どう見ても普通の倉庫→実は泊まれます 「コンテナホテル」各地で激増…… 拡大の背景、定着へのカギは

2024年4月21日(日)8時0分 ねとらぼ

コンテナホテルの「HOTEL R9 The Yard」(画像提供:デベロップ)

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 郊外の道路を車で走っていると、見えてくるコンテナの集積地帯。一見すると普通の貸し倉庫に見えるが、実は誰でも泊まれる宿泊施設だ。こうした、いわゆる「コンテナホテル」が全国で数を増やしている。拡大の背景にあるものは。業界最大手チェーンと有識者に話を聞いた。
●約5年で80店舗の急拡大チェーン
 コンテナホテルの先駆けで、現在業界最大手と言えるのがデベロップ(千葉県市川市)の「HOTEL R9 The Yard」(ホテル アールナイン ザ ヤード)だ。現在全国に約80店舗を出店し、その多くが駅から離れた郊外のロードサイドに立地している。
 建築用に開発した専用コンテナの中には、普通のホテルと同じようにベッドや家具・家電などが備え付けられ、宿泊者は快適に過ごすことができる。料金はどの施設も1人1泊6200円〜だ。
 デベロップの広報担当者によると、コンテナホテル開発のきっかけになったのは2011年に発生した東日本大震災。2007年に建築用コンテナメーカーとして創業したばかりの同社は当時、宮城県の被災地で備蓄用の倉庫などの建設に携わっていた。
 同社の岡村健史社長が被災地の避難所で目にしたのは、仕切りがなく、プライバシーが保たれない体育館などで過ごす被災者の姿だった。避難者が安心して、安全に過ごせるプライベート空間を提供できないか——。生まれたのが、一度作れば簡単に移設できるコンテナを使用したホテルのアイデアだ。
 石巻市で復興従事者用宿泊施設として利用されていたコンテナを栃木県佐野市に移設し、2017年にビジネスホテル「HOTEL R9 SANOFUJIOKA」を開業。翌年、コンテナ1台を1客室とした「HOTEL R9 The Yard」の1号店を栃木県内に出店したのを皮切りに全国へ進出し、約5年で80店舗、2951室を展開する急拡大を見せた。
●「駐車場が無料で目の前に駐車できる」利用者の評判
 施設はどのような人が使っているのだろうか。担当者は「平日はビジネスマンの方が連泊でご利用になり、週末はカップルやご夫婦、ファミリーに観光の拠点としてご利用いただいております。またツーリングや、レジャー(釣りなど)目的のお客様も多くいらっしゃいます」と説明。利用者からは「駐車場が無料で客室の目の前に駐車できる」「室内設備が充実していて長期連泊でもストレスがない」と評判だという。
 コンテナの下にはタイヤが付いているため、災害時などには「レスキューホテル」として被災地や医療施設のそばに移設し、個室スペースや病床、シャワールームとして活用できる。担当者は「宿泊需要がありながらもホテルが少ない・足りない場所に当ホテルを開発することで、地域の活性化と防災力の向上を後押しすることを目指している」とし、今後は年20〜25店舗のペースで出店を目指す方針だ。
 デベロップ以外にも、近年は熊野古道(和歌山県)、白馬(長野県)といった観光地にコンテナホテルが出店された事例がある。4月11日に三重県いなべ市に開業した複合施設「いなべ阿下喜ベース」には、温泉やレストランといった集客施設に隣接する形でホテルが設置されるなど、展開の仕方も多様化している。
 コンテナ型の宿泊施設が急増する背景には何があるのだろうか。ホテル評論家の瀧澤信秋氏は、ねとらぼ編集部の取材に対し、コンテナ型ホテルは「大掛かりな建設が不要で、開業までの期間やイニシャルコスト(初期費用)にも分がある」と指摘し、その要因を次のように分析する。
「日本のビジネスホテルチェーンは、オーナーとの間で、20年などの期間で建物の賃貸契約締結や運営を受託するスタイルが一般的です。一方で、HOTEL R9 The Yardでは賃貸や運営受託ではなく、ホテルであるコンテナを所有し運営している。一般的なビジネスホテルと比べてステークホルダー(利害関係者)が少ない点も、出店拡大をはじめ重要な経営判断が迅速に行えることがメリットといえるのではないでしょうか」
●ホテルの「賞味期限」は10年程度 定着へのカギは
 宿泊者目線では、部屋に入るまでの「動線の短さ」も、コンテナホテルが持つ大きなメリットだと瀧澤氏は語る。一般的なビジネスホテルでは、駐車場に車を停めてからチェックイン手続きを行い、部屋に入るまで長い時間を要すことが少なくない。一方で、コンテナホテルは駐車スペースのすぐ横にホテルがあり、またHOTEL R9 The Yardでは事前決済式でチェックインを簡単に行えることから、現地に着いてからすぐに入室できる仕組みだ。
 自身もコンテナホテルに宿泊経験のある瀧澤氏。一般的なビジネスホテルと比べると、防音など快適性では劣る実感もあるとしつつ、「設備や料理などが充実したビジネスホテルとは別物の『コンテナホテル』という分類で捉えた方がいいのではないか」とする。
 瀧澤氏によると、一般的にホテルが支持される「賞味期限」は10年程度だというが、コンテナホテル定着のカギはどこにあるのだろうか。
「一般的なホテルに比べるとゲスト客層が限定的な側面も想定され、一般ホテルに比べ顧客ロイヤリティ(愛着)の獲得がより重要になる。今後は室内の改善やサービスのブラッシュアップを継続して行い、コンテナホテルというイメージに固定されないような変化をリピーターに感じてもらうことも求められるのではないでしょうか」

ねとらぼ

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