収益性が高い村田製作所と効率性に優れたニデック、両社のROICツリーから見えてくる経営戦略の違いとは?
2025年3月26日(水)4時0分 JBpress
ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)に代わり、今や最も重要な経営指標の1つとされるROIC(投下資本利益率)。ツリー状に分解することで多角的に財務状況や収益性を分析できるため、多くの企業が採用している。『ROICツリーで読み解く経営戦略』(野瀬義明編著/中央経済社)から内容の一部を抜粋・再編集し、村田製作所とニデックのROIC向上策と戦略の違いを解説する。
損益を改善させた村田製作所
村田製作所とニデックのROICを図表3-4に示しています。両社はROICを経営指標としており、それぞれの2024年度の目標は村田製作所が20%以上、ニデックは15%以上です。
さて、このグラフから読み取れる情報はさまざまあると思いますが、今回は2つに注目して解説します。
第一は2011〜2012年度ころのROICの低迷です。2011年度の村田製作所は5.7%、2012年度のニデックは3.0%まで下落しています。両社に何があったのでしょうか。
第二はその後の推移です。村田製作所は、2022年度こそ前年度比で下落したものの、それまでの数年の傾向としては上向きでした。一方、ニデックの直近5年間は8.6%程度であり村田製作所を下回ります。両社の違いをもたらした要因を確認していきましょう。ここからは数字の背景を読み解くために当時報道されていた情報を照らしながらみていきます。
図表3-5に示す売上高営業利益率は、2012年度以降、村田製作所がニデックを上回っています。
さらに売上高原価率と売上高販管費率に分解すると両社の特徴が見えてきます。売上高原価率では、村田製作所がニデックより低く抑えることができています。村田製作所は60%強、ニデックは80%弱と20ポイント程度の差が生じています。
村田製作所は「材料から製品までの垂直統合型の一貫生産体制を特徴としており、材料技術、工程技術、生産技術、商品設計技術、分析・評価技術などに対して継続的に開発投資を行う」(村田製作所HPより)ことで、模倣困難な高付加価値製品を生み出すことを目指しています。
その戦略が売上高原価率に表れています。2012年度から2015年度の間は、スマートフォン向けの電子部品が好調で工場の稼働率が高まったことで、売上高原価率は低減しました。一方で、ニデックの売上高原価率は75%から80%ほどの横ばいで推移しています。決して同社が原価低減活動に消極的というわけではありませんが、主力製品がノートパソコンのHD用モータ、冷却ファン用モータ等次々と変遷する中、常に「構造改革」を迫られているためとみられます。
近年は急拡大中の自動車向けの電動アクスルビジネスで圧倒的な世界シェアを奪い、高い営業利益率を獲得するため「全取り戦略」に取り組んでいます。この戦略は永守会長の「多少無理でも全て受けろ」という号令に端を発しているとされ、採算よりも規模を重視する戦略のようです。
ですが、これも永守会長の緻密な計算の1つであり、電動アクスルという製品の第1世代の価格は、現時点で利益を取れる高値ではなく、将来的にここで落ち着くと想定される市場価格を付けたといいます。参照した日経の記事には勝利の方程式を解く鍵は圧倒的なスピードであると記載されています(2022/10/20付け日本産業新聞)。このためもあってかニデックの売上高原価率は微増傾向で推移しています(図表3-5)。
売上高販管費率は逆にニデックが優れています。2015年度以降、10%を下回って推移しているのがわかります。ニデックでは、1円以上のものを購入する際には稟議書を書く「1円稟議」が徹底されているようです(2020/11/20付け日本経済新聞電子版)。
また2015年からは従来のハードワーク主義から残業ゼロへと「働き方改革」にシフトしました。これにより従業員の生産性が向上したことも、規模が拡大する中で販管費率を抑えることができた要因でしょう。ただし、これら活動をもってしても売上原価を吸収するところまでは至らず、よって売上高営業利益率は村田製作所の方が高い数値となっています。
投下資本の高回転で踏みとどまるニデック
売上高営業利益率は、2012年度から11年間、村田製作所がニデックより上回っており、2022年度の差は13ポイント以上あります。しかしながら、同年ROICの差は9ポイント程度に縮まります。その理由は投下資本回転率の差にありました。ニデックの投下資本回転率は2010年度から一貫して村田製作所を上回っています(図表3-6)。
時系列トレンドを見ると、村田製作所の投下資本回転率は、2015年度をピークに悪化する傾向にあります。一方、ニデックは2021〜2022年度は改善傾向です。ニデックの何が村田製作所を上回ったのか、固定資産回転率と運転資本回転率に分解し検討します。
固定資産回転率は、2013年度以降さほど変わらないものの、概ねニデックの方が高い水準推移を示しています。ニデックの2022年度の固定資産回転率の上昇は同社のIR資料から約3200億円の増収効果の影響が主と判定できます。そのうち2700億円分は為替変動によるものとのことです。
2022年度の有価証券報告書では、「ニデックパーク」等の建設による固定資産の増加が記されていますが、固定資産の増加率を上回るペースで売上高は増加しています。加えて、明らかにニデックが優れているのは運転資本回転日数です。2022年度では村田製作所の163日に対しニデックは95日です。
ニデックで運転資本がさほど増加していない要因は、仕入債務回転日数が長いことにあります。2022年度、ニデックの仕入債務の回転日数は83日であり、売上債権の回収期間99日と相違ない水準です(図表3-7)。
一方で、村田製作所はこのビジネスでは異常といって良いほど仕入債務回転日数が短いです(17日)。支払条件を良くすることで取引全体の条件を改善させているのかもしれません。ただし棚卸資産回転日数も2022年度において110日超となり、前事業年度(80日超)よりも1月分ほど在庫を積み増しています。このため運転資本回転日数は2010年度以降では最も悪化している点に注意が必要です。
本章では京都に拠点を置く精密部品製造業2社を取り上げて分析しました。両社ともROICを数値目標として掲げその達成を目指しています。ただし、それぞれの現況とそこに至るプロセスは異なっていました。ROICは1つの指標ですが、ROICを高めるため方策は多種多様であることがわかる好例であったと考えています。最後に、ニデックと村田製作所の今回の分析期間における当時の概況を年表形式で示します(図表3-8)。
<連載ラインアップ>
■第1回収益性が高い村田製作所と効率性に優れたニデック、両社のROICツリーから見えてくる経営戦略の違いとは?(本稿)
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筆者:野瀬 義明