なぜデンマーク人は同僚と飲み会をしないのか…ビジネス競争力世界一の職場のさすがのコミュニケーション

2025年4月23日(水)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FlamingoImages

ビジネス競争力トップのデンマークで、イノベーションが生まれやすい職場にはどんな共通点があるのか。デンマーク文化研究家の針貝有佳さんは「雑談がある職場では、イノベーションが起こりやすい。デンマークでは、会議の冒頭に軽い雑談タイムを設けたり、週1回の朝食会を雑談タイムにしたり、職場に非日常空間を設けて良い雑談を促すなどの工夫をしている」という——。(第2回/全3回)

※本稿は、針貝有佳『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。


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■会議は冒頭の3分で決まる


コペンハーゲン市の会議でも3分の「雑談」の効用を活かしている。


コペンハーゲン市の職員として働くラーセン華子さんは、会議のファシリテーター役も務める。


そこでよく言われるのは、「会議は冒頭の3分で決まる」ということだ。


会議は「冒頭の3分」で決まる。


冒頭の3分に何も話さないと、その会議中に発言する心理的ハードルが高くなってしまう、というのだ。これは科学的にも証明されているらしい。


■「軽い雑談タイム」の効果


そこで、コペンハーゲン市が会議を開催する際に、冒頭によく取り入れるのが「チェックイン」である。「チェックイン」の目的は、お互いを軽く知って、その場の雰囲気を和(なご)ませることである。


要は、冒頭に「軽い雑談タイム」を取り入れるというイメージである。


「チェックイン」には、色んな方法がある。


たとえば、質問を投げて全員に回答してもらう、トピックを与えて隣の人と話してもらう。


床に絵や写真を散りばめて「今年の夏を象徴する1枚を取ってください。それについて1分話してください」というチェックインをすることもある。


冒頭に「ちょっとした雑談」を入れることで、初対面の人同士でも、あぁ、この人はこういう人なんだな、となんとなくお互いを知れて、親近感が湧く。


冒頭に「雑談タイム」を設けると、会議の進行役が参加者のタイプを把握できるという効用もある。外向的でよくしゃべる人なのか、内向的であまりしゃべらない人なのか、会議前に把握できれば、司会進行もしやすくなる。


外向的な人はしゃべりながら考える傾向があるのに対し、内向的な人は考えをまとめるのに少し時間がかかる。話す内容はなんでも良いので、冒頭の3分で内向的な人にも話してもらうことで、全員が会議で発言しやすくなる。


会議の冒頭に「チェックイン」という名の「雑談タイム」を設けてみる。それだけで、みんなが発言しやすくなるのなら、試してみる価値はありそうだ。


ちなみに、チェックインの時間は、会議の長さや特徴に合わせて、5分や10分に設定することもあるそうだ。


ポイント会議は冒頭3分に「雑談タイム」を!

■イノベーションが生まれやすい職場の条件


「雑談」がある職場では、イノベーションが起こりやすい。


リーダー育成や企業コンサルをしているテアは、こう指摘する。


「上司がみんなの『雑談タイム』を大事にしてる職場では、イノベーションが生まれやすい」

たとえば、みんなで雑談をしているときに部下が何気なく話したことに、上司が「あ、それいいね」と反応して、そのアイデアを拾う。そんなところから、イノベーションの火種が生まれる。


デンマークの職場では、こういった「雑談のチカラ」を最大化させるために、ちょっとした会話をしやすい遊び心のある空間づくりや仕組みづくりをしている。


デンマークを代表する大企業である製薬会社ノボノルディスクの本社を例に挙げよう。


コペンハーゲンの北西にあるノボノルディスク本社の入口を入ると、まず目に入ってくるのが、吹き抜けのロビーだ。


中央には数本の木がそびえていて、天窓からは明るい陽が差し、まるでオアシスのような空間が広がっている。


ロビーの奥には、カフェスペースのほか、ちょっとした雑談ができるソファやベンチなどがある。また、廊下にもカウンターテーブルやハイチェアが置かれ、立ち話ができるスペースがある。


