30秒間つけておくだけで発がん物質の毒性が消失する…がん抑制効果がある「サラサラ唾液」を増やす方法

2024年5月12日(日)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Brosa

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健康を保つにはどうしたらいいか。耳鼻科医の桂文裕さんは、「舌のストレッチをするとサラサラとした唾液の分泌量を増やすことができる。この唾液には、細菌や食べかすなどを洗い流す効果があり、がんや歯周病の予防に効果的だ」という——。

※本稿は、桂文裕『舌こそ最強の臓器(舌ストレッチ動画付き)』(かんき出版)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/Brosa
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■舌が衰えると唾液が減少する


舌力(ぜつりょく)の衰えは、実にさまざまな体の不調を引き起こします。


ここでは、舌と唾液との関わりにフォーカスしてみましょう。


唾液は知られざる多くの作用を持ちますが、舌力が低下するとその分泌が減ってしまい、口のなかばかりではなく全身に悪い影響が広がってくるからです。


唾液には、おもにサラサラした唾液(漿液性唾液(しょうえきせいだえき))と、ネバネバした唾液(粘液性唾液)があります。それぞれ分泌している唾液腺が異なり、役割も異なっています。


■「サラサラ唾液」と「ネバネバ唾液」の違い


サラサラ唾液を出すのは、主に大唾液腺の耳下腺(じかせん)。


耳下腺は、唾液腺のなかでもいちばん大きく重さは25gほど。おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)で腫れるのが、この耳下腺です。


ネバネバ唾液を出すのは、主に舌下腺。口の底にあたる口腔底の粘膜の下にあり、耳下腺の10分の1ほどの大きさしかありません。


アゴの下にある顎下腺は両方の性質を持つ唾液を出しています。


唾液の種類ごとに出る場所が異なる(『舌こそ最強の臓器』P.74より)

2つの唾液が持つ作用を次の表にまとめました(図表2)。


舌こそ最強の臓器』P.77より

■唾液の分泌に関係している自律神経


唾液の分泌には、自律神経が深く関係しています。自律神経には、活動的に整える交感神経、休息に向かわせる副交感神経の2系統があり、対照的な働きをしています。


ストレスや緊張などがあると、自律神経のうち交感神経が優位になります。すると、唾液の絶対量が減るだけでなく、舌下腺などからネバネバ唾液が分泌されるようになります。緊張すると、口のなかがネバネバした感覚があるのは、多くのネバネバ唾液が出ているためです。


リラックスしているとき、あるいは食事のときには、自律神経のうち副交感神経が優位となり、耳下腺などからサラサラ唾液が分泌されます。


サラサラ唾液もネバネバ唾液も必要ですが、なかでもサラサラ唾液をいつも多く出せることが健康増進のカギを握っています。


加齢に伴って唾液腺は萎縮する傾向にあり、サラサラ唾液の分泌は減少しやすくなります。


サラサラ唾液の分泌を促すには、ストレス解消を心がけて、副交感神経を活性化することが大切です。加えて、舌ストレッチにより、口内の唾液腺を満遍なく刺激すると、通常(約1.0〜1.5L/日)よりはるかに多く(2〜3L/日)の唾液が分泌されやすくなります。


写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■サラサラ唾液にある「がんの抑制作用」


サラサラ唾液の効能として見逃せないのが、がんの抑制作用です。


日本人のがんの主因は、生活習慣とウイルス感染。この両者で、男性のがんの約43%、女性のがんの約25%が起こっていると推測されています(出典:国立がん研究センター「がん情報サービス」)。


このうち生活習慣でとくに問題なのは、食生活と喫煙。食品に含まれる各種の添加物、農薬、タバコの成分などには多くの発がん物質が含まれています。


これらが体内に入ると、有害な活性酸素が大量に発生します。活性酸素は細胞核で遺伝情報を伝えているDNAを傷つけてしまい、がんをはじめさまざまな生活習慣病を引き起こしたり、アレルギーや老化の原因となったりします。


しかし、サラサラ唾液中に含まれる酵素(ペルオキシダーゼ、カタラーゼなど)には発がん物質がつくる活性酸素を減少させる働きがあります。


1991年、同志社大学工学部の故・西岡一教授(当時)は、発がん物質が口のなかに入るとどうなるかを調べるため、各種の発がん物質に唾液を混ぜる実験を行いました。そして発がん物質の毒性は、唾液に30秒間つけておくだけでほとんど消失してしまうことを報告しました(日本咀嚼学会、1991、西岡一)。


西岡教授は、唾液による発がん物質の毒性を抑制する効果は、サラサラ唾液に含まれるペルオキシダーゼにあると分析しています。


■サラサラ唾液は歯周病も防ぐ


歯、舌、のどなどには、300〜700種類の細菌がそれぞれ固有の生態系を築いて棲みついており、歯磨きなどの積極的なケアを怠ってしまうと、その総数は1兆個にも増えると言われています。


なかでも、私たちの健康に大きな影響を与えているのは、歯周病の原因となる歯周病菌。歯周病菌のほとんどは、酸素があると生きられない偏性嫌気性菌です。酸素を嫌うため、歯と歯ぐき(歯肉)の境に生じる歯周ポケットに潜んでいます。(ちなみに、虫歯の原因となるミュータンス連鎖球菌も酸素を嫌いますが、多少の酸素ならあっても生きられる通性嫌気性菌です)


