50歳を超えてから首に赤いブツブツが発症…「愚痴を言うのは男の恥」と言われて育った69歳男性の末路

2024年5月14日(火)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peepo

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老後を健康的に暮らすには何が必要か。精神科医の保坂隆さんは「69歳のある男性は、仕事や人間関係に不満を感じてもずっと口に出さなかったところ、50歳を超えてから『帯状疱疹』と診断された。不平不満を溜め込むあまり、それがストレスになり免疫力が低下していたことが原因だ。それからは、奥さんにときどき愚痴を言うようになり、帯状疱疹もすっかり回復した」という——。

※本稿は、保坂隆『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/peepo
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■孤独死という言葉が何度も脳裏をよぎった瞬間


やや長くなりますが、71歳の女性の独白を紹介したいと思います。


「3年ほど前に夫に先立たれてからひとり暮らしをしています。寂しくないといえばウソになりますが、それほど不自由さは感じずにここまですごしてきました。


死ぬまでこのままひとりで住み慣れた家で暮らそうと思っていたのですが、つい先日、熱を出して、その決心が揺らぎ始めました……。


高熱が出てひとりで寝込んでいるときはとても不安で、『インフルエンザだったらどうしよう。いや、コロナかもしれない。このまま死んでしまうかも……』との思いに取りつかれ、何度も何度も救急車を呼ぼうとしました。


3日目に熱が少し下がったので、タクシーを呼んで病院に行きました。幸いインフルでもコロナでもありませんでしたが、ひとり暮らしの寂しさや不安を痛切に感じ、孤独死という言葉が何度も脳裏をよぎりました……」


病気やケガをして心細くならない人はいないでしょう。ましてや、ひとり暮らしともなるとなおさらです。


元気なうちは「ひとりでなんとかなる」と強がっていても、体の自由がきかなくなったり寝込んだりすると、「やっぱり誰かの助けがないと無理かもしれない」と思ってしまうものです。


■病気や不安に慣れることも必要


この心配がさらにふくらむと、「自分は孤独死するのではないだろうか」という不安が頭から離れなくなります。


意外なことに、若い頃に「病気ひとつしたことがない」という人ほど、このような不安に強く苛まれる傾向があるようです。病気に対する免疫がないからかもしれませんね。


私の知り合いに、身長175cmを超える筋肉質の男性がいます。これまで「はしか、おたふく風邪以外の病気にかかった覚えがない」という人ですが、そんな彼にちょっとした異変が起きたのは74歳になったときでした。


ある日突然、右耳の聴力が落ちているのに気づいたのです。あちこちの病院にかかり、検査を受けましたが、原因はまったくわかりません。


完全に聞こえなくなったわけではありませんが、彼は「年をとったなあ」とガックリきて、「こんな調子で体のあちこちにガタがきて死んでしまうんだ」と悲観的になってしまいました。


それからというもの、出歩くのも億劫になって、引きこもり気味の生活を送っているようです。


たくさんの持病を抱えている人からすれば、「軽い発熱」や「聴力が少し落ちた」程度では病気のうちに入らないのかもしれませんが、これまで大病をしてこなかった人は、ちょっとしたことでも不安になり、大きなストレスを抱えてしまうのです。


こうしたことは不慣れからきているように思います。その意味でも多少は“病気慣れ”しておいたほうがいいのかもしれません。


写真=iStock.com/ChayTee
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■「老いの兆し」を感じたら精密な健康診断を


サラリーマンや公務員など、現役で仕事をしている間は会社や役所で定期的に健康診断を受けているのが普通です。扶養家族である奥さんも、会社の指定する病院などで健康診断を受けているケースも多いはずです。


定年というのは、こうした企業主体の福利厚生制度からはずれていくことでもあるわけです。一般的には、その頃から健康状態にほころびが見え始めます。そんな時期になって定期的に健康診断を受けられなくなるのは、なんとも皮肉な話だと思います。


私は、「老いの兆し」を感じるようになったら一度、精密な健康診断を受けるとよい、とおすすめしています。


銀婚式(結婚25周年)を迎えた、ひとり暮らしを始めた、還暦になった、定年退職した……といった人生の節目に人間ドックに入り、全身の点検をしてみてはいかがでしょうか。


ときたま「市の健康診断を毎年受けているから自分は大丈夫」という人もいますね。たしかに市町村の健康診断、あるいは企業などでおこなう定期健康診断は基本的な項目は押さえてあります。


でも、いよいよ老いに向かう時期に受ける健康診断の内容としては「必要最小限度」と考えておくくらいにしましょう。


■人間ドックの出費はリーズナブルと考える


ただし、人間ドックでは健康保険が使えないので、それなりの費用がかかります。含まれている検査項目や病院によって違ってくるので一概にはいえませんが、半日ドックで数万円、1泊2日のドックなら7、8万〜十数万円からというあたりが目安でしょうか。


可能なら、脳ドックやPET(ポジトロン断層法)によるがん検診など、もっと精度の高い専門的なチェックも受けておけば、いっそう安心です。


この安心感は「どこかおかしいのではないか」と病気や体調の不安におびえず、毎日、平穏な気持ちで暮らしていくためのよりどころとなります。決して安くはありませんが、人間ドックの費用は結果的にリーズナブルな出費といえると私は考えています。


もしどこかに異常が見つかったら、むしろ幸運だと考えましょう。そのまま気づかずに暮らしていけば、より悪化してから病院に駆け込むことになり、治療には多くの時間やコスト、苦痛や心配がかかることになってしまいます。


貴重な老後の時間を「病院とのつきあい」に費やすことほど、もったいないことはないと思います。


■「愚痴は絶対に言わない主義」の69歳男性の末路


フランスの箴言(しんげん)作家ラ・ロシュフコーは、「語り合ってみて理性も好感も感じられない人間が多いのは、自分の言いたいことで頭がいっぱいで、相手の言葉に耳を貸さない連中が多いからだ」と語っています。


耳の痛い言葉ですが、人間は本来、他人の話を聞くよりも自分の話をするほうを好みます。不満や愚痴はとくにそうですね。


なぜ話したがるのかというと、自分が抱えている不満や愚痴を口に出すとスッキリすることを経験的に知っているからです。これは「カタルシス効果」という心理作用で、フロイトが精神療法として取り入れたほど効果があるものなのです。


しかし、昔気質のシニアのなかには「愚痴は絶対に言わない主義」という人も少なくありません。69歳のある男性も、そんなひとりでした。


子供の頃から父親に「愚痴を言うのは男の恥」と言われて育ってきたので、仕事や人間関係に不満を感じても、ずっと口に出せませんでした。



保坂隆『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)

すると、50歳を超えてから首に赤いブツブツができるようになり、同時に背中にも痛みが出始めたのです。病院へ行くと、「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」との診断でした。帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスが原因で発症する疾患です。


この男性は、「ストレスを溜め込んだ場合も、免疫力は低下するのですよ」と医師に言われてハッとしました。不平不満を溜め込むあまり、それがストレスになっていたと自分でわかったからです。


それからは、奥さんにときどき愚痴を言うようになりました。「またなの」という顔をされることもあるようですが、言い終わった後は気分爽快で、帯状疱疹もすっかり回復したそうです。


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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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(精神科医 保坂 隆)

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