「生まれつきの能力」でも「意志の強さ」でもない…"すぐに諦めてしまう子"と"やりぬく子"のたった一つの違い

2025年4月24日(木)10時15分 プレジデント社

出所=『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)

自己肯定感を高める秘訣はあるか。心理学者の榎本博明さんは「そもそも、自己肯定感を一時的な気分の高揚と混同している人が多いように思う。本当の自己肯定感とは、もっと持続的・安定的なものだ」という。では、その「本当の自己肯定感」を高めるにはどうすればいいのか。新著『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)より、一部をお届けする——。

■「ほめられてうれしい」≠自己肯定感が高まる


ほめられれば高まり、叱られれば低下し、何かがうまくいけば高まり、うまくいかないと低下するような一時的な気分の高揚を自己肯定感とみなすなら、そのようなものが高くても何の意味もない。いくら高めたところで、嫌なことがあればすぐに低下してしまうのだから。


一方、持続的・安定的な自己肯定感が高まれば、叱られたり、失敗したりといった否定的な出来事による衝撃を緩和することができる。だからこそ、持続的・安定的なのである。


ゆえに大切なのは持続的・安定的な自己肯定感が高いことであり、これこそが本当の自己肯定感であるとみなすべきだろう。


では、そのような本当の自己肯定感はどうしたら高まるのだろうか。


2020年に「教育新聞」に「なぜ「自信のない子」が多いのか——自己肯定感を育む11の方法」として連載したものをもとに重要と思われることを列挙しつつ解説していくので、ぜひ参考にしていただきたい。


出所=『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)

■キレやすい子供が急増している


①忍耐力を鍛え、衝動コントロール力を高める

自己肯定感の低い子の特徴のひとつに、衝動的でキレやすいということがある。


友だちから嫌なことを言われると、怒鳴るように言い返したり、つい手を出したりしてしまう。先生から注意されたことに納得がいかないと、泣きわめいたり、暴れたりしてしまう。


そのようなキレやすい子どもたちが急増していることが大きな問題となっている。


衝動が収まると後味の悪さが残るが、それでは自己肯定感は下がるばかりだ。


これに関しては、本書『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)で小学校での暴力事件の件数が急増し続けていることや小1プロブレムと言われる幼稚園から小学校への移行でつまずく子が多いことを指摘し、その実態について解説したので、そちらを参照してほしい。


嫌なことがあったり、思い通りにならないことがあったりすると、ついキレてしまうというのでは自己肯定感が高まることは期待できない。また、学校に適応できない自分を肯定するのも難しいだろう。


■「ほめる教育」の中では育ちにくい


衝動コントロール力を高めるには、思い通りにならないときも我慢できるように忍耐力を鍛える必要があるが、ほめる教育・叱らない教育がもてはやされる今日、それは非常に難しい。


これには家庭教育も深く関係しており、学校と家庭の連携が必要だが、子どもの心を鍛えてあげるという発想が乏しい親、子どもに甘い親が多く、子どもの心を鍛えることに対する保護者の理解がないといった声も教育現場でしばしば耳にする。保護者の意識を変えてほしいと頼まれることもあるが、なかなか一筋縄ではいかない。


自己肯定感を育むには、忍耐力を鍛え、衝動コントロール力を高める必要があるのだが、そのような力を鍛える教育的働きかけがしにくい時代なので、自分自身で忍耐力を鍛えなければならない時代なのだという自覚をもって日常を過ごす必要がある。


■「できない自分」とどう向き合うか


②短所も未熟さも含めて自分を受け入れる

前向きに生きている人は自己受容ができている。


その意味で、自己受容は自己肯定感を育むための必要不可欠の条件と言える。


では、自己受容とはどのような心理状態をさすのだろうか。


自己受容を促進するために、本人ができることに着目させるというアプローチが取られたりする。できないことだらけで「自分はダメだ」と思い込んでいる子に「あなたはこれができるよね」とできることに目を向けさせ、自分の長所を自覚させることで自己受容を促そうというのである。それは間違いではないが、それだけでは十分でない。


なぜなら、だれにだってできないこともあるし、短所もあるからだ。


いくら頑張っても「できない自分」。自分なりにここはダメだなと思う「短所をもつ自分」。そういう面も含めて、自分を丸ごと受け入れるのが自己受容である。これがないと、「どうせ自分なんか」といじけてしまい、「もっとできるようになりたい」「短所を少しでも克服したい」といった向上心が湧いてこない。


写真=iStock.com/fiorigianluigi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fiorigianluigi

■「そのままの自分でいい」ではダメな理由


だからといって、「そのままの自分でいいんだよ」というようなアプローチは問題ありと言わざるを得ない。


それは、頑張りすぎたり、傷つきすぎたりした子に、「張りつめた気持ちを少し緩めるといいよ」「そこまで自分を責める必要はないよ」と伝えるときに用いるメッセージである。


通常は、頑張ろうという気持ちや悪いことをした自分を責める気持ちがなければ困る。


そこを勘違いした似非心のケア的アプローチがとられるから、「頑張れない心」「反省できない心」が生みだされてしまう。


大事なのは、もっとマシな自分になりたいという気持ちに目を向けることである。そして、成果にはなかなかつながらなくても頑張っている自分、短所だらけで未熟だけど一所懸命に生きている自分、そんな自分を受け入れることである。自己受容が進むと自己肯定感も高まる。また、自己受容が進むと他者受容も進み、人間関係が良好になる。それによってさらに自己肯定感が高まっていく。


