「猫と犬が降ってくる」?猫にまつわる英語イディオム (4)
2025年4月20日(日)19時42分 財経新聞
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■諸説ある語源
まず有名なのが、北欧神話との関連性だ。北欧神話において、嵐を司る神「オーディン」は犬や狼と関連づけられることが多かった。
一方、嵐の夜に箒で空を飛ぶ魔女たちは、しばしば黒猫とともに描かれる。つまり犬が強風を、猫が豪雨を象徴しているという説である。
次に、言語的な変化による説もある。ギリシャ語の表現「cata doxa(常識に反するほど激しい)」が、音韻的な類似から「cats and dogs」と聞き間違えられた可能性がその一例だ。
一方、古英語の「catadupe」(滝や激流を意味する語)が訛って変化したという説もある。この「catadupe」は、ラテン語の「catadupa」、さらに遡ればギリシャ語の「κατάδουποι」(ナイル川の急流や滝を指す)から由来するとされる。
他にも18世紀のイギリスで、豪雨の後に街路に動物の死骸が流れ出ていたことから、この表現が生まれたという説も根強い。
たとえば、『ガリヴァー旅行記』で有名なジョナサン・スウィフトが1710年に出版した詩「City Shower」では、そのような豪雨後の都市の混乱と汚濁が描かれており、これが「猫と犬が降ってくる」という比喩的なイメージにつながった可能性がある。
実際彼は、後年の作品『Complete Collection of Genteel and Ingenious Conversation』(1738年)において、登場人物の一人に「I know Sir John will go, though he was sure it would rain cats and dogs.(ジョン卿は、たとえ猫と犬が降るような雨になるとわかっていても出かけるだろう)」と言わせている。
このフレーズのユーモラスな響きが当時の読者に強い印象を与え、そこから、土砂降りを表すイディオムとして広く普及していったのかもしれない。
■ネイティブはあまり使わない?
「Raining cats and dogs」は英語学習者向けの教材によく登場することから、非常にポピュラーな表現のように思えるが、実際にはネイティブスピーカーの日常会話ではあまり使われない。
現代英語では、「It’s pouring(土砂降りだ)」や「It’s bucketing down(激しい雨が降っている)」などのシンプルな表現が好まれる傾向にある。
それでもこの表現が広く知られているのは、その奇妙な響きと、視覚的に強烈なイメージゆえだろう。語源の曖昧さもまた、多くの人の関心を引きつける要素となっている。
ネイティブにとっての使用頻度と、学習者にとっての知名度との間に大きなギャップがある表現の代表例と言える。
例文
・It's raining cats and dogs outside, so don't forget your umbrella!
(外は土砂降りだから、傘を忘れないでね!)