オープンで開放的で、軽い爽やかな空気が流れていて「仕事感」がない。


ポイント「雑談」からイノベーションが生まれる
ポイント「仕事感」のない開放的なオフィスづくりをする
ノボノルディスク本社(写真=News Øresund - Johan Wessman/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

■勤務後に飲み会はしない


ノボノルディスク本社の職場カルチャーづくりを担当しているオーレは、同社日本法人の社長を務めていたこともある。すらっと背が高く、丸型のメガネをかけた、誠実で紳士な方である。訪問すると、ジーンズにワイシャツとセーター姿で迎えてくれた。


「日本で仕事をしてたときは、仕事帰りによく社員と外食してました。夕食を食べた後、さらにハシゴして飲んだりもしてましたね(笑)」

懐かしそうに、日本で働いていた頃のことを振り返る。その語り口調からは、賑わう路地裏の夜の雰囲気が彷彿(ほうふつ)とするようで、この方は日本にどっぷり浸かってきたのだなぁ、となんだか嬉しくなる。


だが、デンマークの本社では、勤務後に飲み会などはしないと言う。その代わりに、部署ごとに年に数回のイベントや交流の場を設けている。


それから、週に1回、同じ部署のみんなで朝食会を開く。


オーレの部署では、毎週金曜日、オフィスで30〜45分の朝食会を開催する。朝食を用意する担当者は毎週替わり、上司であっても部下であっても、同じようにその担当が回ってくる。


■週1回の朝食会を「雑談タイム」に


朝食会では、ちょっとした雑談をする。


ある人が「最近、運転免許を取得した」という話をすると、別の人が「自分は高齢になってから運転免許を取得して苦労した」という話をする。


こういった雑談をすることで、お互いの人柄や近況などがわかって親近感が湧くし、何よりも話しやすくなる。


「社外でないと話しにくいこと」はないのだろうか、と思って尋ねてみると、こんな回答が返ってきた。


「そういえば、デンマークでは、飲みに行かないですし、飲みに行く必要性も感じないですね。なんででしょう。不思議ですね……。
もしかしたら、普段からプライベートなことも報告しあっているからかもしれません。週末に参加した誕生日会のことなんかも含めて、なんでも話してます。
あと、デンマーク人は仕事上の反対意見も面と向かってストレートに伝えるので、飲みに行かなくても済むのかもしれませんね(笑)」

どうやら、デンマーク人のコミュニケーションは、想像以上にシンプルなようだ。なんでもストレートに話すから、水面下で細かい根回しをする必要もなければ、終業後に愚痴大会を開く必要もないのだ。


デンマーク人の人間関係は、軽くあっさりしている。職場の人とは、飲んでディープに話すのではなく、勤務時間中に「軽い雑談」をして、お互いのことをサクッと知る。


それだけで十分、コミュニケーションは取れるのだ。


ポイント終業後に「コミュニケーション」を持ち越さない
ポイント「愚痴大会」はNG!

■その人の人となりや価値観を知る


シチュエーションを変えるだけで「いつもの関係性」を崩すことができる。


あなたも体験したことがないだろうか。廊下やエレベーター、通勤中の道や駐車場などでバッタリ会って、ちょっとした会話をしたら、その人のいつもとは違う面が見えたこと。家族・日常生活・趣味などを垣間見て安心したこと。


「役」を脱いだ「顔」が見えると、それが、仕事のしやすさにつながることもある。


趣味や関心を知ると、その人となりや、大事にしている価値観が見えてくる。そうなれば、チームで新しいことに取り組むときに「そういえば、あの人は?」と、その役にピッタリの適任者を思いつくこともできる。


■ランチタイム30分で「ちょこっと近況報告」


自分のプライベートや趣味・関心を他のメンバーとちょっと共有しておくだけで、自分が面白いと感じるタスクが、自分のライフスタイルにも合ったムリのない形で舞い込んでくる。


