あなたが感じた手応えは「本物」か? 見落としがちな1on1の「勘違い」とは

2024年5月8日(水)4時0分 JBpress

 社員の主体性・自律性の向上を促し、定着率を高めるなどの狙いから、多くの企業で「1on1ミーティング」(1on1)が導入されている。しかし、効果的に実施できている企業は一握りで、1on1を実施しているにもかかわらず、何も語らぬまま会社を辞めていく若者が後を絶たない。なぜ、1on1はうまくいかないのか? 今の若者は何を考えているのか・・・? 本連載は、1on1を核とした世代間コミュニケーションの問題を切り口に、職場の若者を多面的に分析した『静かに退職する若者たち』(金間大介著/PHP研究所)から、内容の一部を抜粋・再編集。若者世代の部下・後輩との1on1の前に知っておくべきことについて解説する。

 第1回は、大規模企業調査の結果から読み解ける、1on1における「よくある勘違い」を紹介する。

<連載ラインアップ>
■第1回 あなたが感じた手応えは「本物」か? 見落としがちな1on1の「勘違い」とは(本稿)
■第2回 なぜ、あなたの会社の1on1はうまくいかず、若者が去っていくのか?
■第3回 混同すると逆効果の恐れも? 知っておくべき「1on1」と「コーチング」の違いとは(5月22日公開)
■第4回 1on1に好意的で仕事に前向きな若者でも、あっさり退職してしまう理由とは?(5月29日公開)
■第5回 「演技」をするのは当たり前? 「今日は素で話し合います」のワナ(6月5日公開)
■第6回 上司が喜ぶように「予習」をしてくる若者たちに、どう対応すべきか?(6月12日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

■1on1の目的における「よくある勘違い」

 2021年9月に発表された、株式会社パーソル総合研究所の「人事評価制度と目標管理に関する定量調査」によると、1on1の平均時間はおよそ25分となっている(図表2-2)。

 この話をすると、「思ったよりも短い」という感想を頻繁にもらう。

 パーソルの当該調査は、全国の企業の人事部(主任クラス以上)や経営層・経営企画部など、自社の人的資源管理の全体動向について把握している800名、役職者3000名、役職のない従業員5000名を対象とした大規模なサーベイ(調査)であり、アンケートに大きなバイアスがかかっているとは考えにくい。

 考えられる点として、アンケートでは公式の所要時間を回答しているものの、実際にはもう少し長めにやっているのかもしれない。

 特に、ミーティングを始める前には、ある程度のアイスブレイクが必要な場合も多いため、「いやー、昨日まで出張だったんだけどさ・・・」と言っているうちに、時間がどんどん経過することなどが考えられる。

 ただ、後述するように、1on1の課題の1つに、上司やメンター側の時間不足が挙げられているから、アイスブレイクばかりしているわけにもいかない。

 先日ある人に、「1on1では、アイスブレイクばかりしている人も多い」という話をしたら、「本当にちゃんとアイスがブレイクできたら、もうその関係に1on1は必要ないかも」という返答をもらった。

「確かに」「うまいことを言う」と思った。

 が、皆さんはそう思ってはいけない。

 すでにここまで、かなりの紙幅(しふく)を割いて1on1の本質について議論してきたので、それを繰り返す野暮なことはしないが、現実として、いまだに1on1の目的を「仲良くなること」だと解釈している人が多い。

 単に人として仲良くなることと、何を言っても大丈夫、という安心感の下、本音ベースで話し合い、お互いの成長を促すとともに信頼関係を構築していくこととは全く異なる。僕の感触として、年齢が上がれば上がるほど、この区別がつきにくくなっている印象だ。

 逆に、今の若者たちにとっては、表面的なコミュニケーションをたくさんとったり、仲良く振る舞うことと、本音ベースで何かを話せることは、全くの別物と言っても過言ではない。

 今の若者たちの多くは、保険に保険をかけるような人間関係を構築している。わざわざ本音を話して、関係をピリピリさせるようなことはしない。若者にとっては、人間関係こそリスクそのものなのだ。

 そう考えると、1on1は本当にその目的を達成しているのかが気になるところだ。企業全体で見れば、膨大な時間と労力を投下しているわけだが、ちゃんともとは取れているのだろうか?