歯周病予防の基本は、歯ブラシや歯間ブラシなどで口腔内を清潔に保つことですが、加えて舌ストレッチでサラサラ唾液の分泌を促すことも大いにプラスです。


写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■歯を失う原因の第1位


歯周病の実態と案外知られていないそのコワさについて理解しておきましょう。


歯周病には、成人のおよそ80%が罹患(りかん)(りかん)しているとされています。歯の周辺の汚れ(プラーク)に含まれる歯周病菌からの毒素の影響で炎症が起こり、進行すると歯ぐきの奥まで炎症が進みます。さらに、歯を支える土台となる骨(歯槽骨(しそうこつ))が溶けると、歯を失うリスクが高まります。実際、大人で歯を失う原因の多くは、歯周病です。


2018年に全国2345の歯科医院で行われた「全国抜歯原因調査」によると、歯を失う原因は歯周病が約37%でトップ。次が虫歯で約29%となっており、若い世代では虫歯で歯を失う人が多く、40代以降は歯周病で歯を失う人が増えてくるという特徴があります。


歯周病菌やそれがつくり出す毒素は、血液に入り込み、全身をめぐります。歯周病は、口のなかのローカルな病気ではなく、全身に悪影響を及ぼし、糖尿病などの生活習慣病の引き金となります。


たとえば、歯周病菌がつくり出す毒素は、脂肪細胞や白血球から誘導される悪玉物質(TNF-α)を増やす働きがあります。TNF-αは、血糖値を下げるインスリンの働きを抑えてしまうため、糖尿病が悪化します。糖尿病が悪化すると、さらに口内環境も悪化して、健常人と比べると、歯周病が2倍以上増加することもわかっています。


■死をも招く歯周病


歯周病菌は、日本人のおもな死因とも深く関わっています。


日本人の死因の1位はがん(悪性新生物)。2位は心疾患(心臓病)、3位は老衰、4位は脳卒中(脳血管疾患)となっています(出典:厚生労働省『令和4年人口動態統計』)。


そして脳卒中に次ぐ死因の5位を占めているのは肺炎。歯周病菌は、なかでも誤嚥性肺炎の引き金になります。


死因2位の心臓病、4位の脳卒中の背景には、血管が硬くなり、血栓という血の塊が詰まりやすくなる「動脈硬化」があります。歯周病菌の毒素は、この危険な動脈硬化を悪化させることがわかっており、動脈硬化を起こした血管から歯周病菌が見つかることもあるのです。


写真=iStock.com/Rasi Bhadramani
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rasi Bhadramani

■認知症にも関わることが判明


さらに近年、歯周病は認知症にも深く関わることもわかってきました。


認知症とは、脳をつくっている神経細胞の機能が落ちてしまい、記憶や学習といった認知機能に障害が出る病気。進行すると、社会生活にも日常生活にも多大な支障をきたします。


高齢化が進む日本では、認知症は現在進行形で増え続けており、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症と診断されると予測されています。



桂文裕『舌こそ最強の臓器(舌ストレッチ動画付き)』(かんき出版)

介護認定を受けていない65歳以上の人を対象とした研究では、歯がほとんどなく義歯も使用していない人は、20本以上の自前の歯をもつ人と比べて、4年後に認知症になるリスクが1.85倍高くなることがわかりました(出典:Yamamoto et al., Psychosomatic Med. 2012)。歯の本数が減ると咀嚼力が低下して、その影響で脳血流が低下したり、栄養状態が悪くなったりすることが関連していると考えられています。


また、歯周病は、日本で認知症の67.6%を占めるアルツハイマー型認知症にも影響を与えています。


アルツハイマー型認知症は、脳内でアミロイドβという異常なタンパク質が溜まり、脳を構成している神経細胞がダメージを受けることで生じます。歯周病で炎症が起こっていると、アルツハイマー型認知症の引き金となるアミロイドβの産出と蓄積を加速させてしまうのです。これは九州大学の研究によるものです。


■サラサラの唾液の分泌を促す「舌ストレッチ」


今回は、舌力を向上させ、サラサラの唾液を大量に分泌する「舌ストレッチ」を紹介しましょう(図表3)。


病気を予防し健康を促進するために、ぜひ、毎日続けてみてください。


舌を長くして伸ばすと舌の可動域が広がり、持久力や瞬発力も鍛えられる。さらに周辺の筋肉も活性化し、たるんだフェイスラインが引き上げられる。(『舌こそ最強の臓器』P.60〜61より)

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桂 文裕(かつら・ふみひろ)
耳鼻咽喉科医
医療法人秀康会ましきクリニック院長。医学博士/日本耳鼻咽喉科学会専門医/上益城郡医師会理事。1964年、熊本生まれ。熊本大学医学部を卒業し耳鼻咽喉アレルギー科を専攻。大学病院時代は頭頸部がん治療に従事し、がん手術や最先端の免疫治療を行い治療成績の向上に貢献。舌との関わりは深く「舌がんに対するリンパ球免疫療法」のテーマで医学博士を取得。2003年、熊本県益城町に「ましきクリニック」を開設。耳鼻咽喉科専門医として舌を診た患者数はのべ数十万人に及び「舌博士」としてマスコミにも出演多数。著書に、『12人の医院経営ケースファイル』(共著、中外医学社)、『健康医学』(共著、フローラル出版)がある。
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(耳鼻咽喉科医 桂 文裕)

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