デンマークでは、職場でのランチタイムも、「役」を脱ぐ時間である。


30分の短いランチタイムは、上司も部下もインターンもごちゃ混ぜだ。みんなが適当な席に座って、フラットに会話を交わす。


主な話題は、近況報告である。週末の出来事やら昨日の出来事やら、お互いの近況をアップデートして、息抜きをしながら、お互いの「状態」を感じ合う。


初対面の人と同席したときは、簡単な自己紹介をする。そして、この人とはもう少し話せそうだなと思ったら、プライベートの近況や自分の関心事などもちょこっと話す。そうすると、お互いの「顔」が見えるようになって、次から気軽に話せるようになる。


勤務時間中の「短い隙間時間」を、お互いをちょこっと知り、お互いの状況を軽く把握するために、最大限に活用する。それこそが、デンマーク人の大切にするコミュニケーションである。


もし読者のなかで、そんなに積極的に話しかけるなんて自分にはムリだ、と感じている人がいたら安心してほしい。デンマーク人は、とてもシャイな国民だ。少々遠慮がちで、そんなに社交的でもないから、初対面の人になかなか自分からは話しかけられない。でも、みんな、話しかけられたら嬉しい(笑)。ちょっと日本人に似ていないだろうか。


この人だったら話してもいい、そう思ったら自分のことを少し話すだけでいい。


ポイント「顔」が見えると、仕事がしやすくなる
ポイントランチタイムにサクッと近況報告&自己紹介

■私語は慎まない


お互いを知ることを大切にするからこそ、デンマークの職場では、勤務時間中であっても私語を慎まない。



針貝有佳『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』(PHPビジネス新書)

仕事と関係ないことを長々と話すわけではないが、プライベートと仕事を完全に切り離すのではなく、プライベートのことも軽く職場で話す。


離婚していることも、再婚していることも隠さない。離婚して元パートナーと1週間ごとに交代で子どもの面倒を見ている人は、そんな情報も共有する。


そうすることによって、良い意味でお互いのプライベートに配慮し合えるし、お互いの「状態」を感じながら、ムリのないプランを立てて仕事を進められる。


デンマーク人と仕事をすると、プライベートのことをいきなり聞かれてビックリするかもしれない。年齢、家族構成、住んでいる場所、職歴……彼らはサラッと尋ねてくる。


一瞬戸惑うかもしれないし、失礼だと感じるかもしれないが、彼らにプライベートを詮索(せんさく)しようという気持ちは一切ない。ただ純粋に、一緒に仕事をする相手がどんな人なのかを知りたいという気持ちがあるだけだ。


また、こういった会話をしながら、相手がムリなく仕事ができそうかどうか、どんな形で働くのがベストかをさぐる、という目的もある。


知った情報を何かに使おうとは思っていない。当然のことだが、こういった会話は、お互いのプライバシーを守り、プライベートを尊重するという前提があるからこそ成立する。


余談になるが、私が驚いたのは、私のインタビュー取材中に、子どもからよく電話がかかって来たことだ。電話をとって、短く要件を聞いて「後で折り返すね」ということもあれば、その場で簡単に対応することもある。


子どもからの電話がかかってくるたびに、あぁ、この人たちは仕事人でもあるけれど、「パパ」であり「ママ」なんだな、と思う。


そして、それは「公私混同」というよりも、「私」を滅さずに「公」の仕事ができる、人間らしい健康的な姿に見える(家族からの電話で仕事への集中力が妨げられないのかは少々謎であるが)。


ポイントプライベートと仕事を切り離さない

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針貝 有佳(はりかい・ゆか)
デンマーク文化研究家
東京・高円寺生まれ。早稲田大学大学院・社会科学研究科でデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」について研究し、修士号取得。同大学・第二文学部卒。2009年12月に北欧のデンマークへ移住して、デンマーク情報の発信をスタート。首都コペンハーゲンに5年暮らした後、現在はコペンハーゲン郊外のロスキレ在住。著書に『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』。
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(デンマーク文化研究家 針貝 有佳)

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