■目的がすり替わった「本末転倒の1on1」

 ということで、次は「1on1はもとが取れているのか問題」だ。ここも再び株式会社リクルートマネジメントソリューションズのデータから見ていこう。

 図表2-3は、1on1を導入している企業634社における、1on1の導入の目的を問うた結果だ。

 第1位の「社員の主体性・自律性の向上」と第2位の「自律的キャリア形成の支援」が際立って高いことが見てとれる。特に主体性・自律性は、調査対象企業の半数以上がチェックを付ける構造になっている。

 そもそも主体性の醸成は、一企業だけの問題ではない。

 例えば、「主体的な学び」という言葉は多くの人が聞いたことがあるだろう。文部科学省が教育の最上位に掲げる政策目標だ。

 僕自身、日本の多くの児童・生徒が「主体的な学び」を身につけたら、日本は全く違う国になると確信している。すべての児童・生徒の3分の1、あるいは5分の1でもいい、主体性を持って行動できるようになったら、この社会は大きく変わるだろう。

 ちなみに、その他の1on1の目的としては、「評価の納得性の向上」、「離職率の低下」、「生産性の向上」、「リモートワーク環境におけるコミュニケーション活性」など、比較的実務に直結するような目的が並ぶ。

 それでは、これらの1on1の目的は実際に達成されているのか。

 本来であれば、目的を問うた後に、全く同じ選択肢をもってそれらが達成できたかどうかも問うて欲しいところだが、「1on1ミーティング導入の実態調査」では、残念ながら別の選択肢を設定している。よって、ややズレが生じているが、それも踏まえて見ていくことにしよう。

 得られた効果のトップとして、「上司と部下のコミュニケーション機会が増えた」が断トツとなっている(図表2-4)。

 早速のツッコミで恐縮だが、これを効果として入れていいのかどうかは微妙なところだ。講義のコマ数を増やしたら勉強時間が増えた、廊下を長くしたら歩数が増えた、と言っているのと変わりない。

 もちろん1on1以外の時間でのコミュニケーション機会の増加も含まれるだろうから、それをもって効果と言いたい気持ちはわかる。が、やはり膨大な労力の割に合うか、と言えば怪しいところだ(そもそも主体性の向上や、自律的なキャリア形成はどこにいった?)

 調査結果では、第2位から順に「部下のコンディションの把握ができている」、「上司と部下が本音で話せる関係になっている」、「部下の成長が見られる」と並ぶ。これらは、もし本当に得られたとしたら、それなりの効果と言えるだろう。

 ただし、本当にこれらの効果が得られたかどうかについては、僕は怪しいと思っている。

 把握できたと思っている部下のコンディションや、本音で話せるようになったというその感覚の多くは、作られたものである場合も多いからだ。

 もしあなたが部下との面談後に次のような感覚を持っていたら、特に要注意だ。

  • 1on1のときはわかってくれたと思ったけど、日常業務を見る限り、特に変化は見られない
  • 1on1の後は打ち解けた関係になったと思ったけど、再び話してみると以前と変わらない態度だった

<連載ラインアップ>
■第1回 あなたが感じた手応えは「本物」か? 見落としがちな1on1の「勘違い」とは(本稿)
■第2回 なぜ、あなたの会社の1on1はうまくいかず、若者が去っていくのか?
■第3回 混同すると逆効果の恐れも? 知っておくべき「1on1」と「コーチング」の違いとは(5月22日公開)
■第4回 1on1に好意的で仕事に前向きな若者でも、あっさり退職してしまう理由とは?(5月29日公開)
■第5回 「演技」をするのは当たり前? 「今日は素で話し合います」のワナ(6月5日公開)
■第6回 上司が喜ぶように「予習」をしてくる若者たちに、どう対応すべきか?(6月12日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

筆者:金間 大介

JBpress

「勘違い」をもっと詳しく

「勘違い」のニュース

「勘違い」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