「頭のいい子が育つ家庭」では当たり前…普通の親は「コメの値段が高すぎる」と嘆く、では一流の親はどうする?
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■大学受験で「考える力」が求められている
昨今、選抜入試による大学進学が急速にメジャーになってきています。東京大学も学校推薦型選抜を導入しています。東北大学に至っては、2050年までに入試を「総合型選抜」に全面移行するとの方針を決めたと、TBSなどが報じています。
総合型選抜では、大抵の場合は志望理由書の提出が求められます。そして、多くの場合、志望理由書では社会課題についてどう考えているかという見解を述べることが問われます。「どう考えるか」への答えは、単にニュースを表層的に知るだけでは書くことが難しいものです。単に時事ネタを暗記するのではなく、「これってどういうことだろう?」「なんでこういうことが起きたんだろう?」と出来事の背景にも思考を巡らせ、問いを深掘りする必要があります。
周りの東大生に話を聞いてみると、日頃からあらゆることに疑問を持ち、「これってなんでだろう?」と思考を巡らせている人が多いです。その過程で思考力が鍛えられ、同時にさまざまな知識を蓄えている傾向が強いのです。この「考える力」を身につけるきっかけは何だったのか? 聞いてみると、幼少期の家庭での過ごし方について、ある共通点が浮かび上がりました。
それは、「日常生活の中で、家族と一緒に『考える機会』がたくさんあった」というのです。何も、特別な教育や難しい教材が与えられていたというわけではありません。普段の何気ない家族の時間こそが、親子の「思考力トレーニングの場」になっていたのです。
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■「値段が高いね」で話を終わらせない
一例として、ある東大生の話をご紹介しましょう。彼は小学生の頃、家族でよくキャンプに行っていたそうです。ある日、キャンプ場がある山梨県のガソリンスタンドで給油をすると、彼が住んでいた神奈川県のガソリンスタンドと比べ、値段が明らかに高いことに気がついたそうです。
車の中で、彼が「なんか、ガソリン高くない?」と何気なくつぶやいたら、運転席に戻ってきた父親が、「なんで高いんだろうね?」と返してきたといいます。
息子「最近、円安になってきたから?」
父「円安だと、日本全体で値段に影響しそうだよね。山梨と神奈川と差が出るかな?」
息子「じゃあ、山梨の方が、ガソリンの仕入れが大変だから?」
父「確かに、仕入れにコストがかかると商品の値段も上がるよね。ガソリンってどうやって仕入れるんだろうね?」
息子「日本では石油が採れないから、外国から輸入してる?」
父「そうそう。石油タンカーっていう船で運ばれて来るんだよね」
そうやって家族で話し合っているうちに、考えが掘り下げられていきました。最終的には、「ガソリンの原料となる石油は、タンカーで海沿いの地域に届けられて、ガソリンに精製される。山梨県では、それをパイプラインで内陸まで運ぶ必要があるから、輸送コストが上乗せされて値段が高くなっている」という結論まで辿り着いたそうです。
■「なぜ」を一緒に考える
ただ「ガソリン高いね」「そうだね」で会話が終わっていたら、きっと翌日にはもう忘れてしまっていたでしょう。しかし、そこで父親に「なんで高いんだろうね?」と問われたことで、彼は今でもその時のことを覚えているとのことです。
「そうか、物の値段にはちゃんと理由があるんだ」と、彼はその時思ったそうです。そして、それから身の回りのさまざまなものについて、「どうしてこの価格なんだろう?」「なんでこうなっているんだろう?」と考える癖がついたと話していました。
最近も物価の上昇や円安、経済政策など、ニュースで目にする話題については、大人でも「なんだか難しい」と感じることも多いと思います。しかし、ニュースは本来、我々の生活に根ざしたところに影響しているものでもあります。
子どもに「なぜ?」と聞かれたとき、どこまで一緒に考えられるでしょうか。もちろん、自分でもよくわかっていない経済や時事の話に踏み込んでしまう可能性はあります。「わからないよ」とすぐに話を終わらせるのは簡単です。ただこのガソリンを巡る会話は、そこで「なんでだろうね」と一緒に考える姿勢を見せると、「知りたい」という気持ちを育むことにつながるという好事例だと感じます。
一緒に「なぜ?」と考えて話を膨らませていくことが、興味関心や、自分で調べる力を育てることにつながるのだと思います。
■「考える力」は日常会話で養える
実はこのガソリンスタンドのエピソードには続きがあります。ガソリンの値段の話から、「ガソリンの価格には、ガソリンそのものの値段に加えて、いくつもの種類のガソリン税と、さらに消費税も上乗せされているんだよ」と税制度の話につながっていったそうです。
写真=iStock.com/bee32
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さらに、「石油が取れる地域は情勢的に不安だから、ガソリンの値段って変わりやすくて、商売をしている人は大変だね」「ガソリン本体の値段がもっと安いなら、あまりお金がない途上国でも先進国と同じくらい石油が使えるのかな?」と、問いが日本を飛び出して世界にまで視線が向けられたとのことです。
こういうことが、一度や二度ではなく、日々の家庭の会話として当たり前に行われていたそうです。
その東大生の彼は「ちょっとでも『なんだこれ?』と疑問を持ったら考える。考えたことが、他の話題とつながって、また新しい問いが生まれる。そうやって、身近な気づきから思考の枝を伸ばしていくのが、当たり前の感覚になりました」と、こうした経験の積み重ねが「考える力」を養ったのだと振り返っていました。
■ネット検索だけでは“上辺”しかわからない
一方で、「その場で検索すればいいじゃん」と思う方もいるでしょう。実際に中高生と話していてもすぐスマホで調べようとする生徒たちは多いです。しかし、ネットに溢れる情報のすべてが正しいとは限らず、SNSの怪しい知識をうのみにしている生徒も割と多く見られます。
