「怒り」「悲しみ」だけでなく「喜び」さえも長引かせてはダメ…禅僧が「平穏」こそ最重要という深い理由
2025年4月18日(金)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RealPeopleGroup
※本稿は、枡野俊明『「し過ぎない」練習』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
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■感情を否定しない。受け入れて手放す
喜怒哀楽、愛憎、嫌悪、恐怖、不安、驚き——。人間にはさまざまな感情があります。感情があるのは生きている証拠であり、命ある限り感情はありつづけます。
感情は、起こった現象の単なる反応ではなく、私たちの行動や判断を導く重要な役割を果たします。
たとえば、怒りは自分や大切なものを守るためのエネルギーを生み出します。喜びは、快適で安全な状態を促進し、その状態を維持しようとするモチベーションを高めます。
悲しみは、大切なものを失ったときにその喪失を受け入れ、次の行動を考える時間を与えます。このように感情は、人間が生きるための心の警報システムなのです。
ところが、感情も激し過ぎたり、長く引きずれば、困った存在になります。
過剰な怒りは、人間関係に深刻な問題を引き起こします。相手との信頼関係が壊れ、対立がエスカレートしたりする可能性があります。
さらには、言葉の暴力や物理的な暴力に発展するリスクもあります。怒りが抑えられずに職場で怒りを爆発させると、周囲から孤立してしまいます。
■「喜び」さえも求め続けてはいけない
怒りを長く引きずると常にストレス状態になり、心身の健康に悪影響を及ぼす場合もあります。怒りがこみ上げてくると寝つけないこともあるでしょう。
悲しみも、度が過ぎると深刻な問題を引き起こします。たとえば家族を失った深い悲しみで無気力の状態がつづけば体調不良を起こすなど健康への悪影響があります。また、悲しみを引きずって、友人や仕事仲間と距離を置けば孤独感が増します。
ポジティブな感情にみえる喜びも、過剰に求め過ぎると自己コントロールを失い、現実的な判断ができなくなり、リスクを無視した行動につながることがあります。
たとえば投資で大儲けしたとしましょう。その喜びが忘れられず、無計画に大金を投じて失敗するかもしれません。あるいは、大きな買い物を繰り返したり、過剰な飲酒や遊びに走る可能性もあります。
■「自分の感情=自分の心」ではない
感情に引きずられるのは、感情を自分の心と思っているからではないでしょうか。喜怒哀楽などの感情は、あなたにふりかかる一時的な心の動きです。
感情を引きずらず、心を平穏に保って生きることが禅の教えです。
禅では「生きる」とは生死を繰り返すことだと考えます。人間は、息を吐いて吸う、そのひと呼吸ごとに生と死を繰り返しているのです。過去の自分はすでに死んだものであり、未来の自分はまだ生まれていません。
今この一瞬だけが、あなたが生きている“真実の生”なのです。その“今”の積み重ねが人生です。
写真=iStock.com/recep-bg
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感情も、本来は自然に生じては消えるものであり、固定的なものではありません。どんなに強い感情も永遠につづくものではなく、やがて消え去ります。
感情は、あなたに向かって投げられた“熱い石”だと思ってください。熱い石を受け取って握りつづけることは自分を苦しめるだけですから、できるだけ早く手放すべきなのです。
だからといって感情の熱い石を誰かにぶつけると、ぶつけられた相手がやけどを負ってしまいます。
感情は、自分自身から湧いてくるものですが、それは自分の心そのものではありません。それに気づいたならば、感情に振りまわされることはなくなります。
■感情をコントロールする三つの段階
次は、自分の感情は自分の心そのものではないことを認識し、感情をコントロールすることを実践してみましょう。
第一段階は、感情を認識することです。
喜怒哀楽などの感情が湧いていると感じたら、「今、自分は何を感じているのか?」と自問してみます。
「私は今、怒りの感情のなかにいる」「私は今、悲嘆に暮れている」などと具体的にラベルを貼ります。つまり、感情を少し離れた視点から観察します。そうすることで自分自身の感情を客観的にとらえ、俯瞰することができます。
第二段階は、湧いている感情を素直に受け入れることです。どんな感情も否定しないことが大事です。
怒りを感じていても「こんなことで怒ってはダメだ」と否定するのではなく、「今、怒るのは自然なことだ」と受け入れます。ネガティブな感情も自身の自然な反応として許容することで早く落ち着くことができます。
枡野俊明『「し過ぎない」練習』(クロスメディア・パブリッシング)
「今、自分は怒っている。でも、この怒りは20分もすれば消えるだろう」と、冷静に考えるのです。あるいは悲嘆に暮れる感情であったなら「悲しい出来事だったが、1年後も同じ悲しみのなかで生きていくのだろうか」と考えると、感情を和らげることができます。
第三段階は、丹田呼吸です。
丹田呼吸は感情の高ぶりを抑える効果もあります。意識して深い丹田呼吸を数回繰り返してください。とくに怒りや不安を感じたときに、丹田呼吸は効果的です。
自分のそのときの感情を認識して、受け入れ、冷静に対処するのに特別なスキルはいりません。激しい感情におそわれたときこそ、しっかりと受け止め、やさしく手放してください。
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枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー
1953年、神奈川県生まれ。多摩美術大学環境デザイン学科教授。玉川大学農学部卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行ない、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。また、2006年『ニューズウィーク』誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。
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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)