まるで「男の欲望」を体現したよう…トランプ大統領が「ブロンドヘアにセクシーメイクの女性閣僚」を重用する理由

2025年4月16日(水)18時15分 プレジデント社

2025年4月11日、ホワイトハウスで記者ブリーフィングを行うホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官。 - 写真提供=Pool/ABACA/共同通信イメージズ

■女性蔑視なのに、若い女性を起用する矛盾


トランプ政権の顔といえば、毎日の記者会見を仕切るホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官だ。史上最年少の27歳でZ世代の女性報道官は、ふんわりした金髪に明るい笑顔が特徴だが、トランプ大統領の政策や考えを伝える口調は鋭く、記者からの追及にも一切ブレない。


写真提供=Pool/ABACA/共同通信イメージズ
2025年4月11日、ホワイトハウスで記者ブリーフィングを行うホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官。 - 写真提供=Pool/ABACA/共同通信イメージズ

しかし、彼女を見るたびにモヤモヤした気持ちになるアメリカ人は実は少なくない。トランプ大統領は女性蔑視的な発言で知られており、性暴力の容疑者として起訴もされ、民事訴訟では敗訴している。そんなトランプ政権のトップ報道官になぜ若い女性を置いているのか? という矛盾を感じるのだ。


しかもレヴィット報道官は、政権が打ち出す多様性の廃止など、女性としての自分をも否定するかのような政策を代弁し、時には擁護する。それに違和感を覚える。


いったい彼女の、そしてトランプ大統領の真意はどこにあるのだろうか。


■実は若い白人女性の支持を集めるトランプ


2024年11月の大統領選では男女の支持傾向がはっきり分かれた。全年齢では男性の過半数がトランプ支持、女性の過半数はハリスを支持した。また40歳以下の若者の過半数はハリス支持だった。


しかし、例外は若い白人だ。18〜29歳の白人男性の63%以上がトランプを支持、女性も49%、つまりほぼ半数がトランプに投票したことがわかっている。つまりトランプ当選を後押ししたのは、こうした白人の若者だったのだ。


実際、選挙戦の間に取材した支持者集会では、男性に混じって若い女性の姿も目立った。これを4年前のデータと比べると、変化がはっきりわかる。2020年は白人の若者は男女ともに過半数がバイデン支持だった。それが今回は男女ともにトランプに寄ったことになる。


白人男性が極端にトランプ寄りになった理由に関しては、すでに多くが語られている。女性やLGBTQ、人種的マイノリティの権利が進む中、白人男性だけが取り残されているという危機感や、逆差別されているという反感に、トランプのレトリックが響いたと考えられている。


では女性はどうだろうか? そこには若い保守女性ならではの複雑な感情がひそんでいる。


■敬虔なキリスト教徒でもある


「トランプに政権が変わった今、以前に比べると希望が持てるようになった気がする」


そう語ったのは共和党支持の若い白人女性だ。彼女に出会ったのは若手共和党クラブのニューヨーク支部。TOKYO FMのニュース番組「TOKYO NEWSRADIO〜LIFE〜」の取材だった。この日はボランティアが30人ほど集まり、共和党が推す政治家のために選挙運動を行った。地域の共和党登録者に直接電話をかけて、支持を呼びかけるのが彼らの役目だ。


メンバーのほとんどは男性だったが、数人の白人女性も混ざっていた。彼女たちはそれぞれ自分が「保守」だと教えてくれたが、学校も職場もリベラルが圧倒的なニューヨークで、保守である自分を主張するのは簡単ではない。若手共和党クラブの最大の魅力の一つは、同じ価値観を共有する者同士、本音を言い合えることだろう。


あまり詳しい話は聞けなかったが、1人はロシア系でどうやら敬虔なキリスト教徒でもあるようだった。


アメリカで保守であることは、宗教と強く結びついている。例えばカトリック教徒や福音派の信者は、人工妊娠中絶に強く反対する立場なのはよく知られている。


トランプ大統領は第1次政権で中絶禁止を公約し、最高裁に保守判事を新たに3人送り込んだ。その結果、2022年には連邦規模での妊娠中絶の権利を覆すことに成功している。