誰でも簡単に調べられるのと同じくらい、誰でも簡単に発信できる時代ですから、真偽不明の情報や偏った見解、悪意のあるフェイクニュースがインターネットには数多く存在します。少数派の意見が、さも主流な意見であるかのように語られ、何がそのニュースにおいて重要なのかがわかりにくいことも多々あります。
それに、「ただ検索しただけ」では、表面的な情報しか得られません。例えば「円安とは何?」「1ドル何円?」といった情報は、スマホで簡単に調べることができます。一方で、「なぜ今、円安が進んでいるのか?」「このまま円安が続くとどうなるのか?」といった背景や今後の展望までは、検索結果をちょっと眺めたくらいではなかなか理解しにくいものです。
だからこそ、周りの大人たち側から問いかけ、ニュースの背景や因果関係、社会の仕組みについてちゃんと親子で一緒に考えてみるという姿勢は、今後何よりも重要になってくるとも考えています。
■スーパーの買い物も「学びの場」になる
この「なぜ?」を考える機会は、前述の東大生のエピソードのように日常生活の至るところに転がっています。先ほどとは別の東大生の例を挙げましょう。彼は中学生のころ、コロナ禍の時期に母親と近所のスーパーに行って、あることに気がついたそうです。
「いつもの食パン、もしかして値上げした?」
どうやら、以前は190円台で買えたはずの食パンに、200円以上の値がつけられていたようです。ほんの小さな気づきですが、彼の母親はこれを「気のせいじゃない?」などとスルーするのではなく、「ほんとだね。なんで食パンが値上げしてるのかな?」と問いを投げかけてきたそうです。
写真=iStock.com/xijian
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当時は、マスクやアルコール消毒液が品切れでした。悪質な転売が横行し、値段が上がっていることは中学生の彼にもわかっていました。ですが、なぜ食パンの値段まで上がっているのか?
「原料が値上がりしてるから?」
「パンの原料っていうと、小麦粉とバターだね」
「小麦粉ってほとんど輸入品だけど、今は輸入って難しいのかな……」
とか、
「食パン食べたい人が増えてるのかな?」
「外食できないぶん、おうちで食べる機会が増えてるのかもね」
と、会話をしながら、買い物ついでにいろいろな角度から質問されたそうです。そして、実際に小麦粉が値上がりしているのか見てみようと小麦粉が置いてあるコーナーに行ってみると、小麦粉やホットケーキミックスの棚が売り切れで空っぽになっていてとても驚いたそうです。
■日常のあらゆる場面で「なぜ」を深掘りしてみる
「ホットケーキミックス、大人気だね」
「そうね……10年前だったら、うちもホットケーキミックス買ってたかも」
「どうして?」
「だって、子供がずっと家にいるんでしょ? ホットケーキミックスがあったら楽しく過ごせるじゃない」
それを聞いて彼は、自分にはない視点を持ち合わせている母親に対して尊敬の念も抱いたのだそうです。社会で起きている出来事にはちゃんと理由があって、「なぜ?」と考えていくことで納得のいく説明に辿り着けるのだと、彼はそのとき実感したそうです。
西岡 壱誠、東大カルペ・ディエム『東大生が読み解く ニュースが1冊でわかる本 2025年版』(TAC出版)
このように、東大生の家庭ではお子さんが日常生活のあらゆる場面でちょっとした疑問を感じたとき、親が「なぜ?」と問いかけていたというエピソードが見られました。この繰り返しにより、「自分の考えを言葉にする力」や「論理的に説明するスキル」が自然と身につき、さらには「好奇心」や「考える力」もどんどん育まれていったのでしょう。その結果、勉強面でも大いに役立ち、東大にも合格できたのだと考えられます。
今は、単純な知識はネットで簡単に手に入る時代ですが、自分で問いを立て、頭で考える力はなかなかスマホをさわっているだけでは身につきません。しかし、特別なことをしなくても、親や周りの大人たちからの何気ないやりとりの中で、その力は育むことができます。
日常の「なぜ?」を一緒に考え、深掘りすることで身につけた「考える力」は、必ず役に立ちます。昨今は様々な要因で、コメや野菜、お菓子といった食品に限らず、いろんな値上げラッシュが続いています。
『東大生が読み解く ニュースが1冊でわかる本 2025年版』より
お子さんと「なぜ」を考える機会は日常に溢れています。まずは今晩のスーパーの買い物から、さっそく実践してみてはいかがでしょうか。ぜひ、参考にしてみてください。
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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。
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東大カルペ・ディエム
東大生集団
2020年6月、西岡壱誠が代表として株式会社カルペ・ディエムを設立。西岡を中心に、貧困家庭で週3日バイトしながら合格した東大生や地方公立高校で東大模試1位になった東大生など、多くの「逆転合格」をした現役東大生が集い、日々教育業界の革新のために活動している。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)の編集、TBSドラマ日曜劇場『ドラゴン桜』の監修などを務めるほか、東大生300人以上を調査し、多くの画期的な勉強法を創出した。そのほか「リアルドラゴン桜プロジェクト」と題した教育プログラムを中心に、全国20校以上でワークショップや講演会を実施。年間1000人以上の学生に勉強法を教えている。
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(現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠、東大生集団 東大カルペ・ディエム)