「米国を頼りにするな」という警告、新興国と供給網の再構築を…経済同友会代表幹事・新浪剛史氏

2025年4月29日(火)5時0分 読売新聞

新浪剛史氏(21日、東京都港区で)=岩佐譲撮影

[危機〜世界経済秩序]インタビュー<12>

 トランプ米大統領による関税措置は「米国は、もう今までの米国ではない。頼りにするな」という深刻な警告だ。このメッセージを受けて、各国は慌てて自国の経済力を強くしようとしている。日本も危機感を持って、競争力強化を急ぐ必要があるだろう。

 ただトランプ氏にとって、金融市場からは意図せぬ結果が出た。「相互関税」を発表した後、株安、ドル安、債券安のトリプル安を招き、アップルなど巨大IT企業の株価も暴落した。

 イノベーション(技術革新)に対する成長期待という形で高まってきた米国への信認が揺らぎ、それがマーケットに反映された形だ。米政府が相互関税の上乗せ分を90日間停止したのは、市場の反応を受けた軌道修正といえる。

 市場が混乱する中、米国が優先交渉先に選んだのが日本だ。コミュニケーションが取りやすく、ディール(取引)もしやすい日本との交渉を「ショーケース」として早く解決させれば、市場の信認を回復でき、他国との交渉も進めやすくなると踏んでいる。

 トランプ政権とは、何事も交渉次第で可能性は出てくる。日本としては、経済に最も影響する自動車への関税引き下げが一番で、代わりに米国に何を提示するかがカギとなる。日米交渉は世界が注目しており、経済界としても、スピード感を持って協議を進めてほしい。

 長期的な視野も必要だ。トランプ氏が再登板した背景には、経済のグローバル化を通じて職を失ったと考える人々の怒りがあり、貧富の差の拡大があり、社会とコミュニティーの分断がある。こうした問題が残る限り、トランプ氏が退任した後も、米国は自国第一主義を打ち出し続ける可能性がある。

 米国経済が不安定であることは日本にとってマイナスだ。今後は米国に頼ってきた貿易体制を見直し、自らリスクを軽減しなければならない。官民が連携して新興・途上国「グローバル・サウス」を味方に付け、サプライチェーン(供給網)の再構築を図るべきだ。日本が最終製品を作るのではなく、得意とする工作機械の輸出などを通じ、成長の果実を得ていけばいい。

 国内投資を活性化させる必要もある。日本企業の投資はこの30年間、海外に偏り、国内には十分に回らなかった。規制緩和や制度改革を進めて民間企業が国内に投資しやすい仕組みを整え、国内の経済基盤を強化することが重要だ。

 日本には、付加価値の高い商品・サービスを生み出す企業が大手にも中小にも数多くある。こうした企業に注目し、産業競争力を高められなければ、日本は世界に劣後してしまう。(聞き手・経済部 貝塚麟太郎)

◆にいなみ・たけし=米ハーバード大経営大学院修了。ローソンやサントリーホールディングス(HD)で社長を歴任し、23年に経済同友会代表幹事に就任。政府の経済財政諮問会議の民間議員も務める。サントリーHD会長。66歳。

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