■リベラルな話をする教授に「とても居心地が悪かった」


一方、第2次政権は、公立学校でのキリスト教教育の復活を全面に掲げることで、「西洋的なキリスト教文明の復権」を訴えている。


これは多様性廃止とも強く結びついている。多様性やリベラルな価値観を「アメリカの衰退」の原因と見なしているのだ。今激しさを増すトランスジェンダーへの攻撃や、不法移民の大量強制送還も、衰退を止めるための文化戦争の一環ということになる。


こうしたうねりをもたらす原動力の一つになったのは、リベラル化する社会に対する保守女性たちの違和感だったと言ってもいい。


若手共和党クラブで話を聞いた女性の1人はこんな不満を口にした。


「大学のある教授は常にリベラルな話ばかりしている。その上選挙の前には皆に対し“ハリスに投票すべきだ”と言い出して、とても居心地が悪かった」


近年、LGBTQやマイノリティの権利保護の動きが進む中で、大学キャンパスはアメリカで最もリベラルな場所となっていった。保守女性たちが他と違う意見を持つ自分たちの居場所がないように感じていたのは無理もない。


■「守られたくない」女たちのトランプ支持


リベラルが推し進めてきたDEI(多様性・公平性・包括性)の推進に関しても、白人女性は複雑な思いを抱えている。多様性推進は元々、女性やLGBTQ、人種的マイノリティや障害者が公平な機会を得るための方策だったが、実は最も恩恵を受けたのは白人女性である。ところが同時に、同胞であり家族や友達である白人男性が、不当に扱われているという感覚を持つ人も少なくない。


また、女性だからフェミニスト、というレッテルを貼られることへの反感もある。フェミニズムもDEIも「被害者意識から生まれている」とみなす保守女性が多く、自分はその枠に入りたくないという拒否反応が起こることもある。


彼女たちは「自力で成功できる」「性別や人種を理由に特別扱いされる必要はない」という自己責任の強さを理想としている。ただし彼女たちは同じ女性でも「白人」であったために、他のマイノリティ女性よりも社会に優遇されてきたから、自力で成功できたとも言える。しかしこうした「特権の決めつけ」も彼女たちの反感につながる。


確かにトランプには女性蔑視的な言動が目立つ。しかし、リベラル批判やキリスト教的・保守的な価値観を守ることのほうが、彼女たちにとってはずっと重要だったのである。


■TikTokでバズっている「MAGAビューティ」とは?


こうした保守的な女性のあり方は今トレンドにさえなっている。それが「MAGAビューティ」「MAGAセクシー」と呼ばれるものだ。


MAGA(マガ)はトランプ大統領のスローガン「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国に)」の頭文字をとったものだ。


MAGAビューティはそのままキャロライン・レヴィット報道官のスタイルと言っていいだろう。明るいブロンドヘアに80年代風のハッキリとしたアイメーク、特に眉毛が濃いのが印象的だ。こうしたメークスタイルは「共和党メーク」とも呼ばれる。


写真=iStock.com/CoffeeAndMilk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CoffeeAndMilk

レヴィット報道官の下に2人の女性報道官がいるが、やはり金髪の若い白人だ。またブロンドのパム・ボンディ司法長官、ブルネットではあるがクリスティ・ノーム国土安全保障長官もよく「MAGAビューティ」の例に出される。


クリスティー・ノーム国土安全保障長官公式ポートレート(写真=DHS photo by Tia Dufour/PD US DHS/Wikimedia Commons

この「MAGAビューティ」はアメリカのTikTok上でバズっているが、どちらかと言うとリベラル目線でこの80年代風メークを古くさいと笑ったり皮肉ったりするものが圧倒的に多い。セクシーな金髪といえば、アメリカでは一昔前の白人女性のステレオタイプだからだ。


