」への興味を失っているのかもしれません。あるいは、職場環境に適応するために、やむなく「感情」を押し殺しているのかもしれません。私は、これも「1on1」がうまくいかない、原因のひとつではないかと推測しています。

 では、どうすればいいのでしょうか? まずは、自分の「感情」に敏感になる練習を繰り返すことです。

 相手の「感情」を感じ取るためには、まずは自分自身の「感情」を感じ取ることが不可欠。逆に、自分の「感情」をありありと感じることができれば、自然と相手の「感情」にも敏感になることができます。その結果、「できごと」に関する言葉のやりとりから、「感情」「気持ち」に迫っていくような対話へと発展させていくことができるようになるのです。

「感情」に敏感になる練習

 では、どんな練習をすればいいのか?

 私自身が、自分と相手の「感情」がわかるようになれたきっかけは、「気づきのレッスン」にあります。「気づきのレッスン」とは、二人一組になり、「今ここ」で気づいていることを三つに切り分けながら伝えるゲシュタルト療法の練習方法です。

 一つは「外部領域」。自分の皮膚の外側で起きている現実を、五感を使って感じることです。例えば、「車のエンジン音が聞こえていることに気づいています」「白い壁が見えていることに気づいています」などといった具合です。

 二つ目は「内部領域」。皮膚の内側で起きている体の感覚と感情に気づきます。「胃がキューッと緊張していることに気づいています」「肩が重く疲れていることに気づいています」などがそれです。

 三つ目は「中間領域=思考」です。「家に帰ったら資料を作らなくては、と考えていることに気づいています」などがそれにあたりますが、ここでのポイントは、「思考」と「感情」の切り分けをしっかりとすること。つまり、「家に帰ったら資料を作らなくては、と考えていることに気づいている」(思考)ことと、「『家に帰ったら資料を作らなくてはならない』(思考)ことに、『ウンザリしている』(感情)ことに気づいている」ことの違いを認識する必要があるということです。

「思う」という曖昧言葉を使わない

 そのために注意していただきたいのが、「思う」という曖昧言葉を使わないことです。というのは、「思う」という言葉は、「思考」と「感情」の両方を含んだ言葉であり、これが両者をごちゃ混ぜにする大きな要因だからです。

 このように、「考えている」(思考)のか、「感じている」(感情)のかを常に切り分ける癖をつけるように練習をするのです。これができるようになると、自然と相手の「感情」にも敏感になり、深い「傾聴」ができるようになり、相手の「自己洞察=気づき」を誘発できるようになっていくはずです。ぜひ、お試しください。

(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)

小倉 広(おぐら・ひろし)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。

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