写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

■自己肯定感が高いひとの「失敗」の受け止め方


③楽観的なものの見方を身につける

何かにつけて物事を悲観的に受け止める心理傾向をもつ子がいる。


授業中に先生に指名されたとき、ボーッとしていてうまく答えられないと、ひどく落ち込む。友だちから嫌なことを言われると、「きっと嫌われてるんだ」と思い、落ち込む。試験で悪い点を取ると、「自分は頭が悪いんだ」と自己嫌悪に陥り、落ち込む。


このように悲観的な心理傾向をもつ子どもは、なかなか自己を肯定することができない。何か失敗したり、嫌なことがあったりすると、「自分はダメだ」「どうせ自分は(嫌われている、頭が悪い)」などと自己否定してしまう。


ポジティブ心理学を提唱したセリグマンによれば、楽観的なものの見方をする人は、悲観的なものの見方をする人よりも、勉強や仕事の成績がよく、鬱になりにくく、感染症などの病気になりにくく(心理的要因により免疫力が高いため)、寿命も長い。


それは素晴らしい発見だが、楽観的なものの見方は、自己肯定感を育むためにも必須の要素といえる。


先の例で言えば、楽観的な子なら、授業中に先生から指名されてうまく答えられないときなど、「ちゃんと聴くようにしなくちゃ」と反省はしても、とくに落ち込まない。


友だちから嫌なことを言われても、「なんか感じ悪いな、虫の居所が悪いのかな」と思うくらいで、嫌われているとまでは思わないため、落ち込むこともない。


試験で悪い点を取ったときなど、「これじゃダメだな。もっと勉強しなくちゃ」と反省し、つぎはもっと頑張ろうと思いはしても、自己嫌悪で落ち込むようなことにはならない。


■落ち込むのではなく、次に活かそうと考える


こうしてみると、自己肯定感を育むには、楽観的な認知の枠組みを身につけることが必要だということがわかる。


失敗を悔やみ落ち込むのでなく、つぎは失敗しないように頑張ろうと思うなど、失敗をつぎに活かすように考える。


友だちから嫌なことを言われても、落ち込むのでなく、相手にもいろいろ事情があり、心理状態も揺れ動いているのだというように、相手の要因に目を向けるようにする。


試験で失敗した子が、「自分は頭が悪い」と思えば落ち込むのも当然だ。でも、準備が不足していたと思えば、そこまで落ち込むことはないし、「よし、つぎこそちゃんと準備するぞ」と前向きになることもできる。前向きになれるかどうかは受け止め方しだいなのだ。


楽観的なものの見方が身についてくれば、自己肯定感が自然に高まり、否定的な出来事にいちいち傷つき落ち込むこともなくなるだろう。


■「自分ならきっとできる」はどこから来るのか


④習慣形成によって自己効力感を高める

最近の子どもや若者の自己肯定感の低さには、自己効力感の低さが関係しているように思われる。「粘り強さがない」「すぐに諦める」といった心理傾向が指摘されるが、そこには自己効力感が絡んでいる。自分にできる気がしないのだ。


自己効力という概念の提唱者であるバンデューラは、期待を結果期待と効力期待に分けた。結果期待とは「こうすればうまくいく」という期待、効力期待とは「自分はその行動を取ることができる」という期待のことである。いわば、効力期待というのは、自分はそれができるという自信である。


たとえば、この問題集をマスターすれば試験で良い成績が取れるはず、毎日素振りをしっかりやれば試合に出られるはず、などといった期待が結果期待である。


このような期待があっても、必ずしもその行動を取れるとは限らない。大人だってそうだろう。こうすればダイエットに成功するはず、このような行動を毎日取れば成人病を防げるはずとわかっていても、なかなかそれができなかったりする。


そこで決め手となるのが効力期待だ。


この問題集をマスターすれば試験でうまくいくとわかっていても、「自分にはちょっと無理かなあ」と思う子はなかなかうまくいかないが、「自分はきっとできる」と思う子は高いモチベーションをもって継続的に取り組めるため、うまくいく可能性が高まる。


■どんなことでもいいから「習慣化」する


どうすればよいかがわかっていても、それができないのは、結果期待はあっても効力期待がないからだ。バンデューラは、効力期待がモチベーションにとって非常に重要だと考え、これを自己効力感と名づけた。



榎本博明『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)

何らかの目標を達成するために必要な行動を取ることができるという自信である。その自信が自己肯定感につながっていく。


やるべきことを最後までやり抜くかどうかは自己効力感しだいといえる。では、どうしたら自己効力感を高められるのか。


そこで威力を発揮するのが習慣形成だ。


たとえば、毎日1時間机に向かうのが習慣になっていれば、当たり前のように机に向かう。それを継続するのに意志の力を必要としない。習慣形成の意義は、まさにそこにある。習慣形成によって、意志の力なしに、ほぼ自動的に望ましい行動が取れるようになる。


そこで、何でもよいから何らかの習慣形成を試みるのである。そのうち習慣化すると、ほぼ自動的にその行動が取れるようになる。「自分は継続することができた」ということによって、自己効力感が高まる。それが自己肯定感につながっていく。


写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

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榎本 博明(えのもと・ ひろあき)
心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在、MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)、『「やりたい仕事」病』(日経プレミアシリーズ)、『「おもてなし」という残酷社会』『自己実現という罠』『教育現場は困ってる』『思考停止という病理』(以上、平凡社新書)など著書多数。
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(心理学博士 榎本 博明)

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