■「男に媚びる女性」を登用するトランプ氏の狙い


最近はノンバイナリーやユニセックスといった男女共に楽しめるファッションがトレンドで、たとえガーリーなスタイルでも、メークはナチュラルなクリーン・ガール・ルックという時代だ。フェミニストが多いリベラルから見れば、「MAGAビューティ」は「トランプの好み=保守男性の理想の女性」「男に媚びる女性」を反映したものにしか見えない。古い価値観を押し付けているという批判の声すら上がっている。


しかし「MAGAビューティ」が注目されるのは、明らかに今、トランプのパワーが世を席巻しているからだ。「パワーブロンド」という言葉もあるが、そこには「自力で成功できる」と主張する強い保守女性たちの姿がある。彼女たちは男に媚びるというより、男性の欲望に最適化された女性像を、武器として使っているのだ。


多様性の廃止を進めるトランプ政権は、重要なポジションのほとんどを白人男性で固めている。その中でも報道官など目立つ役職になぜ「MAGAビューティ」と呼ばれるような白人女性をつけているのか。そこには明確なメッセージと戦略がある。


第一に、保守的な有権者にアピールするためのイメージ戦略であることは間違いない。FOXニュースなどの、“映え”を重視する保守系ニュース局へのウケもいい。


■フェミニズムと戦う「トランプの女たち」


また女性を起用することで、多様性の否定は、すべての女性やマイノリティ排除ではないことも訴えている。つまり、どんな人でも政権の保守的な価値観に共鳴し、イデオロギー的な整合性があれば問題ないというわけだ。


その女性像は、リベラルのフェミニズム女性像とは異なる意味での自立した女性、戦う女性でもある。報道陣が政権のやり方に厳しい質問を浴びせるたびに、レヴィット報道官が鋭い言葉で返すのはもはや日常になっている。彼女たちはブロンドにセクシーなメークの「戦闘ルック」でトランプのために忠実に戦う。それがトランプの女たちなのだ。


トランプ政権は規制撤廃・社会保障削減を含む政府の劇的な縮小と、高い関税を組み合わせ、「強いアメリカを取り戻す」と訴えている。


写真=iStock.com/BasSlabbers
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BasSlabbers

関税などがもたらす経済的不安定さが「鞭(ムチ)」としたら、それを補完する「飴(アメ)」として機能しているのが、伝統的キリスト教文化の復興だ。


保守層にとっては懐かしさと安心感に包まれたそのメッセージは、移民排斥やリベラル教育攻撃と結びつき、文化戦争として過熱している。


■「経済的に苦しくても、誇りを取り戻せるのなら…」


例えば多くのエリート大学も含む教育機関に対し、多様性の廃止はもちろん、中東研究など特定の学部の縮小などを要求している。従わなければ助成金を引き下げるというわけだ。


また大学では留学生や教授のビザ、グリーンカード(永住権)が次々に剥奪されている。親パレスチナ運動に参加したというのが理由だが、突然拘束されたり強制送還されたりした学生もいる。その対象はほとんどがイスラム系やアジア系などのマイノリティだ。


こうした措置の多くは「危険な犯罪者の不法移民を追い出すためには致し方ない」という政権の言い分のもとに容認され、正当化されている。


多くの保守層もこうした動きに目をつぶっている。「今は経済的に苦しくても、アメリカの誇りを取り戻せるのなら」と願っているからだ。


だが、その「誇りの復興」が、誰かの人権を踏みにじるものであるなら?
そしてそれが、かつてファシズムが台頭した時代と重なり始めているとしたら?


そうした問いが、私たちの胸の奥に残る“もやもや”の正体なのかもしれない。


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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
NY在住33年。のべ2,000人以上のアメリカの若者を取材。彼らとの対話から得たフレッシュな情報と、長年のアメリカ生活で培った深いインサイトをもとに、変貌する米国社会を伝える。専門分野はダイバーシティ&人種問題、米国政治、若者文化。ラジオのレギュラー番組やテレビ出演、紙・ネット媒体への寄稿多数。アメリカのダイバーシティ事情を伝える講演を通じ、日本における課題についても発信している。
